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136 リー・シーダイ

 


 ホンジュが馬鹿でかい斧を振り下ろす。その一振りで周囲の敵兵が無残にも肉や骨を断ち切られ絶命する。

 そして進路が開けると敵の多く固まる場へ突撃する。

 あいつは本当の意味で戦闘狂(バトルジャンキー)だ。

 だが、ホンジュのお陰で俺は思ったよりも楽ができるので、ホンジュを止めることはしない。

 この町を落とせばブリジルド地域は全て手中にしたことになる。

 このブリジルド地域はキルパス川の南側の広大な地域だ。土地も肥沃でホン王国に比べるのも馬鹿らしいほど豊かな土地だ。

 人口だってホン王国の数倍どころか数十倍にもなるのだからこの土地で地盤を固め、更に南下するのが今後の目標となる。


 神聖バンダム王国は聖オリオン教国を潰す勢いでクリセント・アジバスダへ進軍しているが、俺はこの地で聖オリオン教国の腐れ外道どもを潰す。

 これをすることでキルパス川以南の聖オリオン教国勢を引き付けたり、警戒させ防御を固めさせることになる。

 これは予めブリュトイース公爵から依頼されたことなのだ。俺にとっても有益なのでその依頼を受けることにした。


 聖オリオン教国の国土は広い。とても広いのだ。

 キルパス川を挟んで南北に分かれているが、人口は北側に多く南側の方が少ない。

 それでも南部の人口は数百万にも及ぶし、北部よりも南部の方が土地が広大なのだ。

 そして神聖バンダム王国はキルパス川より北部を切り取り、南部はキルパス川沿いの港を抑えるように進むだけで南部の内陸部には手を付けていない。

 つまり内陸部は手付かずなので俺の実力次第で切り取り放題なのだ。

 ただ、問題がないわけではない。

 何と言っても宗教というのは人を精神的な面で支配をしているのでオリオン教が根付いているこの土地をどう治めるかが課題となっている。ただ……あの夢が、エンジェルが聖オリオン教国兵を断罪したあの夢を見てからは民の抵抗が減った。

 エンジェルがオリオン教において非常に神聖な種族として神の御使いとして祀られているので、あの夢は信者にとってショッキングだったのだろう。

 しかもその後また夢を見て、聖オリオン教国の勇者の聖剣が折れてしまったことで多くの民の心も折れてしまったようでオリオン教から離れているように見える。


「掃討が終わりましたぞ」

「ああ、だがこれで終わりではない。このブリジルド地域より南には広大な土地が俺たちを待っているのだ、ホンジュ」

「どんな強敵がいるのやら、楽しみですな」

「お前は相変わらずだな」

「ほっ、ほっ、ほっ」


 変な笑い方をするなよ。


 数日後、今までは人口数千人の土地を治めていた俺たちだったので、広大なブリジルド地域を手に入れたは良いが統治に苦労をしている。

 住民台帳さえまともにないのだから人口の把握も難しい、ほんと聖オリオン教国は碌な国じゃないよ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 王家がブリジルド地域の代官を送ってきた。

 参戦に否定的だった王家がこの広大な土地の統治に口を出してきたのだ。

 ふざけやがって、お前らは何もしていないだろうが!

 決めたぞ、俺はこの土地で独立し俺の王国を造ってやる!


「リー殿、何を寝ぼけたことを!?」

「寝ぼけたことだとっ! それは貴様だ!」


 俺は代官として送られてきた男を睨みつけ怒鳴りつけた。奴はビビッて後ずさりをする。


「神聖バンダム王国との同盟を結んでおきながら参戦要請を無視したのはどこのどいつだ?」

「そ、それは……」

「神聖バンダム王国との約定を果たすためにこのブリジルド地域を切り取ったのは誰だ?」

「り、リー殿……でござる」

「その戦費、人員の全てを賄ったのは誰だ?」

「……リー殿でござる」

「それで、お前は俺になんと言った?」

「……」


 俺は自称代官を放り出し、その後すぐにホン王国からの独立を宣言した。

 本国がフザケタことを言ってきたら独立すると決めていたので俺の行動は早かったと思う。

 そんな中、本国は何度か使者を立て俺に恭順をと言ってきたが俺はそれを全て追い返した。

 しかしホン王国は軍事行動などできない。

 ブリュトイース公より貰い受けた魔物除けのマジックアイテムの効果を疑問視したあいつらにマジックアイテムを与えず俺が持っているので、本国では魔物との戦いだけで手一杯で俺を討伐するための出征などできないのだ。

 ホン王国が兵を出したとしても返り討ちにしてやるのだけどね。


 このブリジルド地域を治めて最初にしたことは不当に奴隷にされていた獣人やエルフ、ドワーフなどの人々を解放することだった。

 ホン王国の住人はほとんどヒューマンなので獣人やエルフなどの他人種はまず見なかったので、俺のテンションはもう急上昇だ。

 これからは俺の時代!そして俺の時代になったと言うことは……は、ハーレムじゃぁぁぁぁぁぁっ!

 はぁ、はぁ、はぁ、いかん、落ち着け俺!


 この解放政策によって俺は多くの戦力を得ることができたのだ。オリオン教徒だったヒューマンなんて怪しすぎて直ぐに部下にするなんてできないぜ。

 最初は疲弊していた元奴隷たちも十分に食料を与え休養させたことで最近は軍の訓練を受けられるようになってきた。

 あのホンジュが訓練をするので内容はかなり厳しいが、それでも再び奴隷に戻るよりはマシだと思っているようで彼らは歯を食いしばり訓練に耐えている。


 戦力が整うまでは領土拡大は難しいので暫くは内政に精を出すことにした。

 資金は狂信者どもからまきあ、ゴホン、徴収したので潤沢にある。これで武装の拡充も図ろうと思う。

 だからブリュトイース公に手紙をしたため援助を頼んだ。

 そうしたらなんとすぐに返答があり剣、槍、鎧、食料が届けられたのだ。なんつー物量だよ。

 どんなことがあってもブリュトイース公と仲違いはしないぞ、と思ったよ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あれからそれなりに月日が経った。

 神聖バンダム王国の進軍も順調で近々聖オリオン教国の首都である教都クリセント・アジバスダを包囲するだろうとのことだ。

 俺の方は内政だけではなく、南からの聖オリオン教国軍を迎え撃ったりして忙しくしていた。

 しかしお陰で聖オリオン教国の抵抗もほとんどなくなり内政もかなり順調だ。

 これなら南進する日も近いだろう。


 ホンジュは相変わらず兵の訓練に熱心で、最近では元奴隷だった獣人やエルフたちも表情がしまってきた。そして食事もしっかり摂っているのだろう、以前の痩せ細った体型が嘘のように筋肉がついてきた。

 てか、ホンジュの訓練についてこられる彼らは間違いなく精鋭となるだろう。いつの日か聖オリオン教国を滅亡させる日が彼らの手によって来ると良いな、と思うがこの地はクリセント・アジバスダからは遠く離れている土地なので難しいだろう。


 もう直ぐ年の瀬だが、この地に雪は降らない。

 今年は良い年だったと振り返ることができるように最後まで気を引き締めていこう。


 

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