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132 ドロシー動く

【チートあるけどまったり暮らしたい】の書籍が9月16日(本日)発売されます!

宜しければお手に取って頂ければと思います。

また、活動報告で更新予定や書籍に関して少しながら情報を出しておりますので、確認頂ければと思います。


 


 夢を見ました。

 何かとてつもなく大きなもの、深淵を覗いたように黒いもの、そして形容しがたい悪意のようなものを夢に見ました。もしかしたらクリストフに何かあったのかと飛び起き彼から貰ったスマホを手に取りました。


「おはよう、こんなに早くどうしたんだい?」

「…………よかった」


 まだ寝ていたのか、やや眠そうな声でしたがいつものクリストフの声が小さなスマホから聞こえました。ホッとしました。


「何かあったの?」

「いえ……ただ声が聞きたくて……」


 ひと月前の出産についてまだ報告はしていません。今は子供のことでクリストフを煩わせてはいけないとセシリア様と相談し家臣たちにも報告を控えるようにと指示しています。

 でも本当は生まれてきた子を囲んで笑いあっていたいのです。クリストフと子を囲んで笑い合い、時には泣き、戦争なんかなかったように親子3人で過ごしたいのです。


「早く帰るようにするからさ。お腹の子はどうかな? もう産まれても良い頃だよね、体調はどう? 風邪とかひいてない?」

「はい、大丈夫です。体調はとても良いです」


 クリストフが用意してくださった医師団や分娩室、それに薬類のお陰で私も子も元気です。


「無理しちゃダメだよ。ドロシーは頑張り過ぎるからさ」


 無理をしているのはクリストフの方です。

 クリストフの気性は知っています。降りかかる火の粉を払うのはしますが不毛な争いより仲間を集めて楽しくワイワイガヤガヤするのが好きなのです。本当は子の出産にも立ち会いたいと思っていたはずですし、戦争なんかしたくもなかったと思います。


「クリストフも無理してないですか?」


 愚問ですね、したくもない戦争に出ている彼に言う言葉ではないです。自分に嫌悪してしまいます。


「私? 私はドロシーと会えなくて寂しいかな。早く帰りたいよ」

「本当ですか? 私も会いたいです!」


 ここからは自主規制させていただきます!

 だって恥ずかしいじゃないですか。


 クリストフとの通信を切りほんわかとした気持ちの余韻にひたります。

 ……決めました! 私はクリストフの所に行きます!

 私だってイーストウッドでは聖女と呼ばれる回復魔法の使い手なのです、戦場で傷ついた方々の力に少しでも成れればと思うのです! 決してクリストフに会いたいからではありません!

 そうと決めたら早速行動です!

 先ずはセシリア様を味方に付けなければ、あの方を味方に付けてしまえば誰が何と言おうと大丈夫です!


義母(おかあ)様にお願いの儀がございます!」


 朝食を摂りルーナに淹れていただいたお茶を飲んでホッとした一時を狙いセシリア様に声をお掛けしました。


「構いませんよ。貴方(ドロシー)の好きなようにしなさい」

「え……(わたくし)はまだ何も……」

「貴方の気持ちは分かっております。お行きなさい。赤ちゃんは私が責任をもって守ります」

「あ、ありがとうございます! で、でもどうして……」


 セシリア様が私の思いを汲んで何も聞かずに許可を出してくださいました。


「うふふ、私だって今の貴方の年齢だった頃もあるのよ」


 私は顔を赤くしたと思う。顔から火が出るかと思うほど熱かったです。

 セシリア様には私の思っていることなど手に取るように分かっておいでです。でもこれでクリストフのもとに向かえます!


「マイベイビー、ママはパパの手伝いをしに行きます。貴方のことはセシリア様にお任せしましたから安心してくださいね」

「……ばぶ」

「……え!? 私の言葉が分かるのですか?」

「ばぶばぶ」

「ま……さか? 一緒に行きたいのですか?」

「ばぶ~」


 どうやら私の言葉が分かるようです。どういうわけか……いえ、彼の子ですから不思議には思いません!

 でもどうしましょう、一緒に行きたいと思っているようです。

 えっ!?


