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081 暴走のタヌキ1

 



 卒業式が終わった。

 父上と母上揃って貴賓席に鎮座していた。

 それと何故か陛下も鎮座していた・・・ドロシー様も卒業なんだね。


「クリストフ様を驚かすことができたかしら?」


 ドロシー様ならできるとは思っていたけど、本当に卒業をごり押ししたようです。

 予想の範疇だけど驚いた振りをしておきましょう。

 それにしても最近のドロシー様はとても女性らしい体つきになってきていますね、将来が楽しみですよっ!


「クリストフ殿、15日の叙爵式を楽しみにしているぞ」


「陛下のご尊顔を拝し恐悦至極に存じ上げます」


「堅苦しい挨拶は不要だ。それよりも(もそっとドロシーを訪れてやってくれ、毎日寂しそうにしておるのだ)宜しく頼む」


 陛下は小声でドロシー様に聞こえないように囁く。


「父上様、何を話されていたのですか?」


「ああ、叙爵式をドロシーが楽しみにしていると話していたのだ。クリストフ殿に会えるからの」


「な、何を!」


「ははは、クリストフ殿、くれぐれも(・・・・・)な」


「はい、陛下」


 陛下はドロシー様と共に帰っていく。

 護衛のジムニス兄上やエリザベート姉様も大変だが頑張ってくれ。


「さぁ、我らも帰るぞ」


「クリストフ、行くわよ」


 父上、母上、それは良いのですが、クリュシュナス姉様が下級生に囲まれて動けないのですが・・・主に女子生徒ですけど・・・羨ましくなんてないからな!


 クリュシュナス姉様もこちらに気が付いたようで下級生を掻き分けてこちらに合流してきました。


「ご苦労様です」


「本当に苦労しましたわ」


 クリュシュナス姉様は宮廷魔術師見習として3月後半から登城が決まっている。

 クリュシュナス姉様なら優秀な魔術師になれるだろうが、祝いとしてはローブを贈ろうと思っている。

 父上と母上――側室の2人も含む――からは杖、ジムニス兄上とエリザベート姉様からは魔導書、が贈られるので、アンと俺の2人で共同でローブを贈ることになったのだ。


 ローブの材質はフリージアという植物の魔物から取れる繊維を寄り合わせた糸になる。

 この繊維は植物系の魔物から取れるのに火に耐性がある。

 そして魔石を砕いて粉末状にした物を糸に染み込ませ、その糸で作った生地をローブにする。

 生地までは俺が用意をしたが、アンが侍女たちに手伝ってもらいながらローブに仕立てている。


 それから今は陛下の護衛をしているエリザベート姉様の婚約が1月に決まり今年の11月に結婚式を挙げることに決まっている。

 エリザベート姉様の相手はヘブライ・クド・ゼンガーという法衣伯爵家の長男だ。

 ヘブライさんはエリザベート姉様に一目惚れして求婚していたが、ゼンガー伯爵家が貴族派なので父上が断わり続けていた。

 しかし数年に渡る求婚に父上も根負けしヘブライさんとエリザベート姉様の結婚を認めた形だが、実は俺とドロシー様の婚約話が影響を与えていると思う。

 今年18歳のエリザベート姉様より先に14歳の俺の婚約を発表するのは体裁が悪いし、この春にエリザベート姉様が正騎士になることで区切りにもなるからだろう。

 クリュシュナス姉様は15歳なのでこれからでも問題ないけどね。





 そして2月15日に俺は貴族位に叙爵された。

 ただ、陛下がいくつかアドリブを入れてくれたおかげで冷や汗をかいたけどね。


「クリストフ・フォン・ブリュトゼルス、ソナタにブリュトイースの家名を与え、子爵に叙する」


「あり難き幸せ」


 俺は頭を垂れて陛下にお礼を言う。

 ブリュトイースはブリュト島が東にあることから『イースト』から『ト』を取って『ブリュト』にくっ付けただけなんだよ。

 ネームセンスのない俺にしてはボチボチの出来だと思う・・・思いたい。


「ブリュトイース子爵よ、ソナタが供出してくれた軍事物資によりボッサム帝国との戦いを有利に進めることができた。褒美としてセルベス地域を領地として与える」


 はい?

 それ聞いてませんが?

 陛下アンタ何を言っているの?

