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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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聖竜と薬草6



 オーガが完全に動かなくなり、周囲に魔物が近づいていないことを確認したところで、ようやく俺たちは一息をつけた。


 へなへなと崩れ落ちたのは、先に戦っていた冒険者たちだ。

 足から投げ出すようにごろんと転がっている。服が汚れるのもいとわないその様子に、どれだけ追い詰められていたのかよくわかった。

 

 近づくと、首だけを動かし、冒険者が笑みを浮かべた。


「……さすが、ベテランの冒険者だ。その弟子たちも……敵に恐れず突っ込んでいって……凄いですね」

「俺はまだ20です」


 冒険者は、オーガと戦っているとき以上に驚いた顔をしていた。失礼な。

 けらけらと笑うニンを一睨みしていると、冒険者が力を抜くように笑った。


「助かったよ、ありがとな」

「いえ……同じ冒険者として、助け合うのは当然ですよ」


 軽く握手をすると、彼はだらりと腕を下ろした。

 敬語ではなくなったことに満足していると、冒険者はティメオたちを見やる。


「……それにしても、若いのにすごいね。まったく物怖じせずにオーガに攻撃できるなんて」

「僕はもっと上をめざしていますから」

「ぷっ、オーガみたときちょっと足震えていたでしょっ」

「震えていませんよ」

「少し、震えていたぞ」


 ドリンキンが指摘すると、ティメオはふんとそっぽを向いた。


「うちのクランリーダーがいて、ビビるわけないでしょう」


 ティメオがそういうと、冒険者は俺のほうを見てきた。


「そうか。キミがクランリーダーか。いやあ、助けてくれてありがとう。よかったら、クラン名を教えてもらってもいいかな?」

「『白銀盾』です」

「そうか……うん? どこかで聞いた覚えのある……」

「り、リーダー! もしかしてそれって……この前新聞に載っていたやつじゃなかったでしたっけ!」


 はっとした様子で、彼らは顔を見合わせる。


「そ、そうだ! 確か、人相書きの顔もこんな感じで……名前は、ルードだ!」


 彼が嬉しそうにはにかんでいて、俺は照れ臭くて頬をかく。

 改めて強く握手をかわされた。


「いやな。おれたちはなかなか前に進めていない、まあいわゆるつまずいている冒険者なんだが、若い奴らがどんどん活躍しているのをみていたらな、まだまだ負けていられないと思ってな」

「……そうだったんですか。お互いに頑張りましょう」

「ああ。助けてくれてありがとう。確か、ポッキン村に向かっているんだったか」

「はい」

「今年は、例年以上に聖竜の群れが早くやってきたものでな。……どうにも、森を含めて騒がしい。俺もギルドに戻ったら報告するが、すでに、何度かポッキン村も魔物に襲撃されていると聞く。急いだほうがいいかもな」

