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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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魔剣1


 世界会議が開かれるまでは、自由に生活していていいそうだ。

 俺たちは一度アバンシアへと帰還し、久しぶりの休息をとることにした。

 町を見て回るか。


 迷宮が発見され、クランができあがってからもうずいぶんと経つな。

 ……すっかり、俺の知っているアバンシアとは景色が変わってしまったな。

 嬉しいんだけど……うれしいんだけど、少し寂しい部分もある。


「あっ、る、ルードさん。お久しぶりです!」


 声をかけてきたのは冒険者だ。少し緊張した様子だ。


「ああ、久しぶり。どうだ、アバンシアの迷宮は?」

「は、はいっ! すっごい狩りやすくて、結構外皮のほうが強化できましたよ!」

「そうか。それはよかったな」

「そういえばルードさん……クーラスの街のときはありがとうございました!」

「……クーラスの街のとき? えーと……」


 どこかで会っただろうか。まずい、まったく思いだせない。


「ああ、別に俺は直接会ってないですから覚えていないのも無理はないですよ! 俺たちは、絶望するしかなかった冒険者の一人なんですから! けど、ルードさんが来てくれて、みんなで団結して魔王を撃退できました……もう、冒険者として、あの場にいられたことが本当にうれしくてうれしくて!」

「……そう、だったのか。あのときは、一緒に戦ってくれてありがとな。助かったよ」


 たかが、一人ではあるが、あの場ではその一人の力が大きかった。

 きっと、誰か一人でも欠けてしまっていたら、クーラスの街は落ちていただろう。

 俺の言葉に、彼は感極まったように腕を顔に押し当てた。な、泣くな!


「俺もいつかルードさんのように強い冒険者になりますね! ……ところで、ルードさんのクランって大々的に人を募集とかってしてないんですか?」

「……一度新聞記事にはのせてもらったが、そういえばクラン説明会とかに参加したことなかったな」

「やっぱり、新聞だと読まない人も結構いますからね。冒険者ですとなおさらですし。……る、ルードさん、俺もルードさんのクランに入りたいんです!」


 目をきらきらと輝かせ、彼は言ってくる。


「……そうか。別にくるものを拒むつもりはないよ。ただ、問題だけは起こすなよ?」

「は、はい……わかっています!」

「まあ、あとでクランハウスにでも来てくれ。そこで正式に名前や能力証明書の管理などは行うからな」

「わかりました!」


 嬉しそうに彼が頭をさげ、去っていく。

 そんな俺たちのほうを見ていたのか、冒険者たちがぼそぼそと話をする。


「……ルードさんのクランって、募集してたのか?」

「そ、そういえば新聞にかいてあったかも……」

「これから、あのクランはどんどん大きくなっていくぞ……? 今のうちに入っておけば、女の子への自慢に使えるかも……」


 おいそこのおまえ。俺が下心満載の男をちらと見ると、彼は口笛を吹いて誤魔化した。

 ……そうか。そういえば、正式にギルドなどに募集の話はしていなかったな。

 まあ、それでも新聞を見たリリフェルたちのように来てくれた人もいるが、あくまでそれは本当に僅かなんだろう。

 そういえば、記事にも募集に関しては俺のインタビューの文章の中に入っていただけだ。見出ししか見ていない人とかは、知らなかっただろう。


「る、ルードさん! 俺も入れてくれ!」

「ルードの兄貴!」

「ルード様! おいらも入りたいでやんす!」


 冒険者たちが、我先にと迫ってくる。こ、ここですべてを捌くのは厳しい。

 魔物たちよりも厄介な連続攻撃を仕掛けてくる冒険者を俺は両手で押し返す。大盾を持ち歩いていたら、楽だったかもしれないが、あいにく今は剣しか持っていない。

 

「わ、わかった……よっぽどの問題児以外は入れるから、あとでクランハウスに来てくれ。そこにいるメンバーに話をしてくれ」


 ヒューを使い、クランハウスにいるマニシアやルナたちに情報を共有しておく。

 二人が判断して、問題がなければ大丈夫だろう。


「よーしっ! すぐに教会いって、クランハウスに向かうぞ!」


 おー! と冒険者たちが叫び、ひとまず俺は解放された。


「凄い騒ぎでしたね、ルードさん」

「……シュゴールか。いたんなら助けてくれよ」

「いやぁ、だって、むさ苦しかったですし」


 シュゴールはそういって、笑う。

 

「それにしても、街に戻ってきていたんだな」

「そういえば、ルードさん。相変わらず派手に活躍しているみたいですね」


 くすくすと笑う彼も相変わらずの様子だ。


「お前はどうなんだ? 最近、あまり町にいなかっただろ?」

「ええ、まあ。聖誕祭の準備でしばらく大聖堂のあるビビットに行っていましたからね」

「そういえば、ニンもそんな話をしてたな」


 毎年この時期に、教会主催で行われる聖誕祭。神がこの世に誕生したという日だからだそうだ。

 そこで祈りをささげることで、迷子になってしまった魂がきちんと神のもとへと行けるらしい。例えば、グールやゾンビといった魔物になってしまった死体とかが、そこで浄化される、といわれている。


