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075 クリストフの気持ちと可哀想なラスボス

3話目になります。

 


 図書室で別れてからドロシー様は俺を避けるようになった。

 教室に行ってもドロシー様は俺を見ると教室を出ていってしまうし、勉強会にも顔を出さなくなった。

 廊下ですれ違っても声を掛けてくれないし、声を掛けても聞こえない振りをされる始末だ。


 俺の卒業のことでそんなに怒られても俺だって被害者なんだからね。

 勘弁してよね。


「クリストフ、あんたドロシー殿下に何をしたのよ? 2人が喧嘩しただの、クリストフがドロシー殿下を泣かしただの、皆が噂してるわよ」


「僕もドロシー殿下が泣いていたって聞いたよ」


「それが、私もよく分からないんだよね。図書室でカルラ達と別れてから直ぐにドロシー様がみえて、話しているうちに怒り出して・・・」


 俺は昨日のことをカルラとペロンに細かく話した。

 ドロシー様は俺たちの卒業に嫉妬しているのかな?


「あんたねぇ、はぁぁぁ」


「それはクリストフ君が悪いと思うよ」


 え?

 何で俺が悪いの?

 悪いのは父上でしょ?

 え~、父上の罪が息子の俺の罪になるのかっ?!

 あ、罪になりますね、親の借金は子が返したりしてますしね。

 それに貴族であれば親の罪が子に及ぶことも多々あるから・・・でも、それと今回のことは関係ないと思うのだけど?


「私の何が悪いのかな?」


「カルラ、左に魔物! 教えていいのかな?」


「ファイアアロー! 本当に分からないの?」


「エアスラッシュ! クリストフ君て女心が分からないからね」


「ライトニングボルト! 仕方ない、教えてしんぜよう」


 歩きながら、俺の悩みを聞きながら、魔物と戦闘するのは危ないので止めた方が良いと思いますよ。

 でもダンジョン内でこんな話をするのもなんだけど、王族を怒らせたままってのはあまり良い気はしないから、教えてくだせぇ~。


「その前に死体の回収ね」


「・・・アポート」


「よし、次行くわよ」


「了解」


「・・・」


 俺の悩みの解決より、ダンジョンを進むのが優先ですか?


「そんな顔しないの! クリストフはドロシー殿下のことをどう思っているの?」


「どうって言われても・・・美人で頭も良いし・・・王族?」


「何それ? あんた本当にドロシー殿下の気持ちが分からないの?」


「・・・」


「カルラ、クリストフ君に女心を聞いても・・・」


 なんだよ、その哀れむような目は。

 俺だって真剣に悩んでるんだぞ!


「分かったわよ、クリストフ、スコップで耳の穴かっぽじってよく聞きなさいね」


 おう、聞くから早く言えよ!

 てか、スコップで耳はほじれないぞ!


「右、魔物!」


「シャインランス! 後でね」


「エアスラッシュ!」


「ライトニングボルト!」


「アイアンアロー!」


「はい、回収して!」


「・・・アポート」


 てか、魔物が邪魔!

 お前ら出てくるんじゃねぇよっ!


「ちょっとあんた何で魔力放出してるのよ!」


「え、あ。魔物がウザイと思ったらつい・・・」


「ついじゃないわよ。私たちの獲物が少なくなっちゃうじゃん!」


「カルラ、いい加減教えてあげなよ」


 そうだ、そうだ、教えろよ、カルラ!

 早く教えてくれないと、俺でも泣いちゃうからな!


「はいはい、じゃぁ、改めて。クリストフはドロシー殿下を綺麗で頭の良い王族って思っているようだけど、ドロシー殿下はクリストフのことを大貴族だとかで親しくしているわけではないのよ。それは分かるわよね?」


 それは俺の従兄妹だし、同じ王立魔法学校の同級生だし、ドロシー様のライバルだし・・・


「カルラ。多分、分かってないよ・・・」


「あ~も~ぅっ。ドロシー殿下はクリストフのことが好きなの! だからあんたにチョクチョク話しかけていたんだし、少し距離が縮まった時にはアピールしていたんじゃないのっ!」


「ほえっ?」


 ちょっと待て!

 ドロシー様が俺のことをす、す、す、す、すき・・・だってっ!

 いやいや、それはないだろう、だって・・・あっ、ツンデレだ・・・

 俺、自分でドロシー様のことをツンデレって言ってたじゃん・・・

 マジか・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・


「カルラ、クリストフ君がフリーズしているよ!」


「本当だ、こんなにクリストフがアタフタするのも面白いね。取り敢えず、あそこの岩陰で休みを取りながらクリストフが復活するのを待ちましょう。ペロン、クリストフを運んでね」


「えっ! 僕1人で?」


「当然じゃない! か弱いボクに運ばせる気?」


 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・

 ・・・


 俺は何で気付かなかった?

 ヒントは幾らでもあったじゃないか?

 ドロシー様が俺に好意を持っていることは冷静に見ていたら分かったことだろう?

 じゃぁ、何で今まで分からなかった?

 俺は無意識でドロシー様を拒否していたのか?

 いや、そんなことはない・・・はずだ。

 拒否しているなら俺はドロシー様を無視するか排除しようとしていたはずだ。

 じゃぁ、何故だ?

 ドロシー様を見ている俺は冷静ではないから分からなかった・・・?

 俺が冷静ではない?

