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036 ドロシー・フォン・バンダム

 


「え~、実技も免除されたの?」


「実技と言っても、魔術講座と魔法講座の単位を貰っただけだよ。実戦講座の授業は受けるしね」


「当たり前じゃない! クリストフが実戦講座まで免除されたらパーティーを組んでいるボクたちが困るわよ!」


 そういうことがあるから免除にはならなかったのだろうが、ブルーム先生からはあまりやり過ぎるなと念を押されている。


 あれから考えていたのだけど、これって【ギフト】の『災い転じて福となす者』の影響かしら?

 あのバカボンに絡まれたのが災いや不幸にあたるのかは微妙だけど、結果としては俺に良い方向に転んでいる。

 検証のしようがないので効果に関しては『あった』ということにしておこう。

 ビバ、ポジティブシンキングっ!


 そんな感じなので他の生徒が授業を受けている間、俺は自由時間が多い。

 そういった時間を利用して図書室で自主勉をするのだが、この王立魔法学校の図書館は蔵書の数が半端無く多いので、俺が求めている知識がそれなりに手に入るのが嬉しい。


 ふむふむ、この虹蜘蛛の糸欲しいな・・・虹蜘蛛はオウラ森林の奥地に生息が確認されているランクAの魔物か・・・

 この虹蜘蛛の糸で作ったローブなら色々な魔法陣を書き込めるんだろうな・・・


 こっちのベヒモスの皮は火耐性が最高レベルで、リバイアサンの皮は水耐性や氷耐性が最高レベルか。

 こういった素材で色々なマジックアイテムを作ってみたいなぁ~。


 こういった高ランクの魔物の素材にはまずお目にかかれない。

 何故か、それはランクAの魔物を退治するのには大規模な討伐隊が必要になるというからだ。


 今の俺はどのレベルに居るのだろうか?

 魔法に関しては氷と闇と時空は王級魔法まで操れるのだが、それ以外は中級から特級なのだ。


 残念なことにブリュトゼルス辺境伯家の蔵書の中には王級の魔導書が闇と時空しか無く、その他の属性はあっても特級までだったので、このような状態になっている。

 氷についてはロザリア団長がいたので王級まで身に付けることができたが、それで終わっている。


 だが、この王立魔法学校の図書室には俺が求めていた高位の魔導書が収められていると聞いた。

 しかし英雄級以上の魔導書は重要資料であることから閲覧は許可制になっている。

 だから現在は閲覧許可を申請しているところなのだ。


 そんな中で俺はアイテムの知識を得る自主勉をするために図書室に来ているのだが、今は授業中なので生徒はあまり存在しない。

 そんな閑静な図書室の中で1人異彩を放つ存在が目に入る。

 神聖バンダム王国の第3王女であるドロシー王女である。


 いつもは取り巻きが何人かいるのでそれなりに騒々しいのだが、ドロシー王女も俺と同様に幾つかの単位を取得しているので授業がない時間を1人で図書室で過ごしているのだろう。


 しかしドロシー王女は黙っていれば美少女で目を癒してくれるのに(胸には広大な平野が広がっているので残念なのだが)喋らなければなぁ~

 うおっ! 睨まれた?!


 目を合わすな石になる!


 あ、やっべ~、こっちに来た。


「今回の決闘騒ぎで魔法講座と魔術講座の単位を取得されたそうね」


「・・・おかげさまで・・・」


 全然ドロシー王女に関係ないのに何がおかげさまだよ!

 相手は王女なのだからもう少し敬って心証を良くしないと、まったりライフどころか牢獄行きだぞ!


「いつも思うのですが、貴方は私に失礼な考えを持っていませんか?」


 え、失礼ってどういうことなんだろうか? 胸のことか?

 う~む・・・


「・・・殿下に不快な思いをさせているのであれば、申し訳ありません・・・」


「・・・ドロシーよ。・・・殿下なんて堅苦しい呼ばれ方は好きじゃないの」


 むむむ、ドロシーと呼んでいいのだろうか?

 本人がいいと言うのだからいいのだろう・・・


「それと別に不快ではありません。・・・私は王家の者として常にトップを目指しているだけです。・・・だから貴方に負けないよう努めているのです」


 ふむ~、ドロシー王女は向上思考の強い方のようだ。

 こうして話をしてみると彼女の考え方が少し分った気がするし、地位に胡坐をかかない姿勢は好感が持てる。


「ドロシー様は努力家でいらっしゃるのですね。ご立派です」


「努力をしても辿り着けない高みもありますけどね」


「そのようなことはないでしょう。ドロシー様であればどのような高みも到達できるでしょう。親の七光りで好きなことをしているだけの私とは志が違いますから」


「・・・」


 あら?・・・黙ってしまった・・・


「ドロシー様?」


「貴方は自由なのですね。・・・うら・・・いえ、何でもありません。とにかく、私はトップを目指しますので、当面は貴方が私のライバルということになります。必ず私が上に立ちます!」


 ドロシー様は必勝宣言をして先ほどまで座っていた席に戻っていった。

 最後は少し顔を赤くしておられたので興奮しすぎたのだろう。


 俺は自分の好きなことをしているだけなので彼女のような考え方は堅苦しく思うが、俺には真似はできないことなので尊敬に値すると思う。


 さて、ここであのバカボンについて触れておこう。

 バカボンはあの後、大神殿に併設されている治療院に移されたのだが、魔力回路の修復はできなかったと聞いている。

 それと左足の方も再生はできていないそうだ。

 何故かって?

 高位の回復ができる神官が不在だの色々な理由があるそうなのだが、主に政治的な話でブレナン侯爵には敵が多いということらしい。


 神聖バンダム王国には国王派、貴族派、中立派などの派閥があるのだが、ブレナン侯爵は貴族派の中心人物で大神殿は国王に近い勢力なので様子を見ているそうだ。

 で、バカボンはしばらくはそのまま放置され適当なタイミングで国王のお声掛りで治療を施される段取りらしい。

 これは父上に聞いたことなので間違いないだろう。


 大神殿って宗教だから強大な力を持っているかと言えばそうではないらしい。

 神聖バンダム王国では宗教は国から保護されておりその分布教活動の制約もあるらしい。

 初代国王のアキラ様の時代に宗教保護と活動の制限についてしっかり定められ今も受け継がれているらしい。


 しかし貴族派とは言え、貴族なのに国王を敵に回すなんてよくやるよと思う。

 でもこれが王侯貴族の権力闘争の日常なのだろう。

 あのドロシー様もこういった世界で生きていく覚悟をしているのかも知れないな。


 因みに我がブリュトゼルス辺境伯家は国王派だ。


 

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