再スタート
難産!
『真由美さん、連絡ありがとう。もうニ度と関わりも持てないかと思っていました。嬉しいです』
すぐに優輔から折り返しメールが来た。
私は地下鉄で帰宅する間、彼とメールのやりとりをしていた。やはり何があったのか気掛かりだった。
『優輔何かあったの? 私に連絡を取ろうとするなんて、余程の事情があるんでしょう。わけを教えてほしいよ』
しばらく間があってメールが返ってきた。
『真由美さん、図々しいと自分でも思う。それでも直接会って話をしたい』
正直いうと彼が図々しいとは思えなかった。むしろ彼への想いに溺れて自分を失くした私に別れを言い渡したのは当然のことだと感じていた。
『わかりました。時間を作るから、喫茶店で会える?』
覚悟を決めて返信をした。
その夜、昔の思い出が浮かんでは消えて胸が痛んだ。ありきたりなデートコースも優輔と一緒だと輝いて見えた。そこにはお互いを思い合う愛おしい気持ちが確かにあったのに。本当に手を離したのはどちらからだったのか? 私は答えをまだ出せないでいた。
数日後、時間を合わせて優輔と行きつけの喫茶店で会うことが出来た。
「真由美さん」
彼は立ち上がって声をかける。そして、昔と同じ人懐っこい笑顔で私を迎えた。既視感に襲われる。緊張しながら、優輔の席に近づいていく。落ち着いた風を装いながら、ゆっくり着席すると、彼の表情が明るくなった気がした。彼は遠慮がちに切り出した。
「真由美さん、今日は来てくれてありがとう。無理を言ってごめんなさい」
恋人時代と素直な物言いは変わらない。だから私の緊張も緩んだ。
「いいの。何か困ったことがあるの? 私じゃたいした力にはなれないけれど、話を聞くことなら出来る」
「実は僕に見合い話が持ち込まれたんだ。相手は父の会社の役員のお嬢さん。本来この話を受けるべきなんだと思う……。でも、見合い話がきて最初に思い出したのは真由美さんの顔だった。別れてからも、あなたを毎日想っていた。僕から別れを切り出したのに、勝手な奴だと思うだろう」
私は突然の告白に驚いていた。
「そうね。別れを切り出したのは、優輔だったね。凄くショックで辛かった。だけど、あなたが別れを切り出すしか方法がなかったとも思うの。私はあなたへの恋愛感情が生活の中心になってしまって自分を失っていた。あのまま一緒にいたらお互いのためにならなかったよね」
「それでも、あの時の僕は言葉足らずだった。君から逃げるように別れを告げて申し訳なかった」
彼は頭を下げた。だが、申し訳ない気持ちになったのは自分の方だった。別れを切り出すのは辛いことだったはずだ。そこまで彼を追い詰めたのは間違いなく私なのだ。こんなにも思い続けてくれていた優輔に感謝だけでない複雑な気持ちを抱いていた。
「優輔はどうしたいの?」
「また一緒に暮らしたいなんて贅沢は言えない。どうかもう一度出会った頃に戻って、そこからやり直せないかな?」
「もう昔の私ではないし、優輔だって付き合っていた頃とは変わっていると思う。それに見合いはどうするの?」
厳しい調子で訊ねた。流されて申し出に応えることは出来ないと思った。
「あなたは、成長したんだね。幼いままなのは僕の方か。見合いは先方に丁重に断りの連絡をするよ。そして君とただの知り合いからスタートしたい」
「いいの? 私が、優輔になびくかどうか保証はないんだよ」
「それくらいのリスクは背負う覚悟があるよ。真由美さんに気持ちを伝えらえて僕は空だって飛べる気がしている」
彼の言葉は大げさではないようだった。
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