045 クラン対抗戦・本戦2
日も暮れ花火大会が始まった。
打ち上げられる花火は63発。
俺たちは63発目の大取りでの登場となるので、ちょっと緊張している。
花火は意外と出来が良く、日本の夏の夜空を彩った大輪の花に似た花火から魔物や人物を模した立体的な花火まで色とりどりだ。
打ち上げも順調に進み後半に差し掛かると今大会の優勝候補である『生徒会』が花火を打ち上げる番になった。
『では『生徒会』は花火の打ち上げ準備を』
観客席の生徒たちも『生徒会』の打ち上げ花火に期待しているらしく声援が一際大きい。
「ガンバレ~っ」
「今年も期待していますよ~」
「クリュシュナスさまぁぁ~」
「おねぇさま~だいて~」
総じて好感をもっている声援だ・・・
クリュシュナス姉様は声援に応えながらもテキパキと指示をしていた。
どうやら『生徒会』は複数の魔法陣を使用するようで、数箇所に魔法陣を設置している。
こうして見るとクリュシュナス姉様の存在感は他者を圧倒しているな。
色白でか細く控えめに見える容姿なのに、放たれる気配は洗練された・・・いや、研ぎ澄まされた剣のような鋭さがある。
クリュシュナス姉様が先頭に立ち準備を進め、程なく打ち上げの時間となる。
クリュシュナス姉様が右手を振り上げる。
これまでの喧騒が嘘のように会場が静寂に包み込まれる。
クリュシュナス姉様の存在感が更に増す感じがする。
誰もがクリュシュナス姉様に注目する。
スーッと下ろされた右手に呼応するように魔法陣に魔力が流される。
魔法陣が光り輝き夜空に花火を打ち上げる。
花火大会といってもこの王立魔法学校の生徒が作る花火には火薬は一切使われていない。
その為、火薬特有の匂いも爆発音もしない。
その代わりではないが、発光量は日本の花火の比ではないほどに明るいのだ。
無音に支配された空間に一際輝くドラゴンの花火。
・・・やってしまった感がある・・・
何をって聞かれると今は答える気はないけど・・・
しかし打ち上げられた花火を見ていた観客から大声援があがる。
ドラゴンが夜空に羽ばたく。
細かい動きを入れているしよくできている。
翼を羽ばたかせ夜空を飛翔する光のドラゴンって結構見入っちゃうよね・・・
1分にも満たないが長い時間に思えた。
しかし参ったな・・・
あれやこれや考えていたのだが、やってしまった感バリバリだ。
「・・す・・・・」
「く・・・ふ・・」
「ちょっと! クリストフ!」
「へ?」
「まったく、1人の世界に入ってるんじゃないわよ! 私たちの出番も近付いているから行くよ!」
「わかった」
さて、前座の出番は全て終わった。
これから真打の出番だ。
用意した魔法陣は1つ。
組み込んだギミックは10や20ではきかない。
クリュシュナス姉様には悪いけど勝たせてもらうからね。
肉親が相手でも手は抜かないよ。
抜いたらそれこそ怒られそうだし。
怒ったクリュシュナス姉様って怖そうだし。
『これで最後になる。『MIツクール』は花火の準備を』
大取りに控えしは奇才、異才、天災のクリストフ君であります!
あれ、ちょっと字を間違えてしまった?
ははは、まぁ、やりようによっては天災だからあながち間違っていないけど・・・
一応、自分でも自覚しているんだからね!
今回、私めが用意致しましたのは、高度なギミックを組み込んだ動く----であります!
魔法陣は1つだけ!
セットは直ぐ済みます!
あとは開始の声を待つだけでありますっ!
カルラが教師にOKの合図を送る。
カルラの合図に呼応し教師が打ち上げの指示を出す。
カルラが魔法陣の周囲にいる俺たちに向かって首を縦に振る。
では、やりますか!
ペロン、クララ、プリッツが魔法陣に魔力を供給する。
俺が何をしているかって?
俺は魔法陣に魔力を供給している3人の魔力制御を手伝っております。
俺が魔力を供給すれば量や質に制御も簡単にチョチョイノチョイとできるんだけど、魔法陣を俺が1から書き直してしまった感が否めないのでせめて魔力の供給はと皆が言うから任せることにしたのだが、複雑な魔法陣なので魔力の供給にも繊細な制御が必要となり俺が制御を手助けしているってわけです。
3人に魔力を供給され魔法陣は光を放ち始める。
魔力を供給され魔法陣は徐々に発光を強め魔法陣全体に魔力が行き渡ると上空に光の柱を立ちあげる。
光の柱は発光を強め観客席だけではなくこの場にいる者は全て目を開けることができずに目を覆うのだった。
「ガオォォォォンッ」
光が支配する中、聞こえる雄たけび。
「な、なんだあれは・・・」
「まもの・・・」
光から解放された者たちが目にしたのは・・・
「きゃぁぁぁぁぁ」
体長20mもある巨大な蛇・・・ではないよ。
これはドラゴンだ。
生徒会もドラゴンの花火を打ち上げたが、生徒会のドラゴンは西洋竜。
そして俺の作り出したのは東洋龍だ。
俺のドラゴンを見た生徒たちが慌てふためき悲鳴をあげる者、席を立ち逃げ出そうとする者までいた。
これ花火ですって!
まぁ、普通の花火と違って音声付きだし動きがスムーズだから・・・って、本物の魔物と思うなんてこっちは思わないじゃん!
「クリストフ・・・君・・・あれって・・・はな・び・・・だよね?」
「勿論だよ、200以上の動きを組み込んでいるから結構スムーズに動いているように見えるんだ。凄いだろ?」
「すごい・・・けど・・・」
「凄すぎて誰も花火だと思ってないわよっ!」
ははは、ちょっとやりすぎたって感じかな?
てなわけで、やり過ぎって教師たちから怒られました。
急速な技術の進歩は理解されないものですよ。