 しかもセルベス地域って言えばブリュトゼルス辺境領の東部に位置する辺境中の辺境で開発が全然進んでいない土地だったはずで、褒美と言うよりは罰に近いと考えてもおかしくない地域だ。

 場内も騒然としているじゃん・・・宰相も聞いてないよって感じで目が泳いでいるよ。

 父上も何言っているんだコイツ的な目で陛下を見ているよ。

 これだけでもシナリオにない話ってのがよく分かる。


 今回の領地拝領に関しては陛下の厚意と言うよりは、明らかに俺の財力に目を付けた目論見が見える。

 ブリュト島から齎される資源をブリュト商会を通じて販売や加工販売することにより俺は膨大な利益を得ており、それは陛下もよく分かっている。

 つまり、莫大な資金力を持っている俺に辺境地域を開発してこいというメッセージだろう。

 俺が開発に成功すれば神聖バンダム王国の国力が強化されるし、開発に失敗しても今まで辺境だった地域なので国としては何も被害はない。

 やってくれるぜ。


「・・・あり難き幸せ」


 公の場で褒美をくれるって言うのに断ることはできないよね。

 これで断ったら俺は勇者だよ・・・神様だけどね。


「うむ。・・・皆の者に申し伝える。ブリュトゼルス辺境伯が次男であり、ブリュトイース子爵家当主クリストフ・フォン・ブリュトイース子爵と我が娘ドロシーとの婚約をここに発表する。・・・婚儀は来年5月に執り行うものとする」


 婚約発表である。

 ドロシー様も陛下の斜め前でこの式に出席されているのでドロシー様をチラッとみると、顔を赤くし俯いているのがまた良いね。

 しかも、また成長しているようだ。

 何が成長しているのかって?

 言わせるなよ。


 だが、婚約発表についてはシナリオ通りなのだが、結婚式はドロシー様が成人してからの2年後のはずだと聞いていたのだが、あの陛下(ひと)はそれを1年前倒ししてきやがった。

 俺も14歳で成人したので人のことは言えないが、ドロシー様も14歳で成人させ輿入れさせるつもりだな。

 父上も何も聞いていなかったのか半眼でタヌキを見ているぞ。

 もう、やりたい放題だな。

 ただ、聞いていないだけで俺やブリュトゼルス辺境伯家には悪い話ではないのだが・・・やってくれるぜ。


「それとの」


 まだあるのか!


「ブリュトイース子爵は多くのマジックアイテムを製作しておるが、魔術もそうだが魔法が得意だと聞いておる。その力を見せてはもらえないだろうか?」


 陛下はニヤリと口を緩め、俺の回答を待つ。

 最早、宰相も父上も何も聞いてはいないぞ状態を通り越して呆れ顔である。


 いったいこの陛下(ひと)の目的は何だ?


 貴族派の連中にしてみれば国王派のブリュトゼルス辺境伯家から独立した俺は国王派としてみられているだろうから本来であれば俺を貴族にはしたくはないだろう。

 しかし俺が子爵位を得ることに抵抗や反対があるはずがない。

 もし抵抗や反対があり俺が子爵に叙爵されない場合、他の貴族の子弟を爵位につけることができなくなる。

 神聖バンダム王国でも最大と言っても過言ではない貴族であるブリュトゼルス辺境伯家の次男が子爵にもなれないのであれば他の貴族の子弟が爵位に叙されることなどあり得ないからだ。

 貴族というのは損得勘定で動く生き物だから自分や自分の子弟に不利になるようなことは基本的にしない。


 そうすると俺とドロシー様の婚約か?

 しかし次男とは言えブリュトゼルス辺境伯の血を引き、母上も侯爵家の出であり血統的に問題はない。

 しかも王女とは言えドロシー様の王位継承権は低く降嫁(こうか)にも大きな支障はないはずだ。

 唯一の懸念は俺が子爵では爵位が低いことだが・・・今現在、貴族派の勢力が弱まっており王家とブリュトゼルス辺境伯家との結びつきが強くなるこの婚約に否を言う貴族が多いとも思えない。

 否と言えば、自家への風当たりが強くなり衰退するきっかけになりかねないことを損得勘定だけ(・・)は得意な貴族がするだろうか?


 それ以外の理由となると、単に陛下の好奇心・・・考えたくないが、ないとは言えないな。


 後は陛下が何かを企んでいるってことだが、何を企んでいるんだ?

 さすがに分からん。


 さて、どう答える。

 俺は父上を見るが、父上は軽く頷くだけだった。

 あの顔は諦めているって顔だ。


「魔法にはいささか自信がございます。とは言え、私は若輩者で世間を知らぬ井の中の蛙でありますので、お恥ずかしい限りです」



 

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