【 -Restart- 】
ぼくは二度死んだ。
一度目は理不尽で唐突でありふれた死。
二度目は自らの意思で人生に幕を下ろした。もう目覚めることはないと決めていた。愛する人と永遠の眠りにつこう。
そして今、ぼくはまた深い深い意識の底から引きずり出されようとしていた。ゆっくりと意識の水面が目前に迫る。
覚醒するよりも早く、機械人形の身体が静かに再起動した。人間の少女と見紛うほど精密に造られた身体。すっかりと馴染んだぼくの身体。
数秒遅れて、ついには意識が激しい倦怠感を伴って乱暴に現実世界へ投げ出された。
ゆっくりと瞼を上げる。
「だ……かぐ」
遠くから聞き覚えのない声が聞こえた。
目を開くと、数十年ぶりの光が容赦なくぼくの意識に差し込んだ。
――眩しい。
「どこだー? かぐー!」
――そこにいるのは誰……?
逆光を背に、誰かがぼくを見下ろしていた。
女の子だ。六歳から七歳といったところだろうか。栗色の髪を可愛らしくツインテールに纏めている。身長はぼくの身体より頭一つ分ほど低いくらいだ。右腕には不細工な狐の人形を大事そうに抱いている。
女の子は驚きで目を見開いて、口をぽっかりと開けてぼくを見つめる。
「……やあ、おはよう」
ぼくが喋るとは夢にも思っていなかったようで、女の子はぼくの声を聞いてその場に跳び上がった。
「ぱぱー! ちくかがしゃべった!」
女の子が部屋の入口に向かってぼくの名を呼んだ。
どうやらぼくはクローゼットの中に仕舞われていたようだ。ぼくはその場に立ち上がる。機械人形の身体は数十年ぶりでも問題なく動く。
「かぐ、こんな所にいたのか。勝手に入るとまたママに叱られるぞ」
女の子の父親と思しき男が部屋に入り、女の子の頭を撫でた。
「ぱぱ! ちくかがたった!」
女の子がぼくを指差し、男は女の子とそっくりな穏やかだけど意思の強そうな瞳をこちらに向ける。
「やあ……おはよう、ぱぱ」
ぼくは数十歳年下の男に向かって、とりあえずそう告げた。




