【 -Epilog- 】
羅紗の遺体は月に埋めた。
決戦前に俺とケイトが地球を眺めた、ケイトからの告白を聞いたあの場所だ。
九段も一緒に埋めてあげたかったが、何故か奴の遺体は見つからなかった。
結局――
結局、俺たちのしたことは正しかったのだろうか。あれから、そんな考えが頭をよぎる時がある。
でもきっと、正しいとか間違いとか、正義とか悪とか、そんなことを考えても意味はない。いつだって俺たちは、自分にできる精一杯のことをして生きているし、それを間違っているなんて本来誰にも言えないはずだ。神様でもない限り。
俺たちは九段から並行世界を救ったのだろうし、九段は長期的に見てエネルギーが尽きて滅びるであろう全世界を救っていたのだろう。
でも、実際、そんなことどうだっていいのだ。
いやどうでもよくはないが、しかし、俺たちの手の届く範囲はとても狭くていつだって大事なものを離さないよう握り締めるので精一杯だ。
九段が自分のしていることを正当化しなかった理由はなぜだろう。彼には十分すぎるほどの大義名分があった。
思うに、九段は全世界を敵に回してでも、悪魔に魂を売ってでも羅紗を生き返らせると決めたのだ。その結果、何も知らない正義の味方に倒される日がやって来ようとも。そして、羅紗も九段と共に生きることを決めた。魔王になると決めた。実の姉と殺しあうことになるとわかっていても。
俺は隣に佇むケイトの手を握る。
あと十年で世界が滅ぶというのなら、その十年を一生懸命生きるだけだ。九段が――別の世界の俺が、そして羅紗が与えてくれた十年を。
ケイトは墓標から視線を上げて俺を見ると、微笑んだ。
「しっかし、あと十年で世界が滅ぶ、か……かぐやが転生したら、そのあたりのことを聞いてみようぜ」
後ろでベルゼーヌを頭に乗せ、人狼が呟いた。
「かぐやさんが転生――生き返るっていうのは本当なのか?」
「ああ。何年か前なんて、ベルゼが特訓中にうっかりかぐやを殺しちまって、大変だったんだぜ」
――うっかりって……。
俺は呆れながらベルゼーヌを見る。すると彼女は、そんなこともあったかのうと嘯いた。
まあ、かぐやさんが無事なら何よりだ。
「それと、今度こそ本当に件のヤローを倒す作戦を練らないとな」
人狼はそう言って、嵐の大洋に向かって引き返した。
俺の脳裏に九段の最期の瞬間が浮かぶ。
九段の言うように、人の命を、想いを弄ぶ悪魔が存在するとしたら、俺は絶対に許さない。
――クククククク。
突如、不気味な笑い声が聞こえた気がして俺は背後を振り向いた。
「九、どうしたの?」
「いや……なんでもない」
暗闇の中に俺は悪魔の姿を見た気がした。




