伴走者
人は誰だって綺麗になれると、変われると思います。
人に思いを寄せられるのは苦手だから、気が重くなる。小さな頃から期待や好意というものを持たれると居心地が悪くなった。失望されるのが怖かった。
疲れてしまい、夜ご飯は自炊する気になれない。インスタントのコーンスープをカップに入れてお湯が沸くのを待つ。鏡台と向き合い、クレンジング液を馴染ませたコットンで、化粧を、よそ行きの自分を脱ぎ捨てる。帰宅して直ぐに化粧を落とした方が、肌にいいのは分かっているのだが、出来ないのが残念ながら私だった。
せっかくヒギンズ教授が、なりたい私になるために協力してくれているのだ。頑張らなければ申し訳ない。
インスタントでも、温かいスープは心をほぐしてくれる。メールを送って三十分過ぎた頃、教授から返信のメールが届いた。なんて書いてあるのか気になり、スマートフォンを開く。
『真由美さん、お仕事お疲れさま。なかなか衝撃的な出来事があったようですね。その織部さんはきっと以前から貴女に関心を寄せていたんだと僕は思います。そうでなければ僅かな変化を感じ取れるはずがない。真由美さんにとって現時点では小さな変化でも、貴女を気に掛けている男性にとっては見過ごせないものなのです。不安になるかもしれません。人が変化するとき周りもまた変化するものです。だから僕がついています。明日も駅までご一緒させて下さい』
彼のメールを読んで私の心は軽くなった。自信が持てなくて人の好意が信じられない私は寂しい女だった。そんな自分を変えたかった。
ヒギンズ教授は謎が多い。目的も淑女養成コーディネーターという怪しい肩書も。だが一時的だとしても、人生の伴走者が私は欲しかったのだ。
お風呂に入り、念入りに身体をマッサージしていく。特に慣れないハイヒール履いたふくらはぎは強張っていたので、何度もお風呂の中で足首から膝裏に向かってゆっくり撫でるようにほぐした。そして髪を洗うとお気に入りのシャンプーとトリートメントのローズの香りに包まれた。やっとリラックス出来た。
今日は色々あったけれど、彼氏と別れてから初めて何も考えずに眠りにつけそうだった。疲れた頭で、煎餅布団を卒業して今度は寝具を買おうとぼんやり思いながらまどろみに落ちていった。
難産でしたが何とか生み出しました!読んで下さってありがとうございます。




