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145.2 閑話2

 皆さん、こんばんは。

 僕はリュートレクス・フォン・ブリュトイースです。

 前回に続き、今回も僕が案内をさせて頂きます。


 しつこくて申し訳ありませんが、

 今週金曜日の5月11日に『チートあるけどまったり暮らしたい』の2巻が発売されます。


 告知する場が『小説家になろう』しかありませんので、しつこくてもアピールするんだ!と作者さんが言っておりました。

 僕も2巻を購入して頂けると嬉しいです。


 それでは『閑話2』をお楽しみください。


挿絵(By みてみん)



 


 ムスクルスさんとは違ってアカンムさんは戦闘力もないのに特攻をするイケイケな人だった。

 実戦未経験の僕よりはマシだと思うけど、ムスクルスさんのように圧倒的な強さはない。

 それでも前に出て剣を振ろうとするから怪我が絶えない。


「アカンム、お前はあまり前に出るなと言うのに全然聞かないな!」

「隊長、戦いは勢いですよ! 前に前に、ドンドン前に出なければ!」


 脳筋なのは分かった。

 ケルトン隊長も頭を抱えている。

 ムスクルスさんが上手いことフォローしているから今は大怪我をすることはないけど、アカンムさんはそのうち大怪我をしそうで部隊全員が不安視している。


「うりゃーーーーっ! 俺の必殺の剣で逝けやぁぁぁぁぁっ!」


 必殺と言うけど魔物はしっかりとその剣を躱していますが……。

 あ、反撃を受けて殴り飛ばされた!

 二度、三度とバウンドしたアカンムさんは頭から血を流し気絶している。


「ムスクルス、アカンムが相手をしていた魔物を! ソウタはアカンムにポーションを!」

「「了解!」」


 ムスクルスさんと僕はケルトン隊長の指示を受けて動く。

 白目をむいて気絶しているアカンムさんの頭の傷口に傷ポーションをふりかけると見る見るうちに傷が塞がっていく。

 肉が蠢く感じが気持ち悪い。

 そこそこ血を流していたので念のために血液ポーションを口の中に流し込む。


「ぐはっ、ゲホ、ゲホ」


 失った血液を補ってくれる血液ポーションが気道の方に入ったのか咽て意識を取り戻したアカンムさん。

 わざとじゃないから!


「大丈夫か!?」


 戦闘が終わりケルトン隊長が駆け寄ってきてアカンムさんに声をかける。


「この程度、大したことないぜ!」

「馬鹿野郎! お前が突出するから部隊の皆が危険になるんだぞ!」


 凄い勢いで説教をするケルトン隊長。

 さすがのアカンムさんもしょんぼりしている。


「そもそも、お前は魔法要員だろうが! なんで剣を持って戦うんだよ!」


 えっ!? そうなの? 初めて知った事実です!


「キツネの獣人は魔法や魔術が得意な種族だろうが、なんで魔法を使わないんだ!?」

「剣の方がカッコイイから! ブベラッッッ」


 ケルトン隊長の鉄拳が火を噴いた!

 僕も今のところは殴るところだと思うから止めないよ。

 綺麗な錐揉みをして飛んでいくアカンムさんは自業自得だ。


 ダンジョンの中なのに懇々と説教をするケルトン隊長。

 左頬を腫らして不貞腐れるアカンムさん。

 この表情を見る限り魔法を使う気はこれっぽっちもないと思う。


 結局、アカンムさんは魔法を一度も使わずにダンジョンでの訓練を終えた。

 疲れ切ったケルトン隊長の表情が印象的だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ブリュトイース公爵家に仕官して半年が過ぎた。