「む、村が!」


 リリフェルが声をあげると、冒険者がびくりとそちらを見た。

 事情を伝えると、彼は申し訳なさそうに頭を下げてきた。


「すまないな。配慮にかけることを言ってしまった」

「いえ、そんなことありませんよ。知らなかったのですから、当然です。貴重な話を聞けて、よかったです。それじゃあ、俺たちは急ぎます」

「ああ。気をつけてな」


 その冒険者たちと別れ、俺たちはポッキン村へと向かっていく。

 冒険者の背中を見送ったところで、うずうずとしたリリフェルが俺の腕をつかんできた。


「し、師匠! 急ぎましょう!」

「ああ。わかってる。ただ、全員が同じペースで移動できるわけじゃない。きちんと、パーティーとして進んでいくぞ」

「わ、わかってます!」

「ティメオ、ドリンキン、ファンティム。ペースをあげるが大丈夫か?」


 ニンはそもそも、このくらい余裕でついてこれる。

 視線をかわすと、ぐっと親指を立てていた。

 ティメオも少し呼吸を乱していたが頷いた。


「なんとかついていきますよ」

「オレは、もともと田舎で過ごしたから、このくらいは問題ありません」


 ドリンキンは余裕そうだ。


「オレもだっ! リリフェルの故郷が危ないっていうなら、早くいかないと!」


 ファンティムは大丈夫だろう。……ティメオは歩きなれていなそうだったから少し心配だな。

 最前列を俺が担当し、突き進んでいく。

 多少、道が荒れている場所は、盾を使って無理やり道を進んでいく。


 ちらっと背後を見る。ティメオが遅れだしていた。

 彼が一番最初に疲れが出てきたか。


 もうすぐ森を抜け、峡谷の入り口に到着する。

 そこで、一度休憩を挟んだほうがいいだろう。


 それからさらに歩いて行き、途中の戦闘も最小限で済ませる。

 白色の山々が見えた。峡谷の入り口がぱっくりと開き、俺たちを出迎えている。

 中に入る前に、一度振り返り、


「ここで休憩を挟もう。さすがに疲れた」


 俺はそういってその場に座りこむ。

 手を地面に触れると、白色の砂が柔らかかった。


 この峡谷は雪山のように白い。

 別に雪が年がら年中振っているわけではなく、ここにある砂が白色なのだ。


 雪のようであり、その幻想的な光景は一年中雪が降っているようだ。

 美しい景色であり、ここを訪れる観光客が年々増えているとかいう話を聞いたことがある。

 ファンティムやドリンキンは感嘆の声をあげている。ティメオはそれを見る余裕がないようで、乱れた呼吸を整えていた。

 

 皆田舎暮らしが長かったことで、平地以外の歩きに慣れていたが、ティメオはそうではないようだ。

 それゆえに、真っ先に疲れが出てしまったのだろう。


 リリフェルはちょっとばかり不満げであったが、このまま歩いていくわけにもいかないと判断したようで、ぐっと黙り込んだ。


 それぞれ、水分を補給する。

 さすがにみんな静かだ。

 ニンだけは、寂しげな様子で肩を落としている。


「どうした」

「酒が終わっちゃったのよ」


 おまえはいつもそうだな……。

 水分補給といったら彼女は決まって酒だ。

 むしろ酒はトイレが近くなって、大変だと思うんだが、ニンは大丈夫そうなんだよな。

 まあ、酒は魔法の強化をしてくれるともいわれている。アルコールによる高ぶりが、魔法と相性がいいとか。

 ……とはいえ、戦場で飲みまくる人はいないだろう。


「……ティメオ、大丈夫ですか?」


 リリフェルがちらとティメオを見ていた。

 彼だけが、明らかに疲れている。


「へーき、ですよ、へーき」

「そのわりに、かなり声が疲れていますね」


 ティメオは考えるように顎に手をやり、それから小さく頭を下げた。


「すみませんね、急いでいるところ悪いですけど……僕はあまりこういう傾斜の多い場所は得意じゃないんですよ。こういうのは、はっきりいいますとあまり慣れていないんですよ」

「それなら、先にそういえばいいのに、見栄っ張りなんだからティメオは」


 はぁ、とリリフェルは嘆息をついた。


「別に。少し休めばすぐに行けますよ」


 ……ティメオなりに、リリフェルを気遣っているのだろう。

 だからこそ、なるべく俺たちにペースを合わそうとしてくれているのだ。


「それより、僕はニン様……ニンさんに驚きですよ。公爵家の三女で、聖女で……それでよくこんなに体力ありますね」


 様、とつけるなとニンに言われていたためか、ティメオは慣れない様子でそう呼んだ。


「ま、あたし昔からやんちゃしてたしね」

「……家にいたときからですか?」

「そうよ。……うーん、そうね。あれね、よく庭を走り回っていたわ」

「そんな可愛いものじゃないだろ」

「何よ、何か他にあったっけ?」

「おまえの部屋の窓、鉄格子ついてたろ」


 ティメオが驚いたように目を見開き、ぼそりという。


「……牢獄ですか?」


 ティメオの言葉に、ニンは「余計なこといいやがって」とばかりにこちらを睨んできた。

 だが、そんなニンの話が気になるようで、皆が視線を向けるものだから、彼女は困ったように頬をかきながら、


「あ、あれはそのー。ほら、あたしたちって外皮あるでしょ? 家抜け出すには、窓から飛び降りるのがちょうどいいのよ。外皮で受ければちょっとだけ痛いくらいですむでしょ?」

「……いや、そうわかってても精神的に挑戦はなかなかできないですよ」


 ティメオが驚きを通り越して呆れた調子で行ってきた。

 しばらくそんな風に話をしていると、リリフェルの気もまぎれたようだ。


 十分に休んだところで、ティメオを見る。

 彼もこくりと頷く。


「夜までにはポッキン村につこうと思う。ただ、苦しかったらすぐにいってくれ。一人までなら背負ってやるからな」

「それじゃあ、あたし頼もうかしら」

「おまえが一番元気だろ」


 ニンがぺろっと舌を出して立ちあがる。

 リリフェルが先頭を歩いていくと、白い砂に彼女の足跡が残る。

 ファンティムはその足跡に合わせてぴょんぴょんと移動していく。


 風が吹くと、まるで雪が舞うように俺たちの足跡に降りかかっていく。

 そんな雪景色のような峡谷を、俺たちは進んでいく。



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