090 盗賊退治3
捕らえた盗賊が13人、保護した民が63人。
幸い、奴隷として連れていかれた人はおらず、攫われた人たちは全て保護できた。
しかし盗賊たちにより1つの集落が全滅させられ、3つの村や集落が被害を受けている。
その他にも街道で商隊が幾つか襲われているので被害は多い。
「ご領主様、助けていただきありがとうございます」
保護した民の代表として40歳ほど大柄な男が俺に礼を言ってくる。
その大柄な男に合わせて保護した人々が頭を下げる。
戦争用の戦闘奴隷と性奴隷にする予定だったので男たちは体が丈夫そうな人たちだし、女性は若い人が多かった。
「あのような輩をのさばらせたことにより皆に苦労をかけた・・・家財を失った者もいるだろう、家族を亡くした者もいるだろう、私にできる限りの援助はしよう・・・」
「・・・ご配慮、感謝いたします」
かける言葉もないというのはこのことだ。
彼らの顔には憔悴感が漂い、俺が慰めの言葉をかけるだけでは心の傷は簡単には治らないだろう。
改めてこういう民を見ると聖オリオン教国の愚行を放置するわけにはいかないと思う。
盗賊はともかく、保護した民の数が多いのでフェルク砦に応援を要請する。
盗賊がアジトにしていた洞窟に居るのも良かったのだが、保護した民たちが早く洞窟を離れたいと言うので夜明けを待ってフェルク砦に向けて移動を開始した。
フェルク砦からの応援部隊と合流したのは午後3時を回った頃で、そのまま民の護衛をしてフェルク砦へ向かう部隊と盗賊のアジトになっていた洞窟へ向かう部隊に分ける。
盗賊のアジトに向かった部隊の任務は死体の処分と蓄えられた金品を含む物資の回収だ。
盗賊の死体を放置すれば死霊化する可能性が高いし、物資は回収して被害を受けた人々に少しでも返還するためのものだ。
保護した民を乗せる馬車が用意されていたので移動は意外と早く済み2日目にはフェルク砦に到着した。
ここで俺はウィックに後を任せる。
「物資のことは気にしなくて良い。保護した人々の暮らしが立つようにしてやってほしい。希望があればイーストウッドに住居を与えてもいいし、家族を亡くした者も多いだろうから対応には十分に配慮してほしい」
ウィックは強面で戦場では鬼神の如き働きをするのだが、管理職として事務仕事も卒なくこなし使える男だ。
しかも戦場では敵には容赦しないサディストというか、殺戮者的な男なのだが、平時は極めて温厚なのである。
その風体からは想像できないけどね。
「勿論です。して、盗賊共の処遇は?」
「しばらくは投獄だね。奴らの後ろには聖オリオン教国がいるから注意するように」
「はっ!」
フェルク砦の一室であの女神像を取り出す。
この女神像を神眼で見て書き込まれている魔法陣を確認する。
書き込まれているのは魔力の隠蔽と一定の周波数の音波を出していることが分かる。
まさかこの世界で音波を使ったマジックアイテムがあるとは思わなかった。
しかも魔力の隠蔽に関しては俺の魔力感知をも誤魔化せる高性能な仕様だ。
この世界の魔法陣の知識ではこれほどの魔法陣を書き込めるとは思えないし、こんな発想をするのだから特殊な人が作ったのだろう。
もしかしたらこれを作ったのは地球人なのかも知れないね。
俺がいるのだから他の人が転移なり転生なりしていてもおかしくはないだろう。
ただ、その者がもっている力を聖オリオン教国のような狂信者たちのために使っているのであれば、それなりの代償を支払うことになるだろう。
尤もその者が進んでではなく聖オリオン教国に無理やり協力させられていることも可能性としてはあるので、その点は留意する必要があるだろう。
女神像を確認しているとドアがノックされたので入室の許可を出す。
入ってきたのはウィックと小柄と言うよりあまりにも小さい、恐らく小人族だと思われる女性だ。
「この者がお館様に会わせてほしいと・・・」
ウィックのあの顔を見てそれでもウィックを動かすとは中々に強者の女性だ。
まぁ、ウィックは戦闘では鬼神の如き働きをするのだが、日頃は気の良いゴツイオッサンだからな。
「そうですか、それで貴方は?」
「わ、私はリリイアと言います。と、盗賊たちに囚われていましたところ、ご領主様に助けていただきました」
俺はウィックを下がらせる。
部屋の中には俺とリリイアとフィーリアが残る。
「それでリリイアさんは私にどのような話があるのですか?」
「はい・・・私をご領主様の下で働かせてください」
リリイアは胸の前で手を繋ぎ俺に真剣な眼差しを向けてくる。
「私の下でですか、理由を聞いても?」
「はい・・・私の家族は盗賊に皆殺されました。村も全滅していると聞きました。行くところがないのです・・・」
リリイアには同情するが、だからと言って簡単に良いとは言えない。
先ずは能力の確認からだ・・・OK、採用!
「リリイアさんが私の下で働くのは構いません。しかし、私の部下になるということは厳しい訓練をしてもらいますよ」
「あ、ありがとうございますっ! 体は丈夫ですからどんなことも我慢します」
リリイアは俺にペコペコ何度もお辞儀をして謝意を述べてくる。
「リリイアはフィーリアの部下とする。しばらくは王都のお爺様に預けることにするから、手配の方を頼むよ」
「心得ました」
俺はリリイアをフィーリアに預けウィックには二等兵の装備を与えるようにと指示を出す。
しかし小人族が着ることができる軍服もないので急遽俺がリリイア用の軍服や装備を作り出すことになった。
ん?
何でリリイアを採用したかって?
それは彼女に『天下の剣聖』というギフトがあるからですね。
小人族は残念なことに身体能力がヒューマンよりは劣るが、このギフトがあることで彼女は剣に関する技術を身に付けやすくなり、更に身に付けた技術の成長速度が早い! まさに天下の剣聖と言えるべきギフトだ。
しかし何でだろう?
賢者に剣聖、俺と同年代に2人もスーパーなギフト持ちが居るなんておかしくないか?
しかも2人とも何か残念なちぐはぐさがあり、何か・・・こう・・・いい加減って感じだ。
そのうちに勇者とか踊り子とか出てくるんじゃないか?




