少女、飛び出す
音楽が好きだ。
その気持ちで始めたギターも今は重く感じてしまう。
暗い部屋の中で初めて買ったFenderのストラトがうつむいている午前0時。
6年。私のギター歴。
2年。私の作曲歴。
「はぁ。上手くいかない。」
一週間前にあげた曲の閲覧数を見てため息をつく。
7回。
頑張って作ったのに。
「私、向いてないのかなぁ。」
ギッと鳴る椅子にもたれかかって天井を見つめる。
音楽が好きで、ギターをやってみたくて、人に音楽を届けたくて。
それぞれ始めた理由は明るかったはずなのにいつの間にかその気持ちは消えて心に重くのしかかっている。
お母さんにもいつまで夢追いかけるの?まさか就職しないつもりじゃないでしょうね。と言われる日々。
「はぁ。やめやめ。」
スマホで動画アプリを開くとアメリカで有名なオーディション番組が目に入る。
画面の真ん中では同い年位の女の子が立っている。
「何歳ですか?」
「20歳です。」
ビンゴ同い年だ。英語は苦手だけど多分こう言ったはず。
「なぜこの番組に?」
「セラに憧れて。」
「あぁ。うち出身の音楽界の自由の女神ね。」
「ええ!」
セラ・ローレンかぁ。
何回か曲は聞いたことがある。というか耳に入ってくる。
オーディション番組で有名事務所に所属しそこからは瞬く間にトップスターへ。
「いいな。アメリカは。」
日本よりもアメリカの方がチャンスはある気がする。
だって自由の国だし。
日本の音楽はつまらない。もっと自由でなくちゃ。
でも……。
「はぁ。」
画面を見るととっくにその少女のターンは終わっていた。
次はコメディアンぽい人。つまらなそうだからスマホを切る。
時計を見ると0時30分を回っていた。
人間夜に病むとダメなんだよね。
なんとなく寝る気も起きなくて私はテレビをつけた。
たまたまアニメが流れていた。
私の好きなロボットアニメの新作。
今日からだったんだ。忘れてた。
ぼーっと画面を見つめる。
「あ、この子可愛い。」
主人公に目が止まった。
赤いショートヘアの女の子。
赤色可愛いな。私のギターみたい。でも赤髪は似合わないかな……。
そもそも赤色のギターも似合わないのかな。
指板も調子のって明るい色にしちゃったし……。
あーだめだ。マイナスな思考ばかり広がっていく。
もう消して寝ようかな。
「宇宙って自由ですか?」
「ジユウ!ジユウ!」
そんなセリフが聞こえた。
「アメリカって自由ですか?」
ふとそんな言葉がこぼれた。
そのまま画面を見ていると主人公の女の子はロボットに乗って宇宙へと飛び出していった。楽しそうに。
「アメリカって自由ですか?」
もう一度噛み締めながら呟く。
「ジユウ!ジユウ!」
どこからかそんな声が聞こえた気がした。
「飛び出していけ自由の彼方」
「あの日あの改札の前で立ち止まらず歩いていれば」
CMの断片が聞こえる。
そのアニメの主題歌だ。
「アメリカ……行きたい。いや行こう!」
深夜1時に叫ぶ。
「楓うるさいわよ!」
お母さんが下から叫ぶ。
まだ起きてたんだ。じゃあ今言わなきゃ!
ドタドタと階段を駆け下りる。
「ねぇお母さん!」
「何よ。音楽やってたんじゃないの?」
「そう。そうなんだけどさ!私アメリカ行ってくる!」
「はぁ?」
お母さんの目がまん丸になる。
「パスポートってあったよね?高校の修学旅行のやつ。」
「いやいや待ちなさいよ。アメリカ?!なんでいきなり?!」
「なんとなくかな?いいでしょ?自分のお金で行くしあと1ヶ月以上は夏休みだし!」
「まぁそうだけど……。泊まるとことかどうするの?いつから行くのよ?」
「なるべく早く!なんか今行かなくちゃ行けない気がするの。泊まるとこもどうにかなるでしょ!」
きっとあの主人公の女の子ならそうすると思う。
「無事帰ってこれるんでしょうね?隣の県とかじゃないのよ?」
「行き帰りのチケットはちゃんと取ってく!」
「はぁ。ギター買った時もパソコン買った時もあんたは何言っても止まらなかったんだから今回も止まらないんでしょうね。だから、」
パスポートを探す手を止めてお母さんの方を見る。
「ちゃんと無事に帰ってきなさい。」
優しい目をしてお母さんは言った。
「ありがとう。ちゃんと無事に帰るよ。」
下に目線を戻してパスポートを探そうとする。
「あった。」
すぐ目の前にパスポートはあった。
「私行ってくるよ。」
お金や課題のことも考えてアメリカ留学の期限は2週間。
そして3日後アメリカ行きの旅券を手に私は世界へ飛び出した。
お会いできて光栄です。
この度いでっち51号様にお声がけ頂いてアメリカになろうという企画に参加させて頂きます。
そして私事ですが近々ギターかベースを始めようかと思っております。
色々楽しくなると思いますのでこのシリーズもよろしくお願いいたします。
それではまた次の夜に。




