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083 暴走のタヌキ3

 


 何度か体当りをし、6本の前足?を駆使して結界にパンチや爪で攻撃をするビッググリズリー。

 このまま放置したいところではあるし結界も破られることはないだろうが、残念ながらいつまでも放置するわけにもいかないので俺もそろそろ動こうかと思う。


 先ずはスタンを試してみる。

 胴体に傷をつけてはダメだという縛りプレイなので傷が付かない攻撃だ。

 しかしスタンを受けてたビッググリズリーは一瞬ビクッとし瞬間的に動きは止めたもののその獰猛で血走った目は俺を見据えている。


「早く終わらせたいんだ。そろそろこっちに来てくれるかな」


 普通の魔術師は杖と魔術書、魔法使いだと杖を持ち魔術や魔法の発動の補助や威力などを向上させるのだが、今の俺は杖も何も持っていないうえに叙爵式の主役なので動き難い貴族の正装なので魔物との戦闘など考えられない姿であり、この状態で魔物の前に放り出されたら普通の魔法使いならば泣いて逃げ出すだろう。

 しかし元々俺は杖を使って戦うスタイルでもなければ、攻撃を受ける気もないから装備は飾り程度のものである。


「グルゥゥゥゥゥゥ」


 ビッググリズリーはそんな俺に突進を敢行する。

 ドッドッドッドッと地響きを立てながらの突進は普通であれば恐怖を覚えるのだろうが、俺がその程度で恐怖を覚えることはない。


 ビッググリズリーの突進を左に避けるとビッググリズリーの顔面目掛けストーンニードルを放つが、ビッググリズリーはそれを頭突きで粉砕する。

 マジですかっ! と思わず叫びそうになったが、グッと堪えて平静を装う。

 しかし頭突きが得意そうなのは最初の壁への突進で分かってはいたが、あのストーンニードルに反応し、あまつさえ頭突きで対応するなんて対応には驚いた。

 普通のビッググリズリーであれば今の一撃で顔面を貫かれて絶命しているだろう。


「変異種だけあって能力は高いな」


「グルゥゥゥゥゥゥ」


 胴体に傷を付けずに倒す縛りプレイ。

 そして貴族が多く観戦しているのであまり多くの属性を見せるのもまずい。

 つまり攻撃手段が限られてくる。

 面倒臭いなぁ、あの陛下(タヌキ)はニヤニヤ観戦しているし、ちょっとムカツク。


「ダークバインド」


 魔力を大量に込めたダークバインドを放つとビッググリズリーはそれに反応し飛び退く。

 しかしその程度の反応は織り込み済みだ。

 ビッググリズリーの反応に更に反応したダークバインドがビッググリズリーの足に絡みつく。

 ビッググリズリーは力任せに引きちぎろうとするも俺の魔力を大量に込めたダークバインドが簡単に引きちぎられることはないし、ビッググリズリーの体中にその漆黒の闇を纏わせていく。


「グギャァァァァッグゥゥゥゥ」


 ビッググリズリーは必死に逃れようとするが、逃がすわけがないよね。

 次は頭部に目掛けてアイアンニードルを放つ。

 硬い! アイアンニードルはビッググリズリーにダメージを与えたがビッググリズリーの頭部を貫くことはなく粉砕された。

 無属性の身体強化と土属性の硬化の多重使用によってビッググリズリーは体を鉄より硬くしている。

 まったく面倒臭いな。


 ならばっ!

 アイアンドリルニードル!

 動けないビッググリズリーの顔面を鉄のドリルが削っていく。

 ドリルの先が破損すればすぐに修復する。

 何度も何度もドリルを修復し同じ箇所を抉っていく。


「グギャァァァァァアァァァオォォォォォ」


 空気を切り裂くようなビッググリズリーの叫びが訓練場の中にこだまする。

 俺は状態異常無効があるので良いのだが、観戦していた貴族は最初の咆哮よりも強力な今回の咆哮に気絶する者が多数でた。

 さすがのタヌキもかなり顔が引きつっている。

 だが、その叫びはピタッと止む。

 俺のアイアンドリルニードルがビッググリズリーの頭部を貫いたのだ。

 脳ミソは周囲にぶちまけられ、目も飛び出し大量の血が噴水のように噴き出ている。

 鉄が錆びたような臭いが周囲に充満し慣れない者はこの光景に気を失うのだろうが、あの咆哮を耐えた者たちなのでそこは何とかなっている。


「ご命令、完了致しました」


 俺は陛下(タヌキ)に一礼し、ニヤリと笑ってやった。


「う、うむ、ご苦労であった。さすがは神童!」


 ん?

