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不思議なトリオ

連続更新!ケセラセラ。

 会社で大きなプレゼンテーションを織部君が担当することになった。我が事業課を上げて、彼のサポートに当たる。

 私の勤務している会社は、コールセンター事業への電話オペレーターの斡旋や教育をメインにしており、提携する企業の受付業務や相談業務に当たっている。年に一回、本社の主催で研究発表があり業務の改善や改革提案、特に貢献している社員に対して表彰が行われている。今年もそんな時期かと思いながら、選ばれた織部君をちらりと見た。引き締まった表情をしながらも、口角は上がっており仕事に対して自信を感じさせた。プレッシャーはもちろんあるだろうけれど、彼以上に適任な人物もいないだろう。

 岡本さんが、織部君に頑張れと拳を握り親指を立てて合図していた。意外そうな顔をしていたが彼は同じく『グッ』と返事をしていた。先日、彼女の思いを打ち明けられていたので岡本さんの前向きな様子に心の中で拍手をした。

 

 プレゼンは一ヶ月後。原案は織部君を中心に課の皆で作るということだった。私は営業ではないので、実際に社外で活動することはほとんどないけれど、事務方として役に立てることがあればなんでもしようと思った。織部君には、彼に協力したいと思わせる魅力があった。一見強引で自分の仕事の事しか気にしていないようで実は落ち込んでいる同僚がいたらほうっておかないし、成果は公平に上司に申告する誠実な人柄があるからだろう。私は気付くのが遅かったが、課の皆が彼のことを認めているのだった。

 

 給湯室で岡本さんと一緒になる。

「織部君、頼もしくて格好良かったです」

 彼女が嬉しそうに言う。

「みんなも彼のことを認めているんだね。見直しちゃったよ」

 事実、当初は織部君からの想いも迷惑だったし、強引なだけの人だと決めつけて接していた。彼の攻勢が激しかったこともあるが、私は様々なことに対して踏み込むことを恐れていたんだと思う。

「だね。きっと責任感が強いから、やる気に満ち溢れているんじゃないかな」

「無理をしないか、少し心配です」

 岡本さんが、湯飲みを洗いながら不安な顔をする。さすがによく見てるなと、私も繊細な彼に気配りしないとなと気付かされる。

「これから通常業務とプレゼンの準備に忙しくなるだろうね。私も気を付けるよ、出来ることは少ないかもしれないけど友人としてサポートしなくっちゃね」

「はい! 矢野先輩が見守っているだけで効果があるはずです」

「そんなことないよ。きっと課の全員で支えていくし、岡本さんが目配りしていることの方がきっと彼の力になるよ」

「そうですかね。私が役に立てるならなんだってしたいです」

 彼女の言葉に、こちらが照れる。敵わないな。素直で真っ直ぐな人だと思う。

 

 給湯室を出ると、女性同僚に囲まれた織部君を二人で発見した。職場にいる女性は、勿論私たち二人だけではない。彼は社内の女性のちょっとした人気者でもあった。彼女らも、抜擢されたことを祝いたいのであろう。普段は黙々と仕事に励み、立派なデキル女たちがはしゃいでいる姿は微笑ましかった。岡本さんも、二枚目ぶる織部君を目を細めて見つめていた。

 囲み取材状態から脱した彼が、私たちに近づいてきた。私たちの顔を見比べて、

「心配するなよ。俺は失敗しらずの織部順だぜ。今回の仕事もきっちり決めてファンを増やすぜ」

 なんてことを言う。顔を見合わせて三人で笑った。きっと強がる気持ちもあるだろう。

 私たちが役に立つかはわからないけど、一緒に頑張ることは出来る。後輪にはなれなくても補助輪くらいにはなるから。心の中で呟く。不思議な連帯感で結ばれたトリオだった。

読んで下さってありがとうございます。

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