091 戦雲
100話記念!・・・と言いたいのですが、普通です。
すみませんペコリ(o_ _)o))
とはいえ、記念なので本日は午前8時にもう1話更新します!
聖オリオン教国は中央大陸の南東部を支配する大国だ。
国民は全てヒューマンであり、獣人やエルフやドワーフなどヒューマン以外の種族を亜人と呼び下級種族と蔑み奴隷以外では生きることを許さないヒューマン至上主義の国家である。
更に魔人などは害虫として問答無用で排除するような国家でもある。
国教は言わずと知れたオリオン教であり、このオリオン教は創生主と7大神を祀っている宗教団体であり、聖オリオン教国ではこのオリオン教以外の宗教は全て邪教としているので国民全てがオリオン教徒だと聞いている。
創生主とは創造神を意味するようだが、俺が知っている創造神様とは容姿のイメージが違い創生主を模した像などはナイスバディの妖艶美女になっているそうだ。
そして7大神とは火・水・風・土・光・闇・時空の7属性を司る神のことであるが、たしかメリナード様が時空を含む色々な女神だったと思うがオリオン教では時空の大神はオッサンがモデルになっている。
てか、神が創生主以外に7人しかおらず、それ以外は邪神という乱暴な教えらしいのでかなり似非な宗教団体だ。
俺のリサーチではオリオン教に本物の神が関係している事実はなかった。
よう・・・創造神様に聞いたらオリオン教はモグリの宗教団体で創造神様だけではなく善神は誰も関与していないそうだ。
メリナード様からも同様の答えが返ってきたので心置きなく潰す算段ができるってものだよ。
悪神?
悪神の方は伝がないので分からんよ。
それに有力な悪神が関係していないことはメリナード様よりも聞いている。
仮に悪神が関与していたとしても先に手を出したのは向こうなのでケジメはつける必要がある。
神の世界は舐められたらおしまいなのよ。
なんちゃって。
しかしどこの世界でも宗教による戦争は後を絶たないな。
本物の神様を崇めたりするのは常識の範囲で良いとしても神様を騙った似非宗教は危険極まりない。
俺としては俺を崇めよ、称えよと言いたいね。
てか、創造神様やメリナード様がオリオン教を潰しておいてくれれば良いのに・・・忙しいから面倒なのかな?
創造神様はあまり働いていないように思えるのだけど・・・
聖オリオン教国は聖クロス騎士団という軍を中心とした遠征軍を準備しているという情報が父上に上がってきており、近々戦争になるという見通しが大勢を占める。
そのうえに俺から盗賊騒ぎの報告があり、国内の特に南部のオリオン教徒の監視や国内の不穏分子の取り締まりが強化された。
で、ここで問題になるのがベルム公国である。
この時期にベルム公国が神聖バンダム王国に使節団を送ってくる意図が分からん。
近々タヌキとの謁見が行われると聞いており主だった貴族に出席するように布令があったので伯爵である俺も出席することになっている。
あまりというか、まったく気が向かないが行かざるを得ない。
陛下とベルム公国の使節団との謁見が始まろうとしている。
俺は父上の横に立ち使節団が入場してくるのを待っているところだ。
この謁見では使節団の代表者である使者がベルム公国のガロン大公よりの親書をタヌキに渡すだけだ。
実際の交渉は実務者レベルで行われ何日か、何十日か、後に陛下より使者に対して回答がされることになる。
その間、使節団は王城に近い場所に設けられている迎賓館に留め置かれることになる。
「それがし、ベルム公国使節団使節使をあいつとめますフレーレス・デルシと申します。国王陛下のご尊顔を拝し恐悦至極に存知上げます」
使節使とはベルム公国の対外使節団の団長のことを指す役職らしい。
その使節使はオーバーリアクションで身振り手振りを織り交ぜた挨拶をし、仰々しく頭を垂れた。
何か貴族貴族して俺はああいうのは好きではない。
まぁ、俺の好き嫌いは関係ないけどね。
「うむ、遠路遥々よく参られた」
陛下はあまり喋らないのが慣例のようで最初の挨拶以外は陛下より数段下に控える宰相が受け答えをしている。
宰相は使節使の自慢話を適度に右へ左へ受け流す。
いい加減にしてほしい、いつまでこの自慢話は続くのだろうか?
