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向き合うⅠ

 バスルームで自分を励ましながらも、動揺は止まらなかった。何度も冷水で顔を洗う。橘さんの発言に衝撃を受けた。彼女はどれくらいの覚悟をして、勤務先を調べ、憎い恋敵の前に現れたのか考えると眩暈めまいを覚えそうだ。真似できないから、彼女の一途さが眩しい。

 リビングで髪をタオルでふきながら、ソファーに座った。深呼吸してスマホを手に取る。教授に連絡をしないと。心配をかけてしまう。


「教授、こんばんは。お疲れさまです、体調はどうでしょうか?」

「真由美さん、こんばんは。お仕事お疲れさまです。僕は以前のような力は湧き上がってこないものの、完全にそれが無くなったわけではないようです。幸いまだ、貴方のために使える力が残っています」

 ヒギンズ教授はどこまでも、私の幸せのために力を尽くそうとしてくれている。メールの返信を読みながら、温かく切ない気持ちになる。

 彼と直接話がしたい。でも声を聞いてしまったら誤魔化しきれずに、弱った状態をさらしてしまうだろうからはばかられる。


「ありがとうございます。でも力は、教授自身の為に慎重に使ってください。私自身の生きていく力は、充分ではなく、頼りないものかもしれません。振り返ると笑ってしまうくらい、色んな人に頼って生きてきました。だとしても、あなたの支えがあって、より強くなれた自分がいます」

 教授に心配をかけないよう、考えながら気持ちだけは正直に綴っていく。


「そうですか。真由美さんの成長が嬉しいです」

 返信を読んで、ホッと胸を撫でおろす。これで安心してもらえたかな。


 優輔と橘さん、織部君と岡本さん、結ばれている糸は複雑に絡まってしまったけれど、彼らはまっすぐに思いをぶつけてきた。今度は向き合わなければ。


「真由美さん力み過ぎていませんか?」

 教授からの続きの一文にどきっとした。慌てて、返信する。

「力んでなんかいません。大丈夫ですよ」

 少し間があり、教授からのメッセージが届いた。


「そうですか、ならばいいのです。ただ、忘れないで下さい。僕と真由美さんの間に遠慮は必要ないんですからね」

 その言葉があれば私は頑張れると思った。


「はい、ありがとうございます」

「またお会い出来る日を楽しみにしていますよ」

 文字だけのやり取り、教授の顔は見えないけれど、頷いて笑っている彼が、ディスプレイの向こうにいる気が確かにした。


 今度こそ諦めない。弱く臆病な私だけれど、きっとあの頃とは違う。立ち向かうことは困難で遠回りであっても、それが幸せに繋がっているような気がした。

読んでくださってありがとうございます(*´▽`*)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんという気になる展開。 さっさと続きを書いてくれーっ。 なにより、氏の文章力の向上の著しいこと。私はエンタメ書きなので、私とは書き方の色合いは違うと思っています。文学的要素が強く押し出さ…
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