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082 暴走のタヌキ2

 


 陛下の要望で宮廷魔術師の訓練場に場を移している。


 陛下の言うことには・・・


「上級ダンジョンを踏破していると聞く、故にランクCの魔物と戦うことは可能か?」


 ランクCどころかランクA以上でも可能なのだが、ローマの拳闘士が虎などの猛獣と戦わされていた映画を見たことがあるけど、そんな感じだよね。


「ダンジョンはパーティーで踏破しております。仲間がいてこその踏破でございます」


「だが、ソナタであれば可能であろう?」


 どうしても見たいらしい。

 ドロシー様が陛下を睨んでいますよ。

 宰相も止めに入っていますね。

 まぁ、宰相が止めに入るのは俺のためじゃなく、陛下の無茶振りで俺が怪我でもしたらブリュトゼルス辺境伯家を敵に回すことになりかねないという懸念からだろう。


 ちなみに俺の冒険者ギルドのランクはBだ。

 上級ダンジョンを踏破していることでランクBに認定されている。

 これは上級ダンジョンに棲息している魔物がランクBであり、このランクBを実際に討伐しているからギルドランクもBになっているだけである。


 魔物はランクDとランクCの間には大きな壁があり、ランクDの魔物を討伐するにはギルドランクDのパーティーが1パーティー必要だが、ランクCの魔物を討伐するにはギルドランクCのパーティーが複数必要になると言われている。


 俺たちのパーティーは単独でランクBの魔物を討伐できるのでギルドランクはBでも限りなくAに近いと思われているが、実際にランクAの魔物を討伐していないのでBに留まっているだけである。


 まぁ、ランクBの魔物であれば俺じゃなくてもカルラやペロンでも1人で討伐できるのだけどね。


「陛下のご命令とあれば・・・」


 明確な回答は避ける。

 俺に何かあったら命令した陛下の責任だぜ!っていう回答だね。


「うむ、ではソナタの力を見せよ」


「はっ」


 というわけで、冒頭のように宮廷魔術師の訓練場に場を移しているってことです。

 あの授与式に出席していた殆どの貴族が観戦にきている。

 で、準備万端という感じで魔物も用意されている。

 戦わせる気満々で俺が断ることは端から頭にはないらしい。


 用意されている魔物は訓練場の中央に魔術により拘束されている。

 訓練場の四方から宮廷魔術師が拘束の魔術を継続させるために魔力を供給しているのが分かる。


「その魔物はビッググリズリーだ。ブリュトイース子爵であれば余裕であろう?」


「そのようなことはございません」


「謙遜をするでない。・・・ちと頼みがあるのだが?」


 陛下の問いかけには答えたくなかったが、そうもいかないよね。


「胴体に傷を付けずに倒してはくれないだろうか」


 ほう、縛りプレイですか。

 つまり王国は拘束はできても魔物を倒すだけの火力がない・・・ではなく、胴体に傷を付けずに倒すことができないってことだ。

 陛下が俺にこの茶番を振ってきた意味が分かったよ。

 陛下はビッググリズリーの綺麗な胴体の皮がほしいのだが、宮廷魔術師でも王国騎士団でもあのビッググリズリーの胴体に傷を付けずに殺すことができないんだ。

 それを俺にやらせることで陛下は皮を手に入れて、・・・俺には何が残る?


「保証しかねますが、できる限りご期待に沿えるように致します」


 さて、ここでただ勝つだけではなく、俺の力をある程度見せ、更に面倒にならない程度に力を抑えるというとても面倒な縛りプレイが課せられたわけですが・・・


 俺は父上に目配せを送る。

 父上の目は仕方がないから怪我をしない程度にやれと言っている、気がする。

 ドロシー様は目に涙を浮かべて俺を見ている。

 貴族たちは面白い見せ物と思っている者、俺に同情的な者、そして俺に敵意をもっている者、色々だな。

 陛下は・・・楽しそうにしているね。


「ブリュトイース子爵、準備は良いか?」


「・・・はい、陛下。いつでも」


 準備も何も、元々戦う準備なんてしてないし。

 それとビッググリズリーっていう魔物は確かにランクCなのだが、俺の目の前で拘束されているビッググリズリーは変異種だ。

 変異種は通常種よりも強い個体が多く、俺の目の前にいるビッググリズリーもランク的にはAに近いBだね。

 あのタヌキは最初からランクCを用意する気はなかったってことだね。

 もう陛下じゃなくてタヌキでいいや・・・


「うむ、では始めよ!」


 ビッググリズリーを拘束していた魔力が消失する。

 ・・・拘束して首を切り落とせば良いじゃん、とも思うけどね。

 まったく。


 自由になったビッググリズリーは俺よりも周囲で観戦している貴族たちに敵意をむき出しにしている。

 ビッググリズリーにはこの訓練場で敵意を放っている者を感じるんだろうね。

 まぁ、その敵意は俺へのものだけどね。


「ギャァァァァァオォォォォォォッ!」


 いきなり咆哮したビッググリズリー。

 所謂、行動阻害の効果がある咆哮だ、俺には効かないけどね。

 観戦していた貴族はその咆哮を聞きバタバタと失神する者も現れるが、それは警備にあたっていた兵?騎士?も同様で何人か倒れている。

 タヌキはそんな貴族や兵たちを見て笑っている。

 咆哮に耐えているのは評価してもいいけど・・・性格が悪いな。


 ビッググリズリーは2本の足で立ち上がると3mにもなる魔物だが、目の前の変異種は4mはあるだろう。

 ビッググリズリーの特徴は8本もある足だ。

 この足はどれが前足で、どれが後ろ足かという議論が今でもある。

 ある学者はお尻に近い2本が後ろ足で、それ以外の6本は前足だと言う。

 今のところはこの説が一番有力でビッググリズリーが立ち上がると2本の足で立っている。

 それに対し前足が4本で後ろ足も4本と言う説もあるし、他には真ん中の4本は中足だと言う説もある。

 ・・・どうでも良いや。


 そのビッググリズリーは観戦している貴族たちの方に突進していく。

 8本の足を器用に動かしての猛突進だ。


 ズッドォォォォンッ!


 訓練場の壁に頭から突っ込んだビッググリズリーを見て貴族たちは逃げ出そうとしたり腰を抜かしたりしているが、壁には破損はない。

 結界を張っているのが当たり前で、それなのに貴族たちのあの醜態はないわ~。

 まぁ、俺に敵意を向けていた奴が多かったので良いけど。


 

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