このデカイ謁見の間で無意味とも思える時間が過ぎていく。
やっと終わった頃には俺のSP(精神ポイント)は半分以下になっていた。
「結局あの使節使は何が言いたかったんだ?」
「さぁ、私には・・・」
「自慢したかったんでしょ?」
ゲールも俺と一緒であの使節使の行動が理解できなかったが、カルラは貴族の自慢話だって切って捨てる。
2人は騎士爵なので俺の身内として今回の謁見にも参加していた。
後日、神聖バンダム王国とベルム公国共に領事館を設置し暫定的に交易を開始することになった。
そして問題となったのは神聖バンダム王国の窓口をどこにするかだ。
今回の交易は暫定的に開始されるので窓口は1ヶ所にして様子を見るという取り決めがある。
ただし窓口の街には多くの利益を齎すことが分かっていたので利権がらみでかなりもめた。
これまで海に面していたのは東部の港湾都市アルスムしかなかったが、今回のベルム公国使節団がイーストウッドに現れたことでも分かるようにイーストウッドが候補として上がっている。
イーストウッドを湖の上に作ったのは将来的に交易を考えていたからだが、今回のベルム公国の交易窓口になる必要はない。
だから俺はアルスムで構わないと言っているのに父上は最初にベルム公国の使節団が上陸したのはイーストウッドであり交易もイーストウッドが妥当だと主張をしている。
対してアルスムの領主であるブリットン伯爵は港湾都市としての実績を主張し引くことはない。
元々、ブリットン伯爵は貴族派なので父上としても譲る気はないらしく、ベルム公国との交易は対外的ではなく国内でもめることになった。
まさかとは思うが、こういう神聖バンダム王国内の火種を煽るためにベルム公国の使節団はイーストウッドに現れたのだろうか?
考えすぎかも知れないが、もしそういう意図があるのであればベルム公国、そしてその後ろにいるであろう聖オリオン教国は中々強かだと思う。
今回の謁見の後に父上と俺は領地入りするために旅立つことになる。
聖オリオン教国の動きが慌しくなっていることで南部総督である父上がブリュンヒルで指揮をとるためである。
交易窓口については俺が父上を説得したこともありアルスムに決定した。
もし俺の考えが正しければベルム公国との交易窓口にイーストウッドがなるのはマズイと思うからだ。
ここは対外的なことは様子見に徹し、領内の開発を急ぐことにする。
今回、俺まで領地入りするのは俺も南部に領地を拝領している貴族であるからだ。
もし聖オリオン教国と戦争になった場合は南部の貴族は軍を派遣する義務があるのだけど、俺は家を興したばかりなので軍の派遣は免除されている。
新興貴族でしかも領地の開拓や開発をしなければならない貴族の派兵は基本的に5年は免除されているのだ。
軍を派遣する貴族は当主自らが前線に赴かなくても代理を立てることができる。
だが、南部総督である父上の代理ともなれば肉親でなくては貴族やその代理の者を従わせることは難しい。
お爺様やフェデラシオ叔父上を代理にしても問題はないが、引退した2人よりは父上の実子であるジムニス兄上か俺が父上の代理になるのが相応なのだが、ジムニス兄上は王国騎士団員でもあり王都から離れることはできない。
勿論、ジムニス兄上が騎士団を辞してブリュトゼルス辺境伯家の跡取りとして父上の下で家を継ぐ準備をしても構わないのだが、今回は父上より王家をしっかり守るようにと命じられている。
そうすると父上の代理となるのは俺の一択になるわけだ。
さすがにエリザベート姉様やクリュシュナス姉様を連れてきて父上の代理にするわけにもいかないので俺の一択となるわけだ。
因みにジムニス兄上はこの春に騎士団の大隊長を拝命しているので簡単には動けないというのが現状なんですよ。
ブリュトイース伯爵家の派兵は免除されていてもブリュトゼルス辺境伯の息子である俺は貴族の慣習に縛られて前線に赴くことになる。
ただ、当主の俺が戦前に赴くのにブリュトイース伯爵家から兵が出ないのは外聞として良くないので、しかたなしにレビスを隊長とした精鋭100人を連れていく予定だ。
出立の前に俺はドロシー様を訪ねる。
正式にイーストウッドに行くことになった以上、数ヶ月は王都に帰ってこられないことになる。
まぁ、正式にはだけどね。
「これは私の代わりだと思ってください」
何だか今生の別れのような台詞だけど、俺は死ぬ気はないからね。
バラの形をしたブローチをドロシー様に贈る。
「・・・ご武運を・・・魔技神様にお祈りいたしております」
「まだ戦争になるとは決まったわけではありませんよ」
ドロシー様は複雑な表情で俺を見つめる。
王族としては戦争に行くなとは言えないが、許婚としては戦争に行ってほしくはない。
そんな心の葛藤からくる表情なんだろう。
「帰ってきますよ」
俺はドロシー様の手を取り、しっかり目を見て言い切る。
しばらくドロシー様との時間を楽しんで屋敷に戻る。
屋敷の前には陣借り希望の人たちが列をなしており、ゲールがその対応に追われていた。
まだ戦争があるとは決まっていないのに気が早いことで。
俺が出立するのは2日後なので皆必死だ。
今回の父上のブリュンヒル入りには母上やイグナーツもついてきている。
父上は王都に残るようにと母上を説得していたが、俺から見れば王都よりブリュンヒルの方が治安も良いし、何より父上のお膝元であるので警備も王都より更に厳重であることから逆に安心できると思うけどね。
父上は敗戦時のことを考えているのだろう。
まぁ、新兵器も用意しているので負けることはないだろう・・・多分。




