見合い相手
本当に久しぶりです。やっと再開です。
街路樹の葉が、黄色に赤にと色付いている。
優輔と図書館の帰り道、夕空を見上げると気の早い一等星たちがピンク色のキャンバスに輝いていた。
「きれいだな~」
「そうだね、真由美さんとまた一緒に見られて嬉しいよ」
「そう? 何度だって見られると思うよ。優輔のお勧めの本面白いから、図書館行ったり書店に行くことだって沢山あると思うよ」
私は照れくさくて、ずれた答えで対応する。こういう、やりとりには慣れない。期待したであろう答えとは違っただろうに優輔は笑っていた。ふと心がぽかぽかとした。いつの間にか繋がれた手。
「また出かけよう。今度は美術館もいいな。市立美術館で印象派展があっているそうだよ」
「私が印象派好きなの覚えていてくれたんだね」
「うん、僕も好きだから。考えておいて」
そう言った優輔と、手を自然に解いて交差点で別れる。
一人自分の影を見ながら歩いていると、少女が現れ私の進行方向に立ち行く手を塞ぐ。
「私は、橘愛と申します。貴方が、西村さんの恋人の矢野真由美さんですね」
突然の見知らぬ女性の登場に驚く。小さな顏に丸くぱっちりした瞳。すっと通った鼻尖すっきりした小鼻、赤く色付いた大きすぎない形の良い唇。長い黒髪がとても似合っている。
凄い美人さんだ。私に何の用件かと思いを巡らしていると、
「私は、西村優輔さんの見合いの相手で婚約者になる予定の者です」
彼女ははっきりと宣言した。
「それは! 何か勘違いをしていらっしゃるようですが、私は決して恋人ではありませんよ」
確かに、優輔とは再会してから一緒に過すことが増えた。今日も一緒だったが、あくまで友人だ。彼女が思っているような関係では全くない。
「西村の家からは、息子さんに好きな人が出来たから急で申し訳ないが、見合いは中止にさせてほしいと言われました」
優輔は、もうけじめを付けていたんだと認識し、同時に彼女がなぜ私の前に姿を現したかを考える。
「橘さんと仰いましたね。私は西村さんとお付き合いしていたことがあります。でも彼には半年以上前に振られました。今は友だち付き合いをしているだけです」
「友だちでも、同じことです。彼が親しくしている女性は矢野さんだけです。どんな素敵な人かと思っておりましたが、私よりずっと年上でおばさんじゃないですか。貴方は西村さんに相応しくないです」
彼女に断言された。以前の自分なら傷付いていただろう。だが、私なりの良いところがあることを理解している心は凪いでいた。確かに彼女の方が肌も綺麗で美人だし優輔と年も近い。客観的に彼とお似合いだと感じた。
だが、優輔の気持ちを思うと簡単に引き下がれなかった。見合い話が持ち上がったとき、私の顏を一番に思い浮かべてくれた彼。わざわざ、こんな素敵な女性のとの見合いを断って私との付合いを再開してくれたのだ。
「私はおばさんだし、橘さんの方が綺麗だと思うよ。でも誰と付合うかは当人同士が決めることだよ。直接、西村さんとは話したことはあるのかな」
「昔、少し……」
彼女は泣きそうな顔で答えた。橘さんの必死な思いが伝わってきた。健気なようすに、自分が邪魔をしているようで胸がチクチクする。
ただ、見合い相手というだけの優輔に、どうしてここまで好意を示すのかはわからなかった。余程見合い写真を気に入っていたのだろうか。昔少し話したことがあるということは、二人には面識があるのだろうか。
「橘さんは、昔の西村さんを知っているの? 彼は思いやりもあるし、優しい。そうね、私には友人としてだってもったいない人かもしれないね。だから貴方は納得出来ないのかな。だけど間違いなく大切な友だちだよ」
「思いやりがあるのも、優しいことも知っています! 矢野さんのこと、とにかく私認めませんから」
ふくれっ面をして、嵐のように彼女は走り去って行った。
優輔のご実家のことは、私ほとんど知らないに等しいからなぁ。思っていた以上に、私と友だち付合いをするだけで、彼には負担をかけているのかもしれないと感じた。
読んでくださってありがとうございました。




