桂と田中 天界Side
久ぶりの、更新です。ちょっと趣向を今回は変えています。大丈夫かな?
桂は、上司からの呼び出しで天界にある事務所にいた。上司、田中一郎は自分より高位の力を持ち、堕天使になりかかった自分を、すんでのところで助け人間界で働くように取りはかってくれた大恩ある天使であった。
「桂、人間界でのお前の仕事の状況はどうだ?」
上司に訊かれて桂は身体を固くする。田中は、見た目は好々爺のようだが鋭い観察眼と思慮深さをもった出来る男だった。
「機会を与えられた矢野真由美さんは、とても頑張ってくれています。私の仕事も終盤に入ったと考えております」
「良きこと。恋に臆病になってしまったお主を、淑女養成コーディネータの名目で人間界に遣わすのはわしとしても迷いがあった。しかし桂、お主は生気を取り戻したようじゃ」
相変わらずの上司の洞察力に驚きながらも、
「はい、これも田中様にチャンスを頂いたからこそ。心身ともに朽ちかけておりました私に、やり直す試験を課してくださったこと感謝しております」
「最後まで彼女を見守り導くのがお主の仕事じゃ。試験中、どんな思いを依頼者に抱いたとしても明かすことが出来ないのは理解しておるな」
厳しさを含んだ上司の声に、
「理解しております」
桂は、決然とした声で答えた。
「ならば良いのだ。我らは人ではない身。桂は特に人に戻る為の試験、余りにも深く依頼者と関わることは許されないのだ」
田中は桂の気持ちを知ってか知らずか釘を刺した。
「彼女が私に思いを寄せることは、ないでしょう」
淋し気に彼は答える。
「では、仮の住まいに戻りたまえ。掟は掟だ。桂、苦しいかもしれないが最後まで彼女を導くのだ」
「了承いたしました」
桂の姿が消えた。彼が去った後、田中は、
「ありゃ、頭では理解していても心が付いていっておらぬな」
と一人漏らしたのだった。
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桂は、マンションに帰宅するとため息を吐いた。さすが、田中様。なんでもお見通しか。私は真由美さんに必要以上に関わりをもっているのかもしれない。もう他人を愛する権利すらないのに。かつて自分が犯した過ちの大きさに震える。愛した人は私のせいで天国に行ってしまった。もう少しだ、彼女なら自分で幸せを掴みとることが出来る。私が出来るのは手助けを続けるくらいか。天界が課題を達成したと認めたそのとき、全ての特別な力を失いそして……。
考えても仕方ないことだと思う。珍しく、バーボンをロックで飲み干す。酒の力を借りるなんて私らしくもない。真夜中、秒針の音だけが部屋に響いていた。
読んで下さりありがとうございます。推敲の結果イメージが変わっています。




