ヒギンズ教授の目的Ⅱ
ローファンタジー展開になっているのかな。
ヒギンズ教授は私を真っ直ぐ見据えて話始めた。かなり動揺していたが、教授を信じて話に耳を傾ける。
「以前お渡しした名刺はお持ちですか?」
教授に訊かれ、革の名刺入れの一番奥から取り出し、ガラステーブルの上に置いた。
「ここには淑女養成コーディネーター桂司と書いてあります」
「真由美さんにはずっと僕をヒギンズ教授と呼ばせてきましたね」
教授は柔和な笑みを浮かべている。周りの音が聴こえないとか、お客さんの動きが止まっているようにみえるとか違和感は沢山あったが、彼の顏を見ると安心してしまうのだ。
「実はヒギンズ教授というのはコードーネームなんです。そして桂司は仮の名なのですよ」
彼は淡々と心地よいバリトンで告げる。私はあまりにも現実離れした展開に、からかわれているのかと一瞬思ってしまう。しかしすぐに考え直す、彼が生徒に嘘を吐くはずがない。今までの教授の行動一つ一つを思い出し、真剣に話を聴いた。
「僕は、普通の人間とは違う理の中で生きてきました。私は正確には『今』は人ではないのです。少し長く生きています」
そう言って彼はコーヒーをゆっくり口に運んだ。
「教授は私たちとは違うと。人ではないってどういうことなんでしょうか?」
私は驚きで頭がいっぱいだった。
「真由美さん、びっくりさせてごめんなさい。当然のことだと思います。僕たちはある存在から命令を受けて動いています」
私は一番の疑問を教授にぶつけた。
「教授は、何故私を選んで淑女にしようとしていたのですか。あなたがくれた、沢山の優しさや思いやりを知っています。だから今になって秘密の一部を明かしてくれたことを驚きはしていますが、なるべく受け入れたいと思っています」
そう言って、私は緊張しながらミルクティーを飲み干した。
「真由美さんを選んだ理由は、組織から貴女が淑女になって幸せを掴む為の手助けをする様に命令が下ったからなのです。ただ、命令だけでは僕たちは動きません。失礼ながら暫く貴女の暮らしぶりを調べさせて頂きました。私は不器用でも一生懸命な真由美さんを、幸せにする手助けを心からさせて欲しいと思ったのです」
「あの、出会いは偶然ではなかったということですか?」
私は震える声で質問していた。
「そうです。僕たちは俗にいう魔術が使えるのです。その能力を使って真由美さんに近付きました」
目の前がぐらぐらした。それでも私は訊ね続けた。頭に血が上っていたかもしれない。
「私が無事に幸せになったとして、教授にどんなメリットがあるんですか?」
「貴女が真に幸せになった時、僕は過去の罪を許され人に戻ることが出来るのです」
ヒギンズ教授の目的は意外過ぎるものだった。
私は時が止まったような喫茶店で黙り込んだ。
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