 何だ?

 陛下(タヌキ)がニヤリと笑い返してきた。


「このビッググリズリーの皮を無傷で献上したその功をもって伯爵に陞爵とするっ!」


 はい?

 この陛下(タヌキ)これがしたくてこんな無茶をさせたのかよ!

 まったく、ふざけた陛下(タヌキ)だ。

 宰相や父上、それに意識がしっかりしていた周囲の貴族も唖然としている。

 たかが変異種のビッググリズリーの皮を無傷で献上した程度で陞爵はないよね?

 まぁ、陛下(タヌキ)としては陞爵が目的でこじつける理由さえあれば良いようだ。

 そう、こじつける理由さえあれば良かったのだから俺がこんな茶番をすることもなかったんだよ!




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ふ~。

 ルーナのいれてくれたお茶は良い香りだし美味しいな。

 こんなのんびりとした時間はとても大事だよね。

 このまままったり暮らしたいよ。


「ちょっと何だらけてるのよっ!」


 何も聞こえない。

 気分は天国だ。

 こんな時間が『パスンッ』


「痛っ!」


「無視するんじゃないわよ!」


「何するんだクララ」


「アンタが領地を拝領し、伯爵になったおかげで屋敷の前には仕官を望む人たちが行列をなしているんだから早く対処しなさいよっ!」


 うっ、せっかく自分の世界に浸っていたのに・・・現実逃避とも言うけど・・・

 鬼の形相のクララに無理やり現実に戻されてしまったので働くとしますか・・・


「分かったよ・・・フェデラーとクララは同席するように」


 俺とクララのやり取りを見て苦笑いをしていたフェデラーに声をかける。


「クララ殿、まがりなりにも主君の頭をはたくのは感心せんぞ」


「では、フェデラー司令官がクリストフを働かせてくださいよ」


「うっ、・・・それはクララ殿に任せる・・・」


 あのビッググリズリー戦の後、俺の伯爵への陞爵はさすがに早いという貴族たちの声もあったが、陛下(タヌキ)は軍事物資の供出もあり俺の功績は大であると貴族たちを黙らせた。

 まぁ、1億S以上の物資を供出した代金が辺境の誰も入植できない島であり、辺境伯家の次男なので元々子爵は確定していたし、王家が俺に領地を与えたと言ってもその領地が辺境の更に辺境の地であり、王家としては何もしていないのと同じであり、世間体とか体裁が悪いのでビッググリズリーの件と併せて俺の功績に対して伯爵まで引き上げたという言い分だ。

 それと、俺個人の戦闘力や財力もあり王家が俺を取り込むという意味もプンプン匂わせている中で貴族たちも無下に反対はできないという状態らしい。


 いずれは俺も伯爵になりドロシー様を迎えることになるはずだったのだが、それにしても事が早急に進みすぎて対応に右往左往している状態なのであの陛下(タヌキ)にはいずれ意趣返しをしてやろうと心に誓うのだ!


 それと拝領したセルベス地域はブリュトイース地域と改名された。

 ブリュトイース地域はブリュトゼルス辺境領に近い場所に小さな村や集落が点在する程度の辺境域なので開発して人口を増やさなければならないのだが、人口なんてそんなに簡単に増えないぞ!

 あ~もう、いつになったら俺はまったり暮らせるのか。


 それとフェデラーとゲールは騎士爵、カルラも騎士爵に叙されている。

 これは俺の部下に箔をつけるという意味合いもあるけど、陛下(タヌキ)が俺に恩を売り取り込むための政策でもある。

 フェデラーとゲールはブリュトゼルス辺境伯家での実績もあるし、カルラは子爵家の出なので爵位を与えられても何も抵抗はなかったが、さすがにペロンやクララには爵位を与えることはなかったし、プリッツに至ってはいずれ家を継ぐ身なので敢えて爵位を与えることはしなかった。



 

連載中の『チートスキルはやっぱり反則っぽい!?』も宜しくお願いします。

http://book1.adouzi.eu.org/n1456db/


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