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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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ルナとアリカ3


 洞窟から離脱したアリカたちは、そのままセインリアの背中に乗る。

 セインリアもすっかり慣れた様子で飛び上がり、翼を大きく広げる。


 ヒューとセインはセインリアの背中で追いかけっこしながら話をしている。アリカとルナはその様子を横目に見ていた。

 飛行が安定したところで、アリカがすっとルナに頭を下げた。


「すみませんでしたお姉様! 私の感知魔法では敵を見つけることができませんでしたっ。危ないところでした!」

「それは仕方ありません。人それぞれ、出来ること、できないことがありますからね。……それよりも、私はアリカ様の判断のほうが気になりました」


 ルナが少しだけ目を釣り上げた。

 アリカはしゅんと肩をさげる。


「……そうですね。すみません。あのとき、用意した魔法に気づいていたんですよね」

「何を用意していたかまではわかりませんでしたが、あの場面で発動できない魔法を最初に準備してしまったんですよね」

「……はい。障壁魔法です」

「障壁魔法、ですか。敵がどこにいるかわかりませんが、とりあえず発動だけはしてもよかったと思います。障壁魔法は防御だけではなく、敵の進行を一時的にではありますが妨害できるスキルでもありますからね」


 ルナの言葉に、アリカははっと目を見開いた。

 あの場ではすぐにその判断もできなかった。


「もちろん、使う場合は私に報告が必要ですから、正しいとまではいえませんけどね」


 ルナは少しばかり不安げにそういった。


「……すみません」


 反省ばかりで頭を下げていると、ルナがそっとアリカの頭に手を乗せた。


「……アリカ様は、知識は十分あります。色々なことを知っていて、その場の状況に対応できるだけの知識があるんです。……ですから、一度行動する前に深呼吸をするといいと思います」

「……お姉様」

「先ほどの、火魔法は助かりました。……ああやって、状況に合わせた戦い方ができるのがアリカ様の素晴らしいところ、なんですから……ってわ!」


 アリカがたまらずルナに抱きつくと、それでセインリアの上が揺れた。

 セインリアがそれに合わせ、うまく体を動かしている。


「私、もっと頑張りますねっ。もっと、もっと知識をつけて、その知識をうまく使えるようになります!」

「……はい」


 しばらくアバンシアに向かって移動していた。

 アリカは先ほどの戦闘を何度も脳内で繰り返し、次に同じ状況が起きた時の想像をおこなっていた。

 一度その想像を中断した彼女が目を開き、ルナとぶつかった。


「アリカ様。最近元気がありませんでしたが、それも理由のひとつですか?」

「へ、え? 私、元気なかった、ですか?」

「……違い、ましたか? 時々、元気がなさそうに見えましたが」


 ――隠していたつもりだったのにな。

 アリカは心中で小さく呟き、けれど同時に口元を緩めていた。

 気づかれてしまったことは反省点だったが、そこまでルナが見てくれていたことが素直に嬉しかったのだ。


「……そう、ですね。最近、シナニスやラーファンが成長しているのをみて、負けていられないって思っていたんです。ほら、私、才能なくって。だから――」


 そのとき、ルナがぎゅっとアリカを抱きしめ、その背中を撫でた。


「アリカ様。自分をそう落としてはダメです」

「……お姉様」

「アリカ様が色々と頑張っていることは知っています。それに、魔法だって、決してレベルが低いなんてことはありません。それに、何より……最近はいろいろなスキルが発現しそうになっています。……本当に色々と手をつけているんですね。『薬師の心得』、『棒術』、『罠探知』……他にもいくつもありますよ」


 ルナが柔らかな微笑みを浮かべ、それにアリカは口をぎゅっと結び、首肯を返した。


「……はい。私は、戦いではやっぱりみんなよりも一歩遅れていると思っています。だから、パーティーに貢献できることって何かないかなっておもって、雑用みたいなこと色々できるようになったほうが便利かなって。そりゃあ、専門的な人よりかは微妙かもしれませんけどね」

「……大丈夫です。それに、まだまだ才能があります。……これから、一緒に頑張っていきましょう」

「……はい。お姉様」


 ルナの体にぎゅっとしがみつき、アリカは目を細めた。

 彼女の胸は今日も柔らかい。


 それから、二人はアバンシアに戻るまで、洞窟であったことをまとめていた。

 主な話は以前のシナニスの報告ではあがっていなかった生態系の変化についてだった。


 アバンシアに到着する頃には、内容はまとまっていた。ルナがその報告のためにギルドへいき、アリカは解散ということで、クランハウスに移動していた。


「アリカ、依頼はどうだった?」


 入ってすぐの席についていたルード。その近くでは、魔法の訓練をしているファンティムとシャーリエ、それを見ているティメオもいた。

 

「いいですか。呼吸するように魔法を撃てるようになれば、戦闘中でも構わずに使用できるようになりますよ」

「うへぇ、ティメオ兄ちゃん。オレもう疲れたよー」

「私もー。ルードさーん、食事行きたーい」


 二人の様子に、ルードが苦笑する。アリカのほうに両手をあわせ、ルードはそちらに顔を向ける。


「ティメオ先生、どうする?」

「……この魔法を使えるくらいにはなってもらいませんとね。というか、ルードさんは甘やかしすぎです。僕なんてあれですよ。魔法習得するまで、食事抜きは当然、全身ボコボコになるまで殴られていたんですからね」

