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最強タンクの迷宮攻略  作者: 木嶋隆太
第四章

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竜族の里5


 出てくる魔物は、スケルトンやゾンビといった魔物たちばかりだ。

 ラーファンはそれを意にも介さず仕留めていく。

 ほっとした様子で息を吐きながら、彼女は歩いていく。


「以前、来た時はどうだったんだ?」

「……私、最初は頑張ってみたけど怖くて、ダメだった」

「この前の訓練がこんなところで生きるとは思わなかったな」

「訓練もあるけど、今はルードさんが隣にいるから」


 えへへ、とラーファンが無邪気に笑ってみせる。

 ……そういうこと言わないでくれ。照れるから。どうやらラーファンは自分の発言に特に気づいていないようだ。

 ラーファンはすぐにぷいっと前を向いて、少しだけ早足で歩いていく。


 と、天井からぽたぽたと液体が落ちる。 

 俺たちがその後ろを過ぎていったとき、背後に気配を感じた。


 反射的に剣を振りぬくと、人型のスライムがそこにいた。

 そいつは全身液体であったが、右手を剣のような形にしていた。

 男のような姿をしたスライムと何度か剣で打ち合う。技術は相手の方が上だが、途中で大盾に切り替えて殴りつける。


 よろめいたスライムへ、ラーファンが飛びかかり、剣を叩きつけると、スライムの体を両断する。

 その体内にあった核を破壊し、ラーファンがほっと胸をなでおろした。


「大丈夫だった?」

「ああ、俺の心配はしなくていい」

「……けど、道中は倒す予定だったから」

「パートナーなんだから、このくらいは協力するものなんじゃないか?」


 俺の言葉に、彼女は一度目を見開いてから、その目元を緩めた。


「……そう、かもね。でも、ルードさん強すぎるから。頼りきりにならないようにしたかった」

「……こっちも前には出ない。あくまで、自分を狙って来た敵だけと戦うようにするつもりだ」

「うん、お願い。もどかしく思うこともあるかもしれないけど」

「そんなことはない。自分のペースで慌てずにな」


 途中休憩をはさみながら、洞窟を進んでいく。順路に関しては一本道なので迷うようなことはない。

 戦闘を繰り返していく。


 彼女が主に戦い、俺は後方でそれを見守る。時々、俺たちの背後から魔物が襲いかかってくることがあり、そのときは俺も戦闘に加わる。あくまで、補助やラーファンに指示を出してもらって動くようにしていた。


 ここの魔物は迷宮内のように魔物が出現して襲いかかって来ているようだった。

 黒竜が作り出しているとかなんとか門番は言っていたな。ファンティムのスキルのような幻影を生み出しているのかもしれない。


 そんな疑問を抱きながら、進んでいく。

 ラーファンが額の汗を拭う。

 先程から連続で戦闘を行なっているし、疲れもあるだろう。


 彼女の母の言葉が脳裏をよぎる。

 黒竜と話すときは体力的な部分でも余裕を持っていた方がいいだろう。

 そうすれば、心の余裕も生まれるはずだ。


「この先……みたい」


 古びた看板が傾いた状態で置かれており、この先黒竜と書かれていた。緊張感のないものだ。


 その看板を信じて、俺たちは周囲を警戒しつつそこで一度休憩をとることにした。


 お互い、転がっている岩を椅子にして持ち込んで来ていた飲み物を口にはこぶ。

 ラーファンはずっと、道の先を見ている。

 暗くて洞窟の先は見えないが、そちらに、竜がいるはずだ。

 

