078 誕生パーティー
神聖暦513年が暮れ、神聖暦514年1月1日となった。
今日は俺の14歳の誕生日でもある。
本来であれば14歳の誕生日は盛大に祝うことはないが、俺が新しい家を興すことが決定事項なので1年前倒しで成人として祝ってくれることになった。
15歳成人は基本ってだけで12歳で成人し結婚する人だっているので俺が14歳で成人しても何も不思議ではない。
ただ、14歳成人について本人は知りませんでしたよ?
朝から陛下の使者が訪れ祝辞が述べられ、2月15日に俺の子爵への叙爵式が行われる旨が伝えられた。
昼には祝いのパーティーが行われる頃にはジムニス兄上が2人の姉、エリザベート姉様とクリュシュナス姉様を伴って駆けつけてくれた。
「クリストフ、おめでとう。1年早いがお前も成人だな」
ジムニス兄上は俺の肩をバンバン叩きながら成人を祝ってくれた。
てか、痛いです。
「クリストフも一人前なので今日は飲むわよ! 付き合ってくれるわよね?」
そしてエリザベート姉様は俺に抱きつきながら酒を勧めてくる。
もう酔っているのか?
酒乱の気がありそうなエリザベート姉様でした。
てか、まだパーティーは始まっていません。
「成人おめでとう。クリストフに先を越されてしまいましたね」
クリュシュナス姉様は俺の頭を撫でながらいつまでも俺を子供扱いです。
時々頬をムニムニするのは止めてください。
「クリス兄様。成人、おめでとうございます。来年は一緒に王立魔法学校で過ごせると思っていましたのでとても残念です。でもクリス兄様がとても優秀だって皆に知ってもらえて嬉しいです」
アンこと、アントワネットは俺に抱きつきながら上目遣いでお祝いを述べてくれる。
可愛いので頭を撫でてやると嬉しそうに目を細める。
とても可愛いです!
そしてカルラ、ペロン、クララ、プリッツも祝いに来てくれた。
しかも親同伴ですね。
来賓が概ね集まったし、開始の時間になったので父上が挨拶を行う。
「皆様、息子クリストフのためにお集まりいただきお礼申し上げる。この度、クリストフは王立魔法学校を1年で卒業することになり―――――――」
長ったらしい父上の挨拶は聞き流し、宴は始まった。
そして来賓からの挨拶も始まる。
挨拶は上位の貴族から順に始まる。
俺の知らない貴族のオッちゃんやオバちゃん、知らない同年代の紳士淑女の挨拶が続く。
実は同年代の紳士淑女でも紳士の方が多いのだ。
これは俺が家を興すことともう一つ理由がある。
先ずは俺が家を興す方を説明すると、新しい家には何が必要か・・・そう、家臣が必要なのだ。
つまり新興貴族の俺に仕官をしたい貴族家の部屋住みや王国の兵士になっている者など色々な者が来ているのだ。
そしてもう一つの理由が2人の姉である。
エリザベート姉様は今年18歳になり結婚適齢期なのだが、未だに相手が決まっていないし、今年15歳になるクリュシュナス姉様に関しても同様に相手が決まっていない。
長女と次女、それに三女のアンだって11歳になるので俺と同じような年代であれば結婚相手として問題ない。
ブリュトゼルス辺境伯家の美人三姉妹が良い意味でスポットライトを浴びているんですね。
父上は母上(俺のお婆様)が自由民だったことで、3人さえ良ければ相手には家柄を求めていない。
長男のジムニス兄上には侯爵家の許婚もいるし、俺は王族のドロシー様との婚約が決まっているので、3人の婿には家柄を望まないようだ。
ただし、エリザベート姉様はもうよい年なのでこのままで行くと父上の強権発動で許婚が決まるかもしれない。
「ロイド・フォン・アダチです。この度は娘カルラがお世話になります。不束な娘ですが宜しくお願い申し上げます」
カルラの父親とは思えないほど腰の低い人だというのが俺の第一印象だ。
しかし何かカルラが俺に輿入れするするかのような挨拶だな。
一応、来賓よりの挨拶は主役の俺とその両親である父上、母上の3人で受ける。
カルラの家は子爵なので新設される俺の家と同じ格なんだが、バックグランドがブリュトゼルス辺境伯家なので俺に対しても丁寧な対応だ。
「ランドセン・フォン・ヘカートでございます。息子プリッツ、娘クララにお心を砕いていただき、このランドセン、これ以上の喜びはございません」
ランドセンさんはプリッツの父親とは思えないほどのゴツイ体格でしかも髭面だ。
クララやプリッツが美男美女なので遺伝子が受け継がれているのか心配にならないかな?