 僕たち4人はそれぞれの職場にも慣れて久城は戦艦乗りになってしまったので陸にいることが少ないほどだ。


 佐々木さんはドロシー様に光属性の魔法の手ほどきを受け、毎日診療所で怪我人や病人と向き合っている。

 何故か日本にいた時よりも今の佐々木さんの方が輝いて見えるのは光属性の魔法のせいではないと思う。


 植木さんも毎日忙しくしている。

 おっとりとした性格の彼女だったけど、職場の上司のウードさんのテンションに引っ張られて毎日楽しく仕事をしていると言っていた。

 ここにくる前の彼女より笑顔が増えた気がするので今の仕事があっているのだろう。

 それに良い上司に恵まれたんだと思う。


 僕の方はと言うとこの半年で剣と魔法が共に向上している。

 僕の周囲でもアカンムさんが魔法を使い始めて変わったと思う。

 アカンムさんの場合、ダンジョンでの訓練で相変わらず剣を振り回していた。

 しかし、先月の訓練でアカンムさんが魔物に押し込まれ味方に被害が出た。

 まぁ、その被害者は僕なんだけどね……。


 ダンジョンでの訓練は僕たちの戦闘練度に合わせて深い層に移っていったこともあり、出てくる魔物も強くなっていた。

 だから一瞬の隙が命取りになりかねない。

 何度失敗してもめげなかったアカンムさんも僕が死にかけてようやく魔法を使おうと思ったようだ。

 はぁ、僕の内臓が飛び出る前にそうしてほしかった。

 あの時は本当に死ぬんじゃないかと思ったし、走馬灯も見えた気がする。


 今日は休日なので買い物でもしようかと町に繰り出す。

 先ずは食事をしようかと思う。

 場所は最近できたばかりのレストラン・クックだ。

 予約が取れない店としても有名で半年先まで予約が埋まっているという繁盛店。

 僕が今日の食事をどうしようかと考えていた時に偶々通りがかったカルラさんが予約を取ってくれたんだ。

 旦那さんの実家だから顔がきくのは分かっていたけど、まさか前日に予約が取れるとは思っていなかった。


「あはは、そんなこと気にしないの! 困った時は頼ってくれていいんだからね!」


 とても嬉しかったのでお礼を言ったらどこかのおばちゃんのように豪快に笑って背中をバンバン叩かれた。

 行動はおばちゃんでも、この人は聖オリオン教国でワーナーをボコボコにして悪魔神もぶっ飛ばした人なんだよな。

 子爵夫人だし、自身も男爵に叙爵されている女傑だと聞いた。

 本当はこんなに馴れ馴れしく話すことができる人ではないと思う。

 そして何より僕よりも年下なのに性格はおばちゃんだ。


 海上勤務が多い久城はともかく、佐々木さんや植木さんを誘おうと思ったけど二人とも忙しくて休みが取れなかった。

 急な話だったし仕方がないけど残念だ。


「お~い、双葉、久しぶりだな」

「お、久城か、久しぶりだな。また日焼けしてないか?」


 大通りをウキウキしながら歩いていたら久城に声を掛けられた。

 久城は軍艦乗りだからほとんど海上にいて陸上にはあまりいない。

 それなのにこんなところで会うなんて本当に凄い確率だ。


 大きな体の久城は水兵用のセーラー服に似た真っ白な軍服なので顔の黒さが際立つ。

 水兵の帽子もなかなか様になっている。

 もうすっかり水兵なんだな、と思う。


「おう、海の男って感じだろ?」

「海の男って、たしかにそうだけど……」


 何と答えたら良いのか分からない。

 黒ければ海の男なんだろうか?


「先日な、海賊と戦闘したんだが、やっぱ近代兵器と帆船じゃ相手にならないな!?」


 そりゃそうだろう。

 僕も久城が乗艦している戦艦を見たことがあるけど、あれはどう考えてもイージス艦じゃん。

 二十一世紀の最新鋭戦艦と十六世紀の帆船ではどう考えても相手にならないと思う。

 魔導砲ひとつとっても破壊力抜群で帆船くらいは一発で大破させる威力があるのは陸上勤務の僕でも知っていることだ。


「最近じゃ、対艦ミサイルまで搭載されて20Km以上離れた場所から狙い撃ちでシーサーペントも瞬殺だぞ。ハハハ」


 対艦ミサイルってなんだよ!?

 ここは地球じゃないんだぞ? どうして対艦ミサイルまであるんだよ!

 それにシーサーペントってランクSの化け物だろ?

