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063 謁見

 


 神聖暦513年9月15日、王城にて舞踏会が催される。

 俺はブリュトゼルス辺境伯家の次男として初めてこの舞踏会に参加する。

 この舞踏会は収穫祭にあわせて行われる国家行事である。

 故に主催は国王陛下である。


 舞踏会の開始時間は夕方の5時だが、父上と俺は昼過ぎの2時に登城することになっている。

 俺は父上に連れられて王城内を歩いている。


 さすがに王城だけあって城の中に大きな中庭が複数あり、歩くだけで疲れてしまうほどの規模だ。

 すれ違う貴族や官僚たちは父上の姿を見ると廊下の端に寄り俺たちに道を空ける。

 中には父上に挨拶する者もいるが、父上はかるく返事を返すだけで立ち止まることはない。

 俺たちが立ち去ると貴族や官僚も動き出すが、時々俺の背中越しに殺気のようなものを感じることもあるのは貴族であれば仕方がないのかも知れない。


 そうして歩くこと十数分、前面に意匠が施された豪華な扉の前にやってきた。

 扉の両脇には騎士が立っており、父上が一言二言声をかける。


「アーネスト・フォン・ブリュトゼルス辺境伯閣下、ご子息クリストフ・フォン・ブリュトゼルス様がおこしになりました」


 騎士の1人が扉越しに声を掛ける。

 扉が開き父上と俺は騎士に招き入れられ部屋の中に入っていく。

 部屋の大きさは10m×15mほどの長方形でそこそこ(・・・・)広い。

 部屋の中には豪華な机が奥にあり、扉を入って左側にはこれも豪華な応接セットが配置されていた。


 豪華な机には初老の男性が座り書類に目を通し何やら羽根ペンで書き込んでいる。

 そしてその豪華な机の左右に1人ずつ、扉から見て左側に窓があるのだがその窓の対面に1人、扉の左右に1人ずつ、合計5人の騎士が立っており、応接セットのソファーには大柄の1人の老人が座っていた。


 父上と俺は腰を30度ほど前に傾け、右手を胸の前、左手を腰の後ろに回し、目上の方に対する簡易的な敬礼をしている。


「ブリュトゼルス南部総督とクリストフ殿か、面を上げよ」


 南部総督というのは父上の役職でブリュトゼルス辺境領が神聖バンダム王国の南部にあり、その南部で最高の家柄であることもありブリュトゼルス辺境伯は代々南部地域の総督を世襲している。

 まぁ、南部の7割以上をブリュトゼルス辺境伯家またはブリュトゼルス辺境伯家縁の貴族家が治めているので、他の貴族家が南部総督になれようはずもない。


 父上と俺が敬礼を解除して豪華な机で書類仕事をしている部屋の主である初老の男性に目を向ける。


「陛下におかれましてはご機嫌麗しく祝着至極に存じあげます」


 分かっていたと思うけど、この部屋の主は神聖バンダム王国第39代国王、アキヒト・フォン・バンダム・コウサカである。


「うむ。南部総督にクリストフ殿、すまぬがそちらで待ってもらえるかな」


「はっ!」


 俺は陛下に一礼し、父上について大柄の老人が待つソファーの方へと向かう。

 父上はその大柄の老人とガッチリと握手をして、俺の方に目をやり「息子のクリストフです」と俺を紹介する。


「クリストフ殿か、噂は聞いておるぞ。おっと、ワシはエイバス・クド・トムロスキーだ。宜しく頼むぞ神童殿」


 神童か・・・神様なんだがね。


「クリストフ・フォン・ブリュトゼルスと申します。トムロスキー軍務卿の噂は世間知らずの私の耳にも聞こえてきております。文武両道の英雄である軍務卿とお会いでき光栄でございます」


 このトムロスキー軍務卿は見た目は大柄で筋肉質で猪突猛進型の武将に見えるが、実は策士の面も持ち合わせた良将であり、軍閥系法衣貴族の名門トムロスキー伯爵家の当主である。


