晴れた月曜日
相変わらず遅筆です。
ヒギンズ教授との買い物は緊張した。だがそれ以上に楽しく、私を浮かれさせたのである。一人アパートで鮮やかな水色のハイヒールを眺めながら、今日のことを反芻していた。
明日から、この素敵な慣れない靴を履いて出勤することになるのだ。いつもは、憂鬱な月曜日も乗り越えられる気がした。
毎晩煎餅布団に入るときには、別れた彼の顔が浮かんだ。情けない悲しい気持ちになって、あくる日が来るのが怖かった。でも今日は布団の中で神様にお願いした。
「明日は晴れますように」
って。
私は天窓からの光に照らされてすっきり目を覚ました。月曜日が晴れただけで、こんな愉快な気持ちになるなんて思いもしなかった。
今日は早起きをしたので、コンソメスープとスクランブルエッグ、焼き立てのトーストに蜂蜜を垂らした朝食を用意した。お化粧も時間をかけてナチュラルメイクをする。スーツに袖を通し慈しむように髪をとかす。
ドアを開けて最寄の駅に向かおうとしたとき、丁度スマートフォンが鳴った。誰かと思うとヒギンズ教授からのメールだった。
「途中までご一緒しませんか?」
アパートの下にヒギンズ教授はもう待っていた。昨日帰り道を送ってもらったのだった。
私は一人でないのが嬉しくて、
「いいですよ」
と答えていた。
新品のハイヒールを履くと、どういう仕組みか背筋が自然に伸び、歩幅が大きくなった。
「真由美さん、ふらふらしたりしませんか? きつかったら僕に掴まって下さいね」
ヒギンズ教授は、私に触れるか触れないかの距離を保っていた。彼が側にいてくれると緊張しながらも、浮かれた気持ちになるのだった。
男性としても人間としても魅力的な人。客観的に考えて、年下の彼に逃げられ、自信すら無くしている冴えないアラサー女に付き合ってくれているのは謎でしかなかった。だが、詮索をしない約束をしたのだ。約束は守る主義だ。
駅までの道中、私はこけそうになってしまった。その時、ヒギンズ教授がとっさに私を両腕でしっかり抱きとめた。
「大丈夫ですか? 真由美さん」
心配そうにしていた。私は胸の動悸を抑えながら、
「ヒギンズ教授がかばってくれたから、おかげで何ともないです。もう離して下さって大丈夫ですよ」
と言った。
「怪我がなくて、本当に良かったです」
久しぶりに他人に大切にされた私は、戸惑うのだった。
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