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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第二章

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改めて

 


「だいたい、力はわかった。これなら、問題ないな」


 俺の言葉に、ラーファンはきょとんとした様子で首を傾げた。

 その瞳には緊張の色がありありと見える。

 さすがにそこまで気負う必要はない、と。


 先程ラーファンの力は見させてもらった。

 ラーファンはCランク冒険者として文句ないほどのタンクであった。


 というか、Cランク冒険者としてもかなりの腕だ。

 これならば、鍛えればスケルトン一体の注意を引きつけるくらいにはできるだろう。


「ラーファン、今回の特訓で最低限身につけてほしいのは、挑発の完璧な制御だ」

「……うん。たしかに。魔物一体だけを誘い出すのとかも、タンクの役目」


 ラーファンは表情をひきしめた。

 もしかしたら心当たりがあるのかもしれない。


 例えば、ゴブリンの群れを発見したとき、優秀なタンクがいれば各個撃破も可能になってくる。


 相手一体だけに挑発を発動し、おびき寄せる。

 そういった芸当ができれば、仮に魔法使いがパーティーにいなくても、安全に複数の魔物を処理できる。


 タンクにそのくらいはできてほしい、とある程度の力をもった冒険者はよく口にしている。


「それと、スケルトン一体を引きつけ、攻撃を食らわない程度の技術も身につけてほしい」

「……それはつまり、私もマリウスさんの訓練を受けるということ?」

「いや、違う。俺たちは直接48階層で訓練を行うつもりだ」

「……正気?」


 ラーファンが目に力を込めた。

 彼女の少しばかり責めるような目に、俺はこくりと頷く。


 そして、決して無謀ではないこと、またその訓練の必要性があることも告げる。


「まず、俺たち全員の訓練は本来、できるのであれば、全員48階層でやったほうがいいんだ」

「……それはどうして?」

「俺たちの攻略の目標は、51階層への到達だ。あと超えるべき階層は三つ。なら、その階層の魔物と対面して、実際の立ち回りを覚えたほうがいいに決まっている」

「うん」

「けど、それは危険を伴うから、マリウスはああやって、自分がスケルトンの能力を再現しているわけだ」

「なら、なんで私たちは実際に行くの?」

「俺たちタンクは複数の魔物を相手しながら、環境とも戦わないといけない。実際の敵の連携や、息遣い。それを把握し、相手に合わせて、対応を変えていく必要がある」


 それはアタッカーにも言えることだが、俺たちタンクのほうが影響する。

 複数の敵を見ながら、仲間の動きも見る必要があるからな。


「ここまで、48階層での訓練を必要とする理由だ。それから、比較的安全に戦闘できる理由は、俺のスキルもある」

「……例の、犠牲の盾、だっけ?」


 フィルドザウルスのときに話しているから、覚えていたようだ。


「ああ。これで、おまえへのダメージは受けられる。だから、おまえは敵をさばくのに専念してくれればいい。前回の調査で、俺は攻撃に参加しなければスケルトンの攻撃を受けきれることもわかっている。具体的な方針としては、俺はおまえを見守るのに専念し、敵が複数来た場合は俺が残りを受ける。数が増えてきたら、一階層に戻り、休息を行う。こんな感じだな」