 そんなのを瞬殺ってどうなっているんだよ!?


「まぁ、木っ端みじんになったから素材もなにも回収できなかったけどな。ハハハ」


 ハハハ、ってお前なぁ~、そんな簡単な話じゃないだろうに……。


「シーサーペントが木っ端みじんって凄いな……」

「凄いのはそれだけじゃないぞ、ってこんな道端で話すことじゃないし、本部へ出頭するところだった。今度どこかで飲もうぜ!」


 飲もうぜって、まぁ、この世界では僕たちの年齢は成人なんだけどな。

 日本ではまだ高校生の年齢なので「飲もう」は違和感がある。

 でも僕もケルトン隊長たちと酒を酌み交わす場は何度もあった。

 成人する前でもワインを飲む風習があるこの世界なら普通のことなんだよな。


 久城と別れレストラン・クックに向かった。

 店の前には行列ができていたが、予約してある僕はそれを店員に告げるとすぐに店の中に通される。

 その時の並んでいた人たちの視線がとても怖かったとだけ言っておこう。


 僕が席に着くと注文もしていないのに料理が運ばれてきた。


「子爵夫人様より全て承っております」


 聞いてみたらカルラさんが料理も手配していたようだ。

 メニューを見て決めたかったと少し思わないではないけど半年先まで埋まっていた予約を無理やり取ってもらったのだから文句はない。


「こちらのコースはご領主様であらせる公爵様用の特別コースにございます」

「え? 公爵の……?」

「はい、公爵様が料理の監修をされております」

「……」


 僕は声を失った。

 たしかにお館様であるブリュトイース公爵(神様)とは個人的な繋がりがあるけど……。

 呆然としている僕の前には皿の上に綺麗に盛り付けられた料理が四品ある。

 どれもひと口で食べられそうな綺麗な料理だ。

 しかも箸が添えられている。


「和食……?」


 それらの料理を見つめれば見つめるほど食べるのが勿体ないと思うほど彩り豊かで美しい。

 何かの肉に葉物がくるまれた一品を箸でつまみ上げる。

 非常に洗練された料理だと素人の僕でも分かる。

 口に含み二度、三度と咀嚼するとなんだかホッとする。

 味は勿論美味しいけど、一番最初に安心できる味だった。

 スーッと口の中に四品が吸い込まれていくように無くなってしまった。

 心が安らぐ。

 そして四品が無くなったとほぼ同時に次の料理が運ばれてくる。

 すごくタイミングが良い。


「椀物?」


 漆塗りに見えるお椀の蓋を開けると湯気が立ち上り柔らかな香りが僕の鼻孔をくすぐる。

 陳腐な表現だけどこの香りの奥深さを感じる。


「お吸い物……だよね?」


 鱧のような魚の身と緑の野菜、湯葉のようなものが透明な液体の中に入っている。

 お椀は外側は赤茶色で内側が黒いので、その黒に魚の身や湯葉のような物の白さが際立ち、そこに野菜の緑が映えている。

 見てよし、香りもよい。味は……美味い!

 鱧のような魚はしっかりと骨切りもされていて骨は気にならない。

 もう完全にお吸い物ですよ!


「これは間違いなく和食。しかも料亭とかで出てくる懐石料理だ」


 まさか異世界でここまで本格的な懐石料理を食べられるとは思ってもいなかったよ。

 あの神様、本当は日本人じゃないのか?