「・・・クリストフ殿は本当にゴーレス殿の孫ですかな? アーネスト殿もそうであったがとてもゴーレス殿の血が流れているとは思えん」


 祖父ゴーレスは良い言い方をすれば豪快、悪い言い方をすれば大雑把やガサツである。

 元冒険者であったので戦闘では無類の強さを誇っていたらしいが、政治や知略と言う面では凡夫であったし、貴族の堅苦しい生活を嫌い早々に父上に家督を譲った人である。

 年代的には祖父のゴーレスと被っているのでよく知っているのだろう。


 陛下が書類との戦いを終え席を立ちこちらにやってくるのを見て雑談は終わる。

 応接セットの上座に陛下が座ると父上、トムロスキー軍務卿、俺の順に視線を動かし俺に固定する。


「ソナタがクリストフ殿か」


「はい、陛下。クリストフ・フォン・ブリュトゼルスと申します。ご尊顔を拝し恐悦至極に存じ上げます」


 陛下の正面に立ち自己紹介をする。


「うむ、かけなさい」


 陛下の許しを得て、父上の横に座った俺を確認すると陛下は父上に目を移す。

 俺が嫡男であれば最初の謁見は玉座の間で正式に行われるのだが、俺は次男なのでそういった仰々しいことは行われない。


「南部総督、例の件でよいのだな?」


 徐に口を開き父上に用件を確認する陛下の目線は父上に固定されているが、意識は俺に向いているようだ。


「はい、左様でございます」


 ここにはソファーに座っている4人―――陛下と父上とトムロスキー軍務卿と俺―――以外には護衛の騎士が5人いる。

 9人も部屋の中にいるのだが、部屋が広いので息苦しさもない。


「ふむ、その回答は南部総督から聞けるのかな、それともクリストフ殿から聞けるのかな?」


 護衛騎士の5人の内、1人はジムニス兄上である。

 そして残りの護衛騎士の中には陛下の三男であるロイド・クド・バンダム様がいる。

 ロイド様は成人しており、今は騎士団に所属している。

 俺はロイド様と顔を合わせたことはないが、そこは神眼持ちの神様だからね。


 因みに名と姓の間に俺なら『フォン』、トムロスキー軍務卿やロイド様であれば『クド』がついているのだが、これは領地持ちかそうでないかの差である。


 え、俺は領地を持っていないだろうって?

 それは俺が未成年であるためで、俺が15歳になり成人と認められた時に領地を持っていなければ俺も『フォン』ではなく『クド』を名乗ることになる。

 但し、領地持ち貴族の嫡男の場合は成人時に領地を持っていなくても『フォン』のままだ。


「クリストフ」


 父上が俺に回答するように促す。


「はい・・・陛下よりご指示がございましたマジックアイテムの供出ですが、6日後までにご用意できるものは次のものになります」


 俺は懐から目録を取り出し読み上げる。


「傷ポーションが1万本、血液ポーションが5千本、マナポーションが1千本、上級傷ポーションが3千本、上級血液ポーションが1千本、上級マナポーションが2百本。ここまでが薬品類になります」


 傷ポーションはその名の通り、傷を癒す薬品で傷にかけても良いのだが、飲む方が効果は高い。

 しかし失った血液は作れないので、大怪我をした場合は傷ポーションだけでは治りきらない。


 血液ポーションは出血して無くなった血液を作りだす薬品で大量出血した者にはこの血液ポーションを飲ませ血液を補充しなければ傷を治しても失血死することが多い。


 マナポーションは魔力を回復する薬品で飲むことで効果を発揮するものだ。


「力のリングは1千個、守りのリングは1千個、素早さのリングは5百個、ファイアボールリングは5百個、ウォータリングは1千個となります。申し訳ありませんが障壁の腕輪は10個だけとさせてください」



 

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