気がかり
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橘さんか。きれいなお嬢さんだったな。どうやって私のことを知ったのだろう? 彼女の丸くぱっちりした目が思い出される。『貴方は西村さんに相応しくない』か。
給湯室でポットにお湯を補給しながら、思い出す。よくない言葉って、ふとした時に頭をよぎるんだよね。仕事に集中しないと駄目だ。自分に言い聞かせながら、割り切れない感情に支配されかかっていた。
「矢野さんどうしたんですか、浮かない顔をして。俺のことでも考えて胸を痛めていたんですか」
織部君が私の手からポットを引き取りながら、冗談を言う。彼の冗談は、気がかりなことをオブラートに包むときにも使用される。
「それは、違うから。ポット運んでくれてありがとう」
冗談を切って捨てながらも優しい奴だとありがとうを心の中で言う。
「原因は聞きませんが、何か俺に出来ることがあれば言ってください」
「織部君はプロジェクトリーダーで忙しいでしょ。私のことで煩わせられないよ」
「プロジェクトはみんなで頑張っています。でも矢野さんのことは第一優先事項ですから、なぜなら俺ほど貴女のことを知っている人間は会社にいない」
相変わらず表向きは強気なんだから。クスッと笑いが出た。
「会社だけが私の世界じゃないんです」
ベーッと舌を出して執務室のドアを一緒にくぐる。
「いつでも俺の胸は空いてますから」
「心に木枯らしが吹き荒れたらお願いね」
冗談を返しながら、珍しく真顔の織部君に勇気付けられた。
仕事が終わった。思い切って優輔に尋ねてみることにした。当然、橘さんが私の前に現れたことは伏せて。
優輔は文房具会社で商品開発をしている。彼とお互いの仕事の話はしたことはほとんどないが、たまに二人で出かけ文房具店を見付けると、必ず寄って行くので熱心なんだと感じていた。
まだ仕事が終わっていないかもしれない。留守電だけでも入れておこう。ロッカー室から、電話を架ける。五コール鳴らしたとき、優輔が電話に出てくれた。
「もしもし、真由美さん。お疲れさま。仕事がちょうど終わったところです。電話に出ることが出来て良かった」
「優輔、お疲れさま。今日はこの後予定ある?」
「どうしたんです、仕事後に会うなんて初めてじゃないですか」
優輔は嬉しそうだ。
「尋ねたいことがあって、直接会って話がしたいの」
彼の声色に陰が混じる。
「はい、予定はないです。暗くなってきましたし、僕が真由美さんの会社近くまで行きましょう」
こちらの都合に合わさせてすまないと思いながら、優輔お勧めの定食屋さんで待ち合わせをすることになった。
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