 その後も懐石料理のフルコースと言ったら良いのか、美味しい和食がいくつも運ばれてきて僕はそれらの料理に舌鼓をうった。


「とても美味しかったです。故郷を思い出してしまいました」

「お喜びいただき当店としても嬉しい限りです」


 最後にシェフが現れて僕に挨拶をしてくれた。

 まだ若いシェフなのにこれだけの和食を再現しているなんて凄いことだと思う。

 それにこのシェフは何だかクック子爵に似ている。


「ペロン・フォン・クックは私の弟です。自慢の弟ですよ」


 やっぱりクック子爵のお兄さんだった。

 兄弟そろって人当たりの良い感じだし、何よりも男前だ。

 女性にモテそうだね。


「お代は頂いております。今後とも当店をお引き立てください」


 カルラさんが代金を払っておいてくれたようだ。

 なんというか、若いのに老練な気の使いようだ。

 とてもブリュトイース公爵(神様)の頭を叩いたりする人には思えない。

 できるだけ早くお会いしてお礼を言わないとな。


 レストラン・クックを出た僕は町中でショッピングを楽しみ寮に帰った。

 一応、お礼状を送っておこう。


 翌日、僕はブリュトイース公爵(神様)に呼ばれ出頭する。

 隣を歩くケルトン隊長に呼ばれた理由を聞いたけど、隊長もどうして呼ばれたのか知らないといっていた。

 何かしたかな? もしかして昨日の懐石料理は神様専用のメニューで僕が食べたらいけなかったのかな?


 ブリュトイース公爵(神様)の執務室のドアをノックする。


「ベンドレイ・ケルトン、およびソウタ・フタバ、出頭致しました」


 ケルトン隊長が名乗ると執務室の中から入ってよいと返事を頂いたのでドアを開けて中に入っていく。

 執務室の中には部屋の主であるブリュトイース公爵(神様)と犬耳メイド姿で実は神様の護衛隊長であるフィーリアさん、それからクック子爵とフェデラー将軍がいた。

 そうそうたるメンバーなので何事かと僕は生唾を飲み込む。


「やぁ、わざわざ来てもらってすまなかったね」


 ブリュトイース公爵(神様)が口火を切る。


「フタバ准尉はここの生活に慣れたかな?」

「はい、皆によくしてもらっております!」


 公式の場ではないけど、家宰のクック子爵と軍部のナンバーワンであるフェデラー将軍がいるので言葉を慎重に選ぶ。


「そう畏まらなくても良いから、楽にしてよ」

「はい、ありがとうございます」


 楽にしてと言われて本当に楽にする人はいないと思う。

 大なり小なり目上の人へ敬意を払うはずだ。

 だから直立不動から肩幅に足を開き休めの姿勢に変えるだけだ。


「……まぁ、よいけどね。これ、フタバ少尉への命令書」


 少尉? 命令書? いったいなんだろう?

 僕とケルトン隊長は顔を見合わす。

 ブリュトイース公爵(神様)が差し出した書類をクック子爵が中継して僕に手渡してくれた。


「拝見しても宜しいでしょうか?」

「勿論だよ。そうじゃないと話が進まないからね」


 僕は質の良い紙に書かれた内容を読む。

 神聖バンダム王国では羊皮紙が使われていたけど今ではこの上質紙が取って代わっているそうだ。

 羊皮紙に比べ安価で品質も安定している上質紙は日本人の僕には羊皮紙よりも馴染みがある。

 その上質紙に書かれていた内容は……。


「空軍? 竜騎士隊でしょうか?」

「いや、航空機を開発したので君をテストパイロットに任命する」

「メンバーはまだ君だけだが、航空機の量産の目途が立ったら部隊を編成する。その時には君が部隊を率いることになる。だから少尉に昇進だ」


 フェデラー将軍がブリュトイース公爵(神様)の言葉を引き継ぎ説明をしてくれる。

 どうやら飛行機を造って航空部隊を編成しようとしているようで、僕に試作機のテストパイロットをしろと言っているようだ。


「ケルトン隊長、戦力が抜けるが補充は今のところ考えていない。大丈夫か?」

「はい、他の隊員も優秀ですので問題ありません!」

「うむ、このことは極秘事項である。両名とも他言は無用だぞ」

「「はっ!」」


 こうして僕は飛行機のテストパイロットになった。

 そして飛行場に赴く。

 そこには日本で見たような滑走路と管制塔ができあがっていた。


「お館様の行動力というか生産力は半端ないと聞いていたけど……」

「フタバ少尉でしょうか?」


 不意に後方から声をかけられた僕はビックリして肩を震わす。


 

活動報告でも報告しましたが、

「閑話3」もあります。

何だか書いていたら長く、長くなり過ぎました。

5月10日にアップ予定です。

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