「ダンジョンの移動は?」

「二人までなら、俺の魔法で移動できる。とりあえず、一度やってみないか?」


 ラーファンは考えるように顎に手をやり、それからこくりと頷く。


「たしかに、それなら問題はなさそう。問題があっても、すぐにあなたの魔法で帰還できるし」

「ああ、そういうわけで。一度行ってみよう」


 ラーファンがこくこくと頷いて、俺はマリウスに一言かけてからギルドの訓練場をあとにした。


 目指すは昨日行った迷宮入り口だ。

 と、そこにいくと、冒険者の男が立っていた。

 昨日俺を案内してくれた人と、もう一人いた。


 そちらの男はこちらをじっと見てから、ぷっと笑い出し隣の冒険者の肩を叩いた。


「おまえ、昨日のやつじゃねぇか! ホラ吹いていたパーティーリーダーの!」


 彼がそう言うと、俺の隣にいたラーファンが露骨に顔をしかめた。

 なんなら、シナニスのように噛みつきそうだ。


 ……好戦的な子だ。シナニスが普段暴れているから目立たなかっただけだったんだな。


 それを片手で制して、迷宮に入ろうとする。


「それでホラ吹き。今日も迷宮更新のために攻略にでもきたのか?」

「まあ、そんなところかもな」

「二人でか! はっはっはっ、頭おかしいんじゃねぇか!」


 それにしても、冒険者の間では結構広まっているようだ。

 決して悪いことではない、と思っている。これで迷宮攻略の階層を更新できれば、広がっていたホラ話が真実となる。

 そのまま俺の力の証明へとつながる。


 ラーファンの首元の青い鱗が明滅する。

 竜種の魔物が怒りを示すとき、似たような現象が見られる。

 まずいまずい。慌てて止めようとすると、


「おい、あんまり余計なことを言うな。すまないな」


 昨日案内してくれた冒険者がそう声をかけてくれた。

 彼も別に信じている様子はないが、それでも馬鹿にするような態度ではない。


 それで、ラーファンも少し落ち着いたようだ。

 俺は一礼をして、冒険者の横を過ぎる。


 バカにしたような笑い声を背中に受けながら、俺は一階層への階段を登っていく。


 俺の前をラーファンが塞いできた。

 彼女の金色の瞳は鋭くこちらをにらんできた。


「あなたはなんで怒らないの?」


 責めるような声音だ。

 対応を間違えればそのまま噛みつかれそうだ。


「俺だって気にしてないわけじゃない」

「それならなんで?」

「力の証明って自分でするものじゃない。その場で力を示して訂正させることはできる。けど、それって結局小物みたいじゃないか?」


 ラーファンはわずかに眉間に皺を寄せる。

 それで、まだ納得してくれたわけではないようだ。

 だから、俺はもう一つの気持ちも伝えることにした。


「それに……これからは特に、俺の拳一つに、重い責任がのしかかってくる。俺の行動一つで、クランの評価も変わってきてしまう。みんなが所属してくれるクランだ。いいクランをつくっていきたい」

「……」


 ラーファンは口を閉ざし、視線をさげた。

 別に納得してくれ、とは言わない、


 ただ、俺のような考え方もあるんだ、ということだけは把握してほしい。

 それが受け入れられるか、受け入れられないかは、ともかくとしてな。


「正直言っていい?」

「なんだ?」


 彼女は首元の鱗を何度か撫でるように触る。

 それから、わずかなため息とともに口を開いた。


「シナニスやアリカはルードさんのことを慕っていたけど、私は違った。もちろん、悪い人ではないし、冒険者として素晴らしいと思う部分もあったけどクラン所属を決定づけるほどではなかった」

「まあ……シナニスに合わせているっていうのはわかっているよ」


 アリカはその点、ラーファンよりはクラン参加を受け入れてくれているだろう。

 ラーファンは彼らと一緒のパーティーなだけで、それまでだった、というわけだ。


「けど、あなたの考えを聞かせてもらって、私も決めた、あなたについていこうと思う」

「……そう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ。ありがとう」

「ただ、別にずっといるとも限らないから。クランが人を選ぶように、私もクランを選ばせてもらう」

「……ああ、わかってる。これからもずっといてくれるようなクランを作ろうと思う」


 ラーファンはこくりと頷いた。

 クランに参加している冒険者は、ギルドを通して国に報告する必要がある。


 その報告をしたところで、クランへの参加が確定する。

 まだ俺のクランは出来上がっていないため、今のラーファンたちは仮メンバーに過ぎない。


 今回の攻略を通して、愛想をつかされないとも限らない。

 頑張らないとな。


「改めて、よろしくお願い」


 ぺこりと彼女が頭をさげてきた。そう改められると照れるものがある。


「こちらこそ、よろしく頼む」


 彼女の差し出してきた手を握り返す。

 それから、俺たちは48階層へと移動した。


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