水族館デートⅠ
the難産!
ヒギンズ教授の為に何が出来るのかつい考えてしまう。これではいけない、私は自分の人生を楽しまなくちゃならない。それは自身の心と向き合うことだと感じた。
明日は日曜日だ。どうやって過ごそうか。少し悩みながら小動物の刺繍がしてあるお気に入りになった手帳を眺めていた。
「ティタティティン♪」
間の抜けた着信音がなった。個別着信音は「アダムスファミリー」のテーマだ。スマフォのディスプレイを観ると『織部順』の名前が表示されていた。
「はい、矢野です」
こんな時間にどうしたのだろうと思い、少し胸がざわつく。
「矢野さん、こんばんは。突然で悪いんだけど、明日予定入ってたりするかな」
「ううん。まだ。今ちょうど、明日はどうしようか予定を考えてた」
「もし、良かったら一緒に県立の水族館に行かない?」
彼は緊張した声音で誘ってきた。
最初は、織部君と二人で出かけることに気乗りしなかった。男性と二人で出かけることに臆病になっていたのだ。それでも粘り強く誘ってくれた彼の熱意に私は折れた。電話を切った後、
「急に誘ってきてびっくりしたじゃない、もう」
そんな独り言を呟いた。ちょっとだけ悪態をついてみる。それでも、嬉しい気持ちが確実にあった。
******
目的地の県立の水族館に約束の時間に到着した。すでに織部君は来ていた。何分くらい待たせたのか心配になる。
彼はカジュアルな装いの中にも品があり育ちの良さを感じさせた。何気ないパステルカラーの黄色のカットソーとスマートなシルエットのジーンズの単純な組み合わせが生きるのは彼自身のスタイルの良さ、そして容姿に恵まれていることも要因だろう。
「矢野さん、俺も今来たところだよ。きっと待たせてないか心配していたでしょう」
くすくす笑いながら彼は言う。
「その通り。待たせたら悪いなと思って、時間には余裕を持たせたんだけど。意外に几帳面なんだね」
私は正直気まずいくらいだったけれど、織部君が笑いだしたのでいつのまにか一緒に笑っていた。
「綺麗に装ってきてくれてありがとう、なんというか男冥利に尽きるよ。前日に急に誘ってごめん。ずっと誘おうと思っていたんだけど、タイミングを逃し続けてやっと昨日思い切って電話したんだ」
彼は少し頬を染めながら、私を眩しそうに眺める。胸のあたりがこそばゆかった。水族館に二人で入場していると織部君が私の手をそっととって、手のひらで包んだ。心拍数が上がる。
いつもと裏腹な繊細な織部君の行動に私は友情だけではない何かを感じた。強気な織部君は、傷心の私を岡本さんと一緒にずっと支えてくれていた。
思えば、同棲までした彼氏に振られてまともな異性とのデートは久しぶり。とても長かった気がする。とにかくこの水族館デートを楽しもうではないか。彼に向けて出来る限りの可愛らしい笑みを作っていた。
ゆっくりこちらもエピソードを丁寧に綴っていければと思っています。
読んで下さりありがとうございます!




