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067 納品2

 


 フィーリアを落ち着かせ、俺たちは責任者が現れるのを待つ。

 恐らく兵士がこんな感じなのでその責任者もあまり期待はできないだろう。




 そういえば、ブレナン侯爵率いる西部貴族連合軍が初戦で敗退したことで思い出したが、ブレナン侯爵の息子の・・・名前忘れた・・・バカボンでいいや。

 そのバカボンの処分が下されたって話だ。

 何の処分かと言うと、バカボンはブレナン侯爵家が管理する帝級マジックアイテムを盗み出した罪と、無断使用の罪で罪人として処分されたそうだ。

 処分の内容としては俺との決闘で負った左足首消失と魔力回路破壊の再生治療の禁止と貴族としての身分の剥奪だ。

 当初は陛下のお声掛りで再生治療が行われるという話だったが、帝級マジックアイテムのことが明るみに出ると状況は一変した。

 そして、裏で糸を引いていたであろうブレナン侯爵は息子をバッサリと切り捨てたのだ。


 だが、ブレナン侯爵も瀬戸際に追いやられてる。

 帝級マジックアイテムの管理不行き届きで国宝級のマジックアイテムを紛失の挙句、破壊されてしまっては罪は免れない。

 そのため、今回のボッサム帝国との戦いでは戦功をあげなければならないのだが、初戦で大敗を負ってしまったわけだ。


 ん?

 俺?

 俺はお咎めなしだよ。

 決闘自体はしっかり手続きをしているし、国宝級のマジックアイテムを破壊したのが俺でも、学生の決闘に国宝級のマジックアイテムが持ち出されるなんて俺にも予想ができないよね?ってことで、被害者(・・・)である俺に罪はないという判断ですよ。

 もしそれで俺にお咎めがあれば、それなりの対処はさせてもらったけどね。







 小一時間ほどは待っただろうか、この兵士にはフィーリアから「ブリュト商会」って伝えているのにこれだけ待たせるなんて中々の勇者だな。

 フィーリアの苛々もかなり溜まっており、御者の2人は呆れている。

 まぁ、俺がいなければ2人も呆れることはないだろうが、ブリュトゼルス辺境伯家の次男の俺をここまで待たせる兵士やその上司って正気か?と本気で心配してしまう。

 もし俺が切れてクレームを言ったら自分たちの末路くらいは想像ができるだろうに。


 更に30分ほどしてやっと責任者がお出ましになった。


「ご苦労、数は問題ないな?」


「はっ! 問題ありません!」


 兵士は数えてもいないのに、さも数えたように装っている。

 俺の部下でなくて良かったよ。


 戦時下なのに緊張感が足りないよね。

 こんな馬鹿を放置するほどにこの国は腐っているのだろうか?


 俺とフィーリアは責任者の前に進み出て受領書にサインを頼む。


「隊長様、こちらが納品書になります。御手数をおかけ致しますが、受領書にサインをお願い致します」


「何だ子供ではないか。父親の代理か?」


 サラサラっと受領書にサインをしてフィーリアに手渡した責任者が何気なくフィーリアに振ってしまったその言葉がまずかった。

 ご愁傷様です。


「申し遅れました、私はブリュト商会の副会頭をさせて頂いております、フィーリアと申します。こちらは会頭のクリストフ・フォン・ブリュトゼルス様でございます」


 フィーリアはここぞとばかりに俺を紹介する。

 その顔はまさに、ドヤ顔です。


「ブリュト・・・商会・・・ブリュトゼルス・・・様・・・?」


 責任者の顔がドンドン青くなっていく。


「はい、ブリュトゼルス辺境伯様のご子息であられますクリストフ様でございます」


 ダメ押し来ました!

 フィーリアはこの1時間半の鬱憤を晴らすつもりのようです。


「し、失礼しましたっ!」


 責任者は1歩下がり、俺に礼をする。

 それを見て兵士がアタフタしている。

 少し気が晴れたフィーリアはそれでも畳み掛ける。


「国王陛下よりのご用命にて定められた時間に納品を行う予定でしたが、1時間30分ほど遅れてしまい申し訳有りませんでした」


 嫌味を思いっきり言い放つフィーリアは悪い顔をしている。

 責任者だけではなく、兵士もガタガタと震えだしている。

 まぁ、兵士の対応は悪かったが、連絡が行っているのにまったく現れなかった責任者の方にも怒りが向いているのだろう。


「しかしクリストフ様に荷物の搬入を指示されるそちらの兵士様は大層な御大家の方と御見受けいたします。宜しければお名前をお聞かせ願えないでしょうか」


 兵士はこの世の終わりのような顔をしている。

 有名な『叫び』と言う名画を思い出してしまい、思わず吹き出してしまいそうになった。


「フィーリア、その辺で勘弁してあげなさい。隊長さん、現物の確認をお願いできますか? 受領書にサインを頂いたのでこのまま帰っても良いのですが、中身の確認をまったくされていないので後から中身が違うと言われても困りますからね」


「は、はいっ!」


 責任者は兵士に呪詛の視線を向けながら、周辺にいた兵士を総動員して納品の確認をしだした。

 十数分後、十数人にも及ぶ兵士の全力を挙げての確認が終わり、納品書に間違いがないことが確認された。


 そして、その時間を見計らったようにマントをつけた鎧姿の男が現れる。

 神聖バンダム王国の兵士でマントをつけることが許されているのは大隊長以上の役職者だけなので、それなりの身分の者と思われる。


「ブリュトゼルス殿、私はデリム・クド・コスコと申す。部下の不手際申し訳なく、この通り許してほしい」


 一応、走ってきたようで息を切らせ俺に頭を下げて詫びているが、この人はまったく悪いと思っていないし、許してほしいとも思っていない。

 神眼を持つ俺には言葉に含まれる嘘を見抜く力を持っているのだよ。

 このコスコって人は貴族派でブリュトゼルスを嫌っているのだろう。

 そっちがそのつもりなら・・・ちょっと嫌がらせをしてやろう。


「コスコ将軍とお呼びすればよろしいでしょうか? 頭を上げてください。私は何とも思っておりませんから」


 コスコは「何とでも呼んでくだされ」と頭を上げて言うのだが、俺は間髪容れずに口を開く。


「ただ、ドロシー殿下とお約束しておりまして、既にかなり時間が押しておりますので、早々に引き上げたいのです。目上の方に対し失礼かとは思いますがご容赦を」


 コスコ将軍は俺がドロシー様の名前を出すとあからさまに顔を曇らせる。

 それもそうだろう、自分の部下のせいで王族との約束に支障をきたしているのだ、下手をすれば将軍職と言えども何らかの罰を受ける可能性がある。


 その後のコスコの慌てようを見て少し気が晴れた。

 自分でも少し意地が悪いと思わないでもないが、この程度は良いだろう。



 

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