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029 実戦講座

 


 5月1日、今日から授業が通常になる。

 そして実技の授業も始まる。


 実戦講座を担当するのは担任のブルーム先生だ。

 元宮廷魔術師のブルーム先生の属性適性は闇が特級に氷が中級、そして水が下級とトリプルである。

 ブルーム先生もそうだが、生徒たちも杖を持っているのだが、俺は杖なんて必要ない。

 必要ないけど、一応杖を持っている。

 地味に邪魔なんだけどね。


「先ずはパーティーの3人で固まれ。・・・よし固まったな。そいつらが自分の命を預ける仲間だ。学校とはいえ実戦では何があるか分からないからな、生き残るためには3人で連携し色々な困難を乗り越えなければならんぞ」


 ブルーム先生は生徒達を一通り見回すとにやりと口元を緩め、ローブの中から50cmほどの木の先に宝石が嵌め込まれている杖を取り出す。


「これからパーティー単位で魔法を見せてもらう。魔法は下級魔法で属性は何でも構わん。いいか、魔法だぞ」


 そう言うと、ブルーム先生は杖に魔力を供給しグラウンド全体に防御結界を張り巡らした。

 あの杖は結界が張れるマジックアイテムのようだ。

 しかし、これだけの広さと中級の空間結界を張れるマジックアイテムとなるとメチャクチャ高価だと思うのだが、ブルーム先生の私物ってことは無いよね?


「ボク、魔法は得意じゃないんだよね。でも下級ならなんとかなるか・・・」


 カルラがボソっと呟くのが聞こえた。

 カルラは火属性の適性が特級なのでその気になれば下級程度の魔法は問題なく使えるはずだ。


「僕は下級だったら何とかなるかな。でも中級と言われるとキツイよ」


 ペロンは風属性の適性が上級なのでペロンも問題なく使えるだろう。


「クリストフなら下級魔法なんて簡単に発動できるよね?」


「今は下級なら余裕で放てるね。でも最初に魔法の訓練をした時は苦労したよ。最初に魔法を使うまでに6日も掛かったよ」


「え?・・・6日?」


「僕にも6日って聞こえたよ・・・」


 2人が何やら驚いているポイ。

 カルラからは「2ヶ月以上」とかペロンからは「3ヶ月近く」とか聞こえてくる。


「皆もそのくらいだろ?」


「んなわけあるかぁっ!」


 カルラ君、叫ばなくても聞こえますよ!


「そこっ、五月蝿いぞっ!」


 ほら、ブルーム先生に怒られたよ。


「次はお前たちだ。そんな元気があるなら俺の目を楽しませる魔法を放ってみろ!」


 それっておかしいよね? 目を楽しませるってエンターテイメントじゃないんだから。


「ほら、行くぞ」


 ブツブツ言う2人を引き連れ前に出ていく。

 ブルーム先生の横を通るときに「結界を壊さない程度にやれ」と言われてしまった。

 ははは、入学試験と同じ轍は踏まないよ。

 しかし、その後に「目を楽しませるのも忘れるなよ」と付け加えるところはブルーム先生らしいと思ってしまった。


 さて、目を楽しませるにはどうしたらいいのか・・・


「カルラはファイアボール、ペロンはホワールウィンドを頼む」


「いいけど、何をするの?」


「2人の発動タイミングを合わせてくれれば良い。後は見てのお楽しみで」


「分ったよ」


 2人は顔を見合わせ頷くと息を合わせて詠唱に入る。


『小さき魔を捧げ、小さき火の球を作りて、彼のものを燃やせ・・・ファイアボール』

『小さき魔を捧げ、小さき風の渦を作りて、彼のものを切り裂け・・・ホワールウィンド』


 2人の魔法が発動した瞬間に俺は空間属性の『収縮』を放ち空間を圧縮する。

 そしてファイアボールとホワールウインドが圧縮された空間内で1つに合体したのを確認してから魔力を追加してやる・・・そしてできたのがファイアトルネドだ。

 ファイアトルネドは炎の渦となって標的である案山子の周囲に火柱を立ち上げ、轟々と燃え盛っている。


 お、即興だったけど上手くいったな。

 使っているのは全て下級魔法だし文句は無いだろう。

 ファイアトルネドは2属性と魔力追加で強化しているので、上級魔法に近い威力を発揮している。


「「えっ?!」」


 カルラ君もペロン君も驚いています。

 ふふふ、どうだい、これぞ三位一体のトリプルアタックだ!


 そう思っていたら後ろから頭を殴られた。

 ブルーム先生だ。


「結界を壊さない程度にやれと言ったろうがっ! もう少しで結界が破壊されるところだったぞ!」


「そこら辺は調整して威力を抑えていますから・・・」


「あれで、威力を抑えているって・・・お前なぁ・・・」


 チャンと結界に合わせて威力は抑えているし、使った魔法も下級ばかりだし目も楽しませたでしょ?

 要望は満していると思いますよ?


 俺の想いが伝わったのか、ブルーム先生は「まったく・・・合格だ後ろに下がれ」と諦めムードで仰っています。

 後ろに下がろうとした時に「本当に無詠唱・・・合体まで」と聞こえたので無詠唱でやってしまったことに思い至ったが、やってしまったものは仕方が無いので何か聞かれても知らないと言い張ろう。

 まったり生活からほど遠くなっていく気がするよ・・・


 因みに合体魔法は普通に存在するが、これは長年魔法や魔術の経験を積んできた者で、気心の知れた者たちのみができる高等スキルだ。

 それを俺はカルラとペロンが放った魔法を強引に合体させるという離れ業をやってのけたことになる。

 ・・・ロザリア団長が知ったら「何やってるんですかっ!」って呆れられそうだ。


 気を取り直してまだ呆けているカルラ君とペロン君の手をとって引きずっていくが、後ろで見ていた他の生徒たちもまだ呆けていた。


 あ、王女様とバカボンはそれぞれ違った意味で睨んできてます。


 他のパーティーも順番に魔法を放っていくが俺たちのパーティーのインパクトが強かったのか、あまり盛り上がらなかった。


 因みに王女様はアイスボールで馬鹿君はファイアボールだった。

 でも、王女様のメイン属性は光なのにアイスボールを放っていた。

 恐らくは魔術の方に力を入れているようで魔法はあまり力を入れていないのだろう。

 魔術全盛だしね。


 そしてカルラとペロンからは・・・


「「何をしたの(ですか)!」」


 と追及されたので、こっそり合体魔法のことを教えたらカルラが卒倒した。


 

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