ヘカート家は騎士爵でここだけの話ではないが、領地に金山があるので騎士爵家としては経済力があるし、領地の開拓も順調で人口も年々増えているそうだ。
ここでブリュトゼルス辺境伯家と親しくなれば男爵位も見えてくるだろう。
どうでも良いけど、クララやプリッツたちの家名がこの世界と同じ家名って知ったらどういう反応するかな?
クララは「へ~そうなの?」って言いそうだし、プリッツはオロオロしそうだな。
「レオナルド・クックと申します。クリストフ様とは以前お会いしております。此度、息子のペロンをお引き立ていただき、何とお礼を申してよいやら、誠心誠意仕えさせていただきます」
レオナルドさんが俺に仕えるのかとも思える挨拶だったが、気持ちは伝わってきた。
ペロンの父親は相変わらずダンディなオジ様です。
人好きのする笑顔で挨拶すれば来賓のマダムもイチコロだろう。
俺はまだ王都にきて1年だし、出歩くのも護衛が付くこともあり必要以上の外出はしていないのであまり王都のことは詳しくないが、王都の料理レベルは低いと思っている。
そんなこの王都で唯一美味しい料理を出す『レストラン・クック』のオーナーシェフだ。
来賓の挨拶も終わり、俺はやっと料理に手を出せた。
「凄い人ね。さすがは飛ぶ鳥もコンガリ焼けるブリュトゼルス辺境伯家ね」
どんな比喩だ!
もう少し言いようがあるだろうに。
「やぁ、クララ。君のお父さんと初めてお会いしたけど、将来のプリッツのイメージが掴めなくなったよ」
「ははは、お父様は生粋の武人だからね。私たちはお母様似なのよ」
あの体格で魔法使いですって言われても違和感しかないけど、たしかクララたちの母親は元宮廷魔術師だったよな。
遺伝子の全てが母親譲りって感じで良かったね。
「そういえば、ドロシー殿下はみえないのね?」
「さすがに無理だよ。王女が貴族の誕生日に一々出ていたらきりが無いからね」
婚約発表は俺が子爵位を受けた時にされるし、今から特別扱いはできないだろう。
だが、明日は一家総出で登城し陛下へ新年の挨拶を行うのでドロシー様に会うことができる。
「クリストフ様、こんな壁際で休憩ですか? おや、美しいお嬢さんとお2人で、これは失礼を致しました」
肌が日焼けによって褐色であり、身長は2mほどだが体の線は細い。
パッと見、ダークエルフのようにも見えるが実はドワーフだ。
ドワーフで身長が2mってあり得ないだろうと思うのだが、生粋のドワーフである。
「・・・エグナシオ殿。楽しんでおりますか?」
そう、名前はエグナシオ・フォン・デシリジェム、デシリジェム男爵家の三男でこのパーティーに来てくれた同年代の男性だ。
「皆様、クリストフ様が目当てでしょうが、淑女が多く私の目を癒してもらっていますよ」
「それは良かったです」
「そちらの淑女には残念ではあると思いますが、主賓であるクリストフ様が淑女の皆様にお声を掛けてはいかがですか? 皆様、クリストフ様を射止めようと必死ですよ?」
「今の時期にクリストフに言い寄っても無理なのにね」
「ほう、それはあの噂が本当だということでしょうかね?」
「あの噂?」
「先月のクリストフの行動を思い出せば分かるでしょ?」
あああ、ドロシー様との・・・
え? 噂になっているの?
ちょっと・・・いや、かなり恥ずかしい。
「・・・クリストフ様が淑女方のお相手ができないと言われるのでしたら私が何とかしてきますか。クリストフ様、一つ貸しですよ? はははは」
エグナシオは王立騎士学校の2回生で、俺と同じ年だ。
しかも王立騎士学校の開校以来の強者だという噂で既に王国騎士団や有力貴族家が食指を伸ばしているらしい。
だが、エグナシオ本来の力はそれだけではない。
俺もエグナシオを家臣にしたいと思うような秘密がエグナシオにはある。
「あんな細身で最強の騎士として将来を嘱望されているんだから凄いわね」
クララは少し頬を赤めてエグナシオの後姿を見送る。
こんなところで乙女のクララが見られるのか?
クララも年頃だからイケメンで将来を約束されたエグナシオみたいな男に惚れても不思議はないな。
そういえば・・・プリッツよ、いつからそこにいたんだ?
存在感がなさすぎだろ!
「プリッツ、カルラやペロンは?」
「え、え~っと、あそこにいるね」
それだけか!
もっと存在感をアピールしてもいいぞ!
プリッツが指し示した方を見るとカルラとペロンの父親が親しく話をしている脇に2人がいた。
2人はなにやら俯き加減でペロンはともかく、カルラはいつもの勢いがないように見える。




