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074 それぞれの進路とドロシーの気持ち

新年特別更新として2話目です。


 


 もう直ぐ年も暮れようとしております。

 北部では既に雪が降っているそうです。

 今は日本で言えば師走で、そして大晦日が近付いてきています。

 この世界の暦は1ヶ月が30日なので12月31日はないのですがね。


 神聖バンダム王国には年末年始の休みはありません。

 12月30日から1月1日にかけて年越しでお祭り騒ぎにはなりますが、休みもなく通常稼動です。

 ただ、1月1日の遅刻や早退に休暇は慣例として認められており、1月1日は街中が緩むそうです。


 神聖バンダム王国には長期の連休が2回あり、前回俺たちが旅行に行った夏季休暇と、2月から3月に掛けての新節休暇があります。

 王立魔法学校も2月11日から3月30日までが休みになるのです。

 因みに1月は単位修了試験があり、3回生はこの試験に落ちると2月5日まで補習授業が行われこれで卒業できるか決定することになるのですね。

 補習授業を落としてしまうと卒業できずに退学するか留年するのですが、留年の場合は授業料が通常の2倍となってしまうので平民には経済的に厳しいことになります。

 それに貴族であれば留年など許されるわけもなく、必死に卒業を目指す時期なのです。

 そして2月10日に3回生の卒業式が行われ、その後は就職先で新しい生活が始まるのです。


 こんな感じで俺が通っている王立魔法学校の行事があります。

 何でこんなことを言っているのか・・・先日、ブルーム先生に呼び出され俺は既に卒業に必要な単位を全て取得しているので飛び級して2月10日に卒業が決まったと通告があったのです。

 俺の知らないところで話が進んでいたことにビックリです。


 そして、カルラ、ペロン、クララ、プリッツにも同じ件で呼び出しがあったそうです。

 でもクララはまだ魔物学の単位を取っていないのだけど、1月で取れるんだろ?って返されたそうです。

 それから実技の方は全て技能を満たしているということで単位をくれるそうです。

 まぁ、俺が教えているのだから学生のレベルではないのですけどね。


 しかし、極めて重大な問題がここで発生しているのです。

 それは何かと言えば、就職先です。

 就職は夏季休暇から活動を開始して、11月には決まっているのが普通でもう直ぐ年末だというこの時期では碌な就職先が残っていないのです。

 言うならもっと早く言ってくれと、皆ブーイングものですよ。


「どうする? いきなり言われても困っちゃうよ、ボクは何にも準備していないんだから」


 カルラ君や、君の思っていることは皆が思っているよ。


「カルラ、それは皆同じだよ。あ、クリストフ君はブリュト商会があるし、領地ももらったんだよね?」


「ペロン、領地じゃなくて土地の所有を許してもらっただけだよ」


「同じようなものよ。そうだ、クリストフが私たちを雇ってくれれば良いんじゃない?」


 何ですとっ?


「僕もそう思っていたけど、それだとクリストフ君に迷惑がかかるし」


 相変わらずプリッツ君は控えめだよね。

 クララの図々しさを分けてもらえば良いのに。

 でもクララが言っているように俺が4人を雇うってのはありじゃないか。

 俺も人手不足だし、4人は就職先がないってことで需要と供給がマッチしているじゃないか!


「クリストフ君、そんなに真剣に考えなくてもクララたちも本気じゃないから」


「あら、私は本気よ。ペロンもクリストフに雇ってもらいたいと思っているんじゃないの?」


「そうなったら嬉しいけど、でもクリストフ君にだって都合があるだろうし」


「ペロン、ここはボクたちのためにクリストフに脱皮してもらおう! それで全て丸く収まるわっ!」


 それを言うなら一肌脱ぐですね、カルラ君。

 俺はヘビじゃないんだから脱皮はしませんよ。

 ただ、某金四郎さんみたいに片肩を出して君たちを受け入れようじゃないか!

 桜吹雪はないけどね。


「分かった、4人を雇うよ。これから色々と人手がいるから、皆が良ければ私のところにきてほしい」


 どうせ父上が裏で糸を引いているだろうから、その責任もとらないとな。

 4人は俺の巻き添えになった感があるし。

 勿論、父上にもその責任はしっかり取ってもらいますからね。


「よっし!これで就職の心配はなくなったね! じゃぁ、明日からのダンジョン攻略でラスボスを倒して王立魔法学校初の上級ダンジョンの踏破者となるわよっ!」


「あ、ずる~い。私も上級ダンジョンの踏破したかったよ!」


「クララ、まだ中級ダンジョンも踏破していないんだから仕方ないよ」


「もう、プリッツはいつも引っ込み思案なんだからっ!」


「ペロン、明日の用意をするわよ!」


「あ、うん。じゃぁ、皆またね」


 ペロンはカルラに引きずられていきましたとさ。

 リア充は爆ぜろっ!


 その後、プリッツもクララに引きずられていったので図書室の中はやっと静かになりました。

 あの4人といると何処でも騒々しいから面白いんだけどね。

 時と場所を選びましょうね。

 残された俺に非難の視線が刺さっているんだからね。


 はぁ、この図書室とも短い付き合いだったな。

 今のうちに閲覧制限エリアの本をできるだけ読んでおこうっと。


「2月に卒業されると聞きましたが本当ですかっ?!」


 あ、また騒々しいことになりそうだ。


「ドロシー様、落ち着いてください。一応、ここは図書室なんで」


「これが落ち着いていられますか!何故、カルラさんたちも一緒に卒業なんですか!」


 そんなこと俺に言われても知りませんけど、俺たち5人が先に卒業するのが嫌ならドロシー様だってごり押しすれば卒業できるでしょう。


「その理由は私が答えられるものではありません。しかしドロシー様とももう直ぐお別れですね。私は3年間一緒だと思っていたのですがね・・・」


「それでよろしいのですか?」


 何がだろう?

 ・・・俺の卒業に4人を巻き込んだことだろうか?

 ドロシー様はお優しい方だから俺の巻き添えになった4人を不憫に思っているのだろう。


 ドロシー様は以前のツンデレのツン表情で俺を見つめている。

 表情は以前のツンだが、雰囲気が違うと何となくだが思う。


「私の意思ではないですからね。恐らく父上が動いているのでしょう。あの4人には申し訳ないことをしました・・・」


「私はそのようなことを言っているのではありませんっ! クリストフ様は・・・私と・・・くっ、何でもありませんっ!」


 ドロシー様は図書室の中をダダダっと走って廊下に出ていかれてしまった。

 以前のツンデレが見れて少し嬉しい気もするが、ドロシー様は一体全体何が言いたかったのだろうか?

 何かまずいことを言ってしまったのだろうか?

 ・・・分からん。


 

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