「新しい聖女の発表もあるんですよ。今年からは三名体制で行くそうですよ?」

「……そうなんだな」

「さすがに、今の時代一人でやるのは厳しいですからね。これからは、人数を増やすというわけです」


 ……そういえば、冒険者たちもそんな話をしていたような。

 聖女というのは、能力はもちろんだが、まるで容姿で選んでいるかのように皆綺麗な人たちだ。

 綺麗な人となれば、冒険者の男連中が話題にしないわけがないんだ。


「詳しい話はニン様から聞くといいですよ。今頃、教会にいるのではありませんか? 行きます? 案内しますよ?」


 シュゴールが教会のほうを指差す。

 しかし、今は仕事中だろう。


「邪魔になるんじゃないか?」

「そんなことはありませんよ。むしろ、ニン様も喜びますよ」


 ニカっと笑うシュゴール。あまり彼の言葉はあてにならないんだが、一応近くまで行ってみるか。

 教会へとたどりつくと、能力証明書をもらいにきた冒険者であふれていた。誰のせいだ。俺か。

 それはもちろん気になるのだが、どうにも教会騎士たちも様子がおかしい


「……教会騎士たちの目つきが違うな」


 いつも以上に気を張っているように感じた。


「ああ。そのいくつかありまして……まあ、別にルードさんなら隠す必要もありませんか」

「……いいのか?」

「はい。一つは、魔剣ですね」

「……魔剣?」

「……はい。いくつかの町で現れたという魔剣です。まるで意思でももっているかのように飛び回り、街を移動しているそうです」

「それはわかるが、アバンシアに関係するのか?」

「するんですよ、それが。近くの街で確認されたわけでして。次はこの町に来るのではないかという話がありましてね。我々教会騎士としては、呪いの類から市民を守る義務がありますからね」


 なるほどそれが一つの理由か。

 それにしても、魔剣か。この町には来ないで欲しいものだ。

 教会の中を歩いていき、関係者たちしか入れない奥へと向かう。


「それで、もう一つは?」

「この町に次の聖女候補様がいるんですよ」

「……なんだって?」

「まあ、これはあくまで極秘なんで他言無用でお願いしますね。あと、何か聖女様にあったら助けてくださいね」


 なるほど。いざというときに俺を使うために教えたってわけか。

 シュゴールが一つの扉の前にたち、ノックをする。やがて、扉が開くとニンが現れた。今日は教会の制服に袖を通している。


「あら、ルードにシュゴールじゃない。どうしたのよ?」

「まあ、ちょっと近くまで来たから顔を出したんだ。何も異常はないよな?」

「ええ、大丈夫ね。それじゃあ、あたしもそろそろ聖女の仕事は切り上げて、クランに行きましょうかねぇ」

「……あなたが、ルードさんですか」


 ニンの奥から、一人の女性が姿を見せた。修道服を身に着けた彼女は、何よりも目に付いたのは褐色肌だ。珍しいなこの国では。

 黒髪を右側に縛ってまとめ、肩のあたりにちょこんと載せている。茶色気味の瞳は、ジトリとこちらを見ていた。


 修道服ということは、修道院の子か。……どこかの貴族の令嬢だろうか。花嫁修業のために修道院に行く人は多かったはずだ。……それか、親を亡くした子のどちらかだろう。

 多くの人が思わず振り返りそうな容姿にも関わらず、顔は怖い。俺に対して、怒りのようなものを抱いているようだ。


「こら、ベリー。さっきも話したけど、ルードは関係ないんだから――」

「そんなことはないはずですっ! ニン様が聖女をやめたがっている、原因なんです!」

「やめる原因って……」


 ベリーとニンに呼ばれた彼女は、肌に僅かに赤みを混ぜながら腕をぶんぶん振り回す。


「ニン様はあなたに惚れたばっかりに! お、女たらしー!」


 何を言い出すんだこいつは。シュゴールがニヤニヤとこちらを見てくる。笑ってないで助けてくれ。


 俺とニンは一度目が合う。気まずい。さっと、お互い顔をそらしていると、ベリーが口を動かした。


「あ、あなたなんかバーカ! あ、ああ、でもニン様が惚れたってことはニン様はこの人と一緒にいて幸せってことですよね……その方にバカというのは失礼? あぁ、でも、認められないの、認めたくないよぉ! ニン様は私の憧れなんだからぁ! うぅ、もうどうしたらいいのぉ! わっかんない! 私、散歩行ってきます! 末永くお幸せにっ! でも……あーもう!」


 彼女はぶんぶんと髪を振り回してから外へと走り出した。

 なんだあいつは。残された俺とニンはお互いに気まずくなり、それからニンがぽつりともらす。


「そ、その気にしなくていいわよ? あの子、ベリーっていってね。そのちょっと変わってる子だから……うん」


 変わっているというか頭が少し……その。


「まあ、それは、その、なんとなくわかったというか」

「それじゃあ、お二人でごゆっくりー」

「まて」


 シュゴールまでもこのまま退散しようとする。こいつ鬼か。

 シュゴールの肩を掴むと、彼はそれでも逃げようとする。


「そんな。僕には二人の大切なお時間を邪魔するなんてできませんよ! 別の仕事もありますから! あっ、何かするんでしたら中でどうぞ! その部屋は音が外に漏れにくい作りになっていますから!」

「変なこと言ってんじゃない。俺はもう、帰るからな……っ。また、あとで!」


 俺は恥ずかしくてその場にいられず、教会から逃げ出すように離れた。



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