たった一人の生徒
長い間更新かけられずにすいません。
一緒に出勤しなくなってからもヒギンズ教授と、毎日メールを交わし合っていた。
私の告白を聞いてもびくともしなかった教授。彼を憎らしいと思うこともあったが、その日の出来事を報告をするメールに返信してくれる彼の存在はやはり心強かった。
私は少しずつ変わっていた。自炊はレパートリーが広がり、メイクもワードローブの選び方もこなれてきたようだ。岡本さんが垢抜けたと言ってくれたり、会社の上司が見合い相手を紹介しようとしてくれたり変化は目に見える形で訪れていた。それは嬉しいことで、以前の干からびた私からは考えられないことだった。
教授には一ヶ月程会っていなかった。私よりも教授の手助けを必要としている女性がきっといるんだと、この頃はそんな風に考えるようになった。
自宅でゆっくり音楽を聴きながら、ほかほかのカフェオレを飲んでいたら久しぶりにヒギンズ教授から電話がかかってきた。
「真由美さん、こんばんは。少々お時間頂いてよろしいでしょうか?」
「こんばんは。ヒギンズ教授、声を聞くのは久しぶりですね、大丈夫ですよ」
「真由美さん、休日にすいません。しばらくお会いしてないので、個人面談をしたいと思いまして」
「教授はとても忙しいのではないでしょうか。お時間頂いてしまってもよろしいのですか?」
あんなに心が躍った教授との時間。少し距離を置いたことで彼の事情を優先する言葉が自然に発せられた。
「真由美さん、遠慮しないで下さい。僕はまだ貴女の専任ですよ。他の者が受け持っている依頼者を補佐することはあっても、主たる依頼主は貴女なのです」
自分の薄情さに腹が立った。ヒギンズ教授は変わらずに私のことを生徒として見守ってくれていたというのに。見えないやきもちを妬いていたことに嫌気が差す。目が曇っていた己が恥ずかしい。たとえ恋愛感情がなくても、彼は人として私を大切に扱ってくれていたのだ。
「教授ありがとうございます。今週の土日なら空いていますよ」
手帳を見て答える。
「それは良かった。久しぶりに会う貴女の成長ぶりを楽しみにしています。土曜日と日曜ではどちらが都合が良いですか?」
「土曜日の方がいいです。でもそんなに変わっていませんから、がっかりしないか心配です」
そう伝えながらもこの一ヶ月の変化を一番知っているのは自分だと、素知らぬふりをしながら思っていた。私にとって彼のことが大切なのは変わらない。だから驚かせたかった。
初心な女も少しだけ、かけひきを覚えたのかもしれない。
読んで下さりありがとうございます!