「ティメオのそれは異常なんだ。別に厳しくしなくたって覚えるやつは覚えるし、覚えないやつは覚えない。二人が、やる気があれば、きちんと覚えられるはずだ。覚えられなかったら、まあ、それまでっていう話だ」


 ちらとルードがファンティムたちを見ると、彼らは顔を見合わせ、拳を固めた。

 それから、再び魔法の練習を始めた。ティメオは口元を少しだけ緩め、そんな二人に教えていく。


「悪いなアリカ。疲れているのに待たせて。……もう今日はこれで終わりか?」

「はいっ。それと、あとでお姉様から報告があるかもしれませんが、生態系の変化など近くの洞窟で見られました」

「……そうか。ありがとな。あとは、ゆっくり休むといい。最近、張りきっているみたいだしな」

「……はい」

「体を壊すほど無茶はするなよ」


 ルードの言葉に、アリカは小さくうなずき、奥へと向かう。

 それから彼女は簡易的な浴場へと向かう。シャワーヘッドを掴み、そこに魔法を込める。


 シャワーに関しては、迷宮より持ち込まれた技術だ。シャワーヘッドの部分に魔力を込めることで、程よい温度の湯で体を洗うことができる。


 魔法が使えないとなかなか使いにくく、現在は魔石だけで使用できないかと研究が進められている。

 町には大浴場があり、そこにも似たような設備がある。さらに、月に一回程度は全員で魔法を使い、大きな風呂を使えるようにすることもある。


 クランハウスにあるものは一人用だが、家庭にあるものと考えれば立派だ。

 鼻歌まじりに体を洗いながら、落ちてくる湯に言葉を乗せる。


「……私、強くなれてるのかな」

「ひゅ?」

「わっ、ヒュー! どうしてここにいるのよ」


 風呂場にいたのはヒューだ。液体に混ざるようにヒューがいた。本体かどうかもわからないが、ヒューは町中あちこちにいる。そのため、ある意味どこからでも連絡ができるということで、町内では非常に便利だった。


 ヒューがぴょんとシャワーヘッドに乗って、そこからお湯を吐き出した。


「……ほんと、便利ね。私ができること、だいたいできるんじゃない?」

「ひゅひゅー」


 それは無理、とヒューは首を振る。

 ヒューたちスライムの体には殺菌効果がある。それを強めることで、対象を溶かし、吸収することができる。

 ある程度自由に調節ができるため、体を洗う石鹸がわりとして利用することもできる。


 石鹸に関しては、現在町に滞在するホムンクルスたちが制作に取り掛かっている。彼らの中には、研究者に匹敵するほどの知識を保有している人たちもいて、みな自分の立場を確保していた。


「……ありがと」


 アリカは小さくお礼の言葉を言った。

 それからしばらく経ったところで、シャワールームが開いた。

 全部でシャワーヘッドは三つある。小部屋のようなシャワーヘッドのついた場所が三つあり、その背後に浴槽が置かれている。


 普段は男女でわけている。今の時間なら女性の利用時間であるため、いるのは女性となる。

 

「ヒュー、誰?」

「ルナです、アリカ様に会いに来ました」


 ルナはシャワーを浴びる時、いつも薄い服を身につけていた。その裸身までは見えなかったが、ぴたりと張り付いた彼女の体を、アリカはボーっと眺めていた。

 見とれている場合ではないと首を振り、アリカは口を開いた。


「どうしたのですか?」

「少し、確認していました。……アリカ様のスキルを鑑定したときにですが、『精霊術』というのが見えました。……そこで、ギギ婆に確認したのですが、アリカ様は精霊が見えているのではないかと話してくれました」

「……私が精霊を? ぎ、ギギ婆がなんでそれがわかるんですか?」

「ギギ婆はクォーターですが、エルフの血が入っています。ですから、多少はわかるそうです」

「……そうなんですか?」

「マスターに、確認しました。ギギ婆のポーションの効能がいいのも、すべて微精霊に協力してもらっているからだそうです。『精霊術』とは、そういうものらしいのです」

「……はい。薬師にエルフが多いのはそれが理由、ですね」


 それはアリカも知っていたため、こくりと頷いた。


「やっぱり、そうなんですね。……それで、精霊術はどうやら攻撃などにも使えるようです。ギギ婆はあまり戦闘は得意ではないそうなのですが、それに適任のエルフの知り合いがいるそうです」

「そうなんですか……?」

「はい。ギギ婆の義娘さんです。話は通しておくから、あとで訊ねてみてはどうかと話を頂けました」

「……それを、私のために、ですか?」

「もちろんです。私はアリカ様の指導を任されていますからね」


 ルナがはにかむ。それにつられるように、アリカの頬も緩んだ。


「ありがとうございます!」


 彼女がぴょんとルナに飛びついた。

 それには喜びを表す意味もあっただろうが、それ以上に下心があっただろう。彼女の頬はだらしなく緩んでいて、ルナの柔肌を堪能しているようだった。


「……私、頑張りますね!」

「……はい。私も協力しますね」


 ルナとアリカは笑みをかわしあった。

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