 強い魔力のようなものが感じ取れた。

 意識すれば、緊張もするはずで、ラーファンからはその様子が見て取れた。


「ラーファン。大丈夫だ。おまえならきっと問題なくこなせるはずだ」

「……けど、私。まだやっぱりスケルトンとか、怖いって思う時がある。だから、今日はルードさんと一緒に来てもらった」

「……まあ、そうだよな」


 すべてが全部、解決したわけじゃないだろう。


「けど、おまえは確実に前に進んでいる。実力だって、かなりあがっている」


 これまでの戦闘を見た限り、彼女はすでにCランク冒険者の域を超えている。それだけの実力を持っているのだから、もっと胸を張ってもいいだろう。


「そう、だったら……ルードさんの弟子でも恥ずかしくないかな」

「ああ。おまえは俺の一番弟子だ。まあ、あんまり指導できていないし、師匠面するのは少し変かもしれないけどな」


 冗談めかしてそういうと、ラーファンは首を振った。


「細かいところで、色々と教えてもらっている。ルードさんのおかげで、私は強くなれたよ」


 ありがとう、と彼女はいって立ち上がる。


「もう、大丈夫。行こう」


 ラーファンの言葉に合わせ、俺も立ち上がる。

 彼女とともに最後の道を進んでいく。

 まっすぐ進み、俺たちはそこにたどり着いた。


 これまでのような迷路のような通りとは違い、大きな部屋のようになっていた。


 声が響くと、周囲が突然光を放つ。壁や地面にはそこかしこにさまざまな色の魔石が埋め込まれ、溢れでる魔力を吸い込み、明滅を繰り返していた。


 それらがうみだす幻想的な景色に一瞬見とれながらも、俺たちはそれにばかり気を取られているわけにはいかなかった。


 大きく翼を広げたのは黒い竜だった。

 以前戦った邪竜とは違い、美しいと思える色をしていた。

 その姿は、セインリアに酷似していた。


『よく来たな、人間と我が血を分けし竜族よ』


 声がして、驚いた。発しているのは目の前の竜で間違いなさそうだ。


「黒竜様……改めて、こうして出会えたこと、嬉しく思います」

『そう硬くなるでない。おまえたち竜人族は我の子のようなものだ。我の名は黒竜ブラックル。気軽に、ブラッくんとでも呼べばいい』


 いや呼べるか。ラーファンは恐れ多いと首を振っている。ラーファンからすれば王様みたいなものだろう。

 からからと笑う。男のような渋い声だ。性別的にはオス、なのだろう。

 片目は鋭い傷がある。そればかりではなく、体のあちこちに傷が見えた。彼がこれまでどれだけの戦いに参加してきたのか、それがその体に残った傷なのだろう。

 俺が一歩下がると、黒竜はこちらを見た。


『人間。名をルードといったか』

「……はい。どうしてそれを?」

『竜の交友関係を舐めるでない。未熟者の竜から聞いた』

「……セインリア、ですか」

『ああ。助けられたそうではないか。まったく、今の白竜たちは軟弱なものだな』

「……セインリアも知っているのですね」

『当たり前だ。我々色竜は仲が良いからの。時々、共に空中会議を開くこともある』

「……そうだったんですね」


 と、黒竜はこちらをじっと見てきた。


『白竜たちが認めた男。一度この目で見て見たかったのだが、なるほどな。たしかに、かなりの実力者のようだ。どれ、一度戦わないか? 我はセインリアよりもずっと強いぞ? よき戦いができると思うが』

「……今日はラーファンの付き添いですから」


 冗談じゃない。よき戦いどころか俺が死ぬ。

 邪竜となったセインリアの強さを知っているからこそ、絶対にこの竜と戦うつもりはなかった。


『なるほどのぉ。まあ、いろいろと話したいことはあるが、今はそちらの竜人族だな』


 彼の目がこちらを見据える。

 ラーファンがどきりとした様子で体をびくつかせた。


『なぜ、竜化を求める』

「……仲間と、クランのため。みんな、試行錯誤を繰り返して、より強くなろうとしている。私だけ、置いてけぼりは嫌だから」

『なるほどな。その身で、力を求めることがどれほど危険なことだとわかっていても、か?』


 その身……混血のことだろう。

 ラーファンはしかし、黒竜のその厳しい目を正面から見つめ返した。


「……はい。里のみんなにも、見せたい。私はそのために、ここにいる』

『そうか。どうして、パートナーを指名してこの場に来てもらっているか、その理由はわかるか?』

「……どうして、でしょうか」

『それは、おまえが暴走したとき、パートナーが片付けられるようにするためだ』


 ……嫌な予感がした。

 そういって、黒竜はにやりと笑みを浮かべる。

 同時に、咆哮が響いた。濃い魔力が周囲にあふれ、それがラーファンの体を飲み込んだ。

 魔素か!?


「どういうことだ黒竜!」

『竜化の力を授けるというだけだ。その力に、おまえ自身が耐えられるかどうか。見ものだな』

「く、あああ!?」


 魔素で、邪竜となってしまったセインリアのことを知っている俺は、その状況に焦る。

 どうにかラーファンを助けようとするが、それより先に黒竜が魔素を送り込んでしまう。


『竜化の力は魔素によるものだ。それを受け入れ、制御できるだけの力を持っていなければ、竜化はできない』


 ラーファンが悲鳴をあげる。

 その全身を覆っていた魔力が消えると、ラーファンがその場に倒れた。

 これは失敗なのか……っ?


「いきなり、こんなやり方はないだろう……!」


 苛立ちを込めて、黒竜を睨みつける。


『ここにきた時点で、決意は固まっているはずだ。いきなり、ではないだろう』

「だとしても、だ」

『仲間をやられると、随分と怒りをためるようだな』

「当たり前だろ……っ」


 黒竜が挑発してきているのはわかっている。それでも、俺はそいつを睨み続ける。

 と、ラーファンの体がぴくりと動いた。

 その体から強い魔素があふれていた。


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