「うそ……」


 マイベイビーが宙に浮いています……。


「ばぶばぶばぶ~」

「わ、分かりました、一緒に行きましょう!」


 その後は大変でした。さすがのセシリア様もマイベイビーを連れて戦場に赴くことを許そうとはしませんでした。その気持ちは分かります。でもマイベイビーが自分の意志で宙に浮き、それを見たセシリア様は固まりました。セシリア様だけではありません、その場に居たリリイアやルーナたちも固まっております。


「ばぶばぶばぶ!」


 マイベイビーが頻りに訴えた効果なんでしょうか、疲れた顔をしたセシリア様がこめかみを押さえながらマイベイビーの同行を許可してくださいました。

 条件としてはリリイアを連れていき、決してリリイアから離れないということでした。


 セシリア様の許しを得たので直ぐに準備をします。

 マジックバッグに色々なものを放り込み竜騎士隊の駐屯地に向かいます。この駐屯地には私用の魔物が居るのです。


「奥様、私も同道させていただきます!」

「ケスラー子爵夫人、これから行く場所は戦場です」

「分かっております。しかし私は若君の乳母です! 若君が居る場が私の居るべき場なのです! 離れることはありません!」


 気丈な方です。でも彼女がマイベイビーの乳母で良かったと心から思います。

 マイベイビーは良い家臣を得ましたね。と考えていたらマイベイビーがニッコリと微笑みを浮かべていました。


「アルー、元気にしていましたか? 今日は私の息子と彼女たちを乗せて飛んでくださいね」

「ガルゥゥ」


 ワイバーンより大きく綺麗なグリーンの体をユックリと動かしドシンッドシンッと大地を踏みしめ私の傍に寄ってきたのは、アルーと私が名付けたエメラルドドラゴンです。

 エメラルドドラゴンはランクSに指定される魔物です。

 クリストフと私、カルラさん、ペロンさんの4人で大森林を探索している時に出会いカルラさんとペロンさんが協力して戦いギリギリの戦いでしたが深手を与えることができました。

 (とど)めを刺そうとしたカルラさんを止めたクリストフが私にエメラルドドラゴンを回復するように促したので怪訝に思いましたが、クリストフの言う通りにしましたら私に懐いてしまったのです。

 それ以来、私の眷属としてアルーはブリュトイース家の敷地で暮らしているのです。

 ドラゴンは人語を理解し話すことができる個体もいるそうですが、このアルーはまだ若く幼体から成体になったばかりだそうで理解はできますがまだ人語を話すことはできないそうです。


 アルーが一度(ひとたび)羽ばたけば急浮上し、二度羽ばたけばあっと言う間に最高速度にまで加速します。

 ドラゴンはワイバーンと違い翼を羽ばたかせて飛ぶのではない、とクリストフが言っていました。事実、アルーは浮上時と加速時にしか翼を羽ばたかせていません。

 ドラゴンは魔力によって飛ぶのだという証拠だそうです。ではなぜ二度の羽ばたきをするのかとクリストフに聞いてみましたが、「何でか考えてごらん」と言われてしまいました。残念ですがその理由は今でも分からずじまいです。

 逆にワイバーンは翼の羽ばたきで飛ぶのですが僅かにですが魔力も使っているそうです。鳥と一緒ですが、ワイバーンは体が大きいので平地から飛び立つのが苦手らしく、そういう時には魔力で多少の補助をする程度で基本は翼を使って飛ぶらしいのです。


 アルーの飛行速度はワイバーンとは比較できない程速くあっという間に大森林を越えて聖オリオン教国側に入りました。

 大森林ではアルーにちょっかいを出す魔物もおらず順調です。それにアルーが魔法を使って背中の上に居る私たちを保護しているのでとても快適です。リリイアもあまりの快適さに驚いていますが、ケスラー子爵夫人は顔を真っ青にして下を見ないようにしています。


 ワイバーンではこうはいきません。ワイバーンの魔法は主に飛び立つ時の補助でしかないですが、ドラゴンは飛行という行為全体に対し魔法を行使しているのです。だからワイバーンを駆る竜騎士隊はクリストフ製のマジックアイテムで風圧を軽減し、気圧変化、空気濃度、温度変化を調節しているのです。とクリストフが言っていました。彼の話は難しいのです。


 聖オリオン教国の教都クリセント・アジバスダにかなり近付きました。クリストフは今日の午前中にはクリセント・アジバスダ近隣に陣を構えると言っていましたのでもう直ぐ会えると思います。

 しかし何だか嫌な感じがします。クリセント・アジバスダに近付くにつれこの嫌な感覚が大きく成ってきます。

 先ほどからマイベイビーもなんだか表情を顰め不機嫌な感じがします。


 そして視界の端に教都が見えてきた頃にマイベイビーが泣き出しました。

 マイベイビーではないですが、私も不快になる嫌な空気をあの街は出しています。


 

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