 そんなことが・・・

 ・・・

 ・・・


 落ち着け、俺が冷静じゃなかったら、何故冷静ではなかったんだ?

 ドロシー様が俺より劣っていたから?・・・違う。

 ドロシー様が俺より優秀だからか?・・・違う。

 ドロシー様が憎いのか?・・・違う。

 ドロシー様が羨ましいのか?・・・違う。

 ドロシー様の地位が欲しいのか?・・・違う。

 ドロシー様が嫌いなのか?・・・違う。

 ドロシー様が好きなのか?・・・

 ドロシー様が好きなのか?・・・

 ドロシー様が好きなのか?・・・


 ドロシー様が好きなのか?・・・そうだ!


 俺はドロシー様が好きなんだ!

 だから平静を装って・・・ドロシー様の気持ちも分かっていたくせに、見てみぬ振りをしていたんだ・・・

 俺は卑怯者だ・・・

 ドロシー様に好きだと言うのが怖くて、ドロシー様に言わせようとしていた。

 卑怯者のクリストフだ!


 くそっ!

 どうするっ?

 どうするって、答えは出ているじゃないか!

 だが、ドロシー様は王族だぞ!

 王族や貴族の子供なんて政治の道具として不本意な婚姻を強いられるのは当たり前だぞ!

 俺がドロシー様に告白してもドロシー様は他の男の妻になるかも知れないんだぞ!

 どうするっ!

 どうするって、答えは決まっているだろっ!

 王族だろうが、神様だろうが俺の気持ちをぶつけるだけだ!

 その後のことはその後に考えればいいんだよっ!


「ううううぅぅぅおぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉおおおっ!」


「きゃっ!」「えっ?」


「俺は決めたぞ!」


「ちょ、ちょっと・・・何を決めたのよ? てか、いきなり大声で咆えないでよね」


「うん、ビックリしたよ」


「これからドロシー様に会いに行く!」


「は?こ、これからって、ダンジョンの中にいるのよ? ラスボスはどうするのよ?」


「皆殺しだ! 行くぞ!」


 俺の前に出てくる魔物は皆殺しにして進んだ。

 出てこなければ死ななくて済むが、出てきた以上は皆殺しだ。

 俺の進路を塞ぐ奴は誰であろうと許さん!


 許さん!

 許さん!

 許さん!

 許さん!

 許さん!


「喰らえやっ、地獄の轟炎!」


「ちょ、きゃーっ」「うわーっ」


 ラスボスも1発で倒したので、即効で地上に戻ろうと思ったらカルラが俺の頭を思いっきり殴ってきた。

 てか、グーで殴るなよ!

 めっちゃ痛いじゃんかよ!


「痛いなぁ、何で殴るんだよ?」


「クリストフ、落ち着きなさい! てか、あんたキャラが変わってるよ!」


「そ、そうだよ。いつものクリストフ君に戻ってよ」


「・・・」


「てか、ラスボスを1発でって・・・ここまで来たのが私たちが初めてなのに、出番もなく一瞬って、ラスボスが可哀想に思えるわ・・・」


 そうだ、俺は何を焦っていたんだ?

 ははは、そうだよな。

 ちょっと熱血入っていたよ・・・

 いかん、俺のアイデンティティは熱血じゃない!

 落ち着け、落ち着け俺!


「分かったよ、どうも気が急いていたようだね。今は冷静になったつもりだよ。カルラ、指示を頼むよ」


「まったくもう。ペロンは奥のあの窪みの索敵を、クリストフはそこの黒こげを回収して」


『了解』


「アポート」


「あの窪みにも魔物はいないね。でも何かが窪みにあるみたいだから確認をした方が良いかな」


「分かったわ、行くわよ。気を緩めないでね!」


 そして、警戒しながらボス部屋の奥にある窪みを覗く。

 そこには人が1人入れそうな宝箱が鎮座していた。


「これ何だと思う?」


「宝箱?」


「宝箱だよね?」


 カルラが見たまんまの宝箱を俺たちに確認する気持ちは分かる。

 今まで初心者に始まり、初級、中級のダンジョンを踏破してきたが、ラスボスの部屋で宝箱など見たことがないのだ。

 警戒するのはよく分かる。


「開けるわよ」


 念の為に神眼で確認しても罠はないようだが、千里眼でも中身を見ることができなかった。

 警戒を最高レベルに上げて、カルラが宝箱を開けるのを注視する。


 パカ


 軽い音やな。


「・・・」


「どうした、カルラ」


「・・・本?」


 どれどれ?

 3人でがん首を並べて宝箱の中を覗くってのも馬鹿っぽいね。


 確かに本だ。

 これだけデカイ宝箱に本が1冊・・・無駄な空間だぞ。


 だが、この本からは魔力が感じられる。

 なるほど、どうやらこの本は魔導書のようだ。

 しかも・・・


「これは『グリモワール』、意思を持った魔導書だね。下手に触るのは避けたほうがいいね。私が預かるけどいいかな?」


「僕はクリストフ君に任せるよ」


「そうね、下手に触るよりはクリストフに任せるわ。でも大丈夫?」


「ああ、もう冷静だよ。じゃぁ、アポート!」


 俺はグリモワールに触れることなくアポートで直接ストレージに放り込んだ。


「よし、もうないだろうから、地上に戻るわよ」


『了解!』



 

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