王子様
更新しています。何とか走り切りたいです!
「教授、助言ってどういったことですか? なぜ私が別れた恋人と再会したことを知っているのでしょうか?」
硬い声で訊ねる。
「ちょっとした魔術を使いました」
悪びれずに教授は答える。自分の大切な領域に不当な手段で入ってこられた気がし、不快な気持ちになる。そのくらい優輔との思い出は大切なものだった。
「真由美さん、私に腹を立てましたね。貴女は、想像していたよりも変化しています。喜ばしいことです。出会った頃よりも精神的に強くなりました。僕に憧れを抱いていた貴女はもういません」
突き放すようにも聞こえる教授の言葉。
腹を立てながら、彼に感謝している自分がいる。
「そうかもしれません。私にとってくすんだ日常に輝きを与えてくれたあなたは、ずっと王子様でした。」
率直に今となっては懐かしい気持ちを打ち明けた。
「所詮きっかけにすぎません。真由美さんの中に眠っていた力を目覚めさせる手助けをしただけですよ。僕はコードネームで表せる存在に過ぎない。まして人間でもない……。ところで助言とは、今後の貴女のことについてです。今後、西村優輔さんと織部順さんこの二人のどちらかと恋に落ちる可能性があるでしょう。ただし二人とも恋を成就させるには、それぞれに障害があります」
彼は淡々と述べる。
「教授は予言者ですか? 私は予測出来る未来なんていりません」
なぜだろう。腹立たしい気持ちが心を占めている。つい教授の発言を強く否定した。私を陽の当たる場所に導いてくれた教授。なのに彼自身は運命には逆らえないと、大切なものを諦めてしまっているような気がして嫌だったからだ。
「真由美さん」
そう言って彼は沈黙してしまった。私の気持ちは彼に届いたのだろうか。
「教授は何に怯えているんですか? 私に教えて下さい。少しでも貴方の力になりたいんです。たいして役に立てないかもしれません。私は教授がいなければ努力もせず冴えないまま、間違いなく心も体も朽ち果てていたはずなんです。想像するだけでたまらなく怖いです。貴方も何かを恐れているんじゃないんですか?」
たまらず息継ぎもせずに声を張り上げた。
「貴女は、聡明でとても優しい人だ。だからこそ、私に構わず幸せになってほしい」
「教授」
今度は私が沈黙する番だった。
教授は、優輔の場合は家柄がいいので礼儀作法に凄まじく厳しいということ、織部君は女姉弟が多く人間関係が難しいと忠告してくれた。
「教授、お気遣い感謝します」
「また来ます。これから本格的に僕の助力が必要になるでしょう」
ヒギンズ教授が部屋を出ていくとき、背中を見て胸が苦しくなる。憧れなどではなく、恩人である彼に幸せになってほしいと私は心から願った。
読んで下さり、ありがとうございます!




