水着イベント~真夏の海のバカンス~3
「もうちょい上。下。右左右左上上下下斜め右。真面目にやれ殺すぞ」
「ハァ? お前こそ真面目にやれ何そのクソみたいな指示。ぶち殺すぞ」
「口が悪いぞお前ら」
大きなガラスを持ち上げながらちょいちょいと窓枠に嵌め込もうとしているアニマル共に注意しておく。
もうちょっとお上品にするのだ。私の教育が疑われるだろ。した覚えはないが。
「先ほどからもう少し上だって申し上げていますでしょおうんこ踏みやがれくださいまし」
「正確なお数字を挙げやがって抜かしやがれですわお前受けの鬼畜エロ小説書きますわよ」
「クソやかましいですわ~! 5ミリ上だっつってんですわよお前受けの自分にだけ優しい彼ぴっぴから溺愛される漫画描きますわ!!」
「ふざけんなでしてよ! 先ほど5ミリ上にして文句言った癖に妄言抜かしてお前受けの百合の間モブおじNTR小説にしてやります!!」
「うーん…………まぁヨシ」
どうかという気もするがフィリアと似たようなもんだし悪くない気もする。これでいいか。
アホみたいな熾烈な言い争いを続ける牛と半魚を放置して作業に戻る。
ところ変わって場所はホテルのロビーである。空港の窓ガラスやインテリアの設置などは終わったのでそれぞれ分散して各所に必要な仕上げを行っている最中だ。
床に並べたランプの1つを手に取りきゅっきゅと電球を嵌め込んでから真鍮でできた本体部分を磨き、かさもしっかりと取り付けてかさ外周の取り外しておいた装飾部品も取り付けておく。
作業を終えたランプは横に置いておけばアニマル共が回収して設置しに行くので私はひたすらランプの準備である。
テーブルランプにペンダントランプ、種類は多いがデザインの方向性は統一されているので雑多な感じはしない。自由都市の雑さもまぁナカナカであるが、こちらは統一感を出したいのだ。
やはり高級ホテルというものにはビシッと揃ったパターンが齎す計算された人工物としての高級感が欠かせない。
ピカピカに磨き上げてまた1つ。結構な量作業した気がするがまぁ全然足りないな。
「お暗黒神様、これではキリがありませんことヨ。
ジオラマ制作でもないでございマスしどうせ暇こいてるかマスかいてるかでやがりますから悪魔連中全員呼び出して働かせた方が手っ取り早くてよろしいのではなくって?」
「お前までエセお嬢様やめろ」
かぽかぽと蹄を鳴らして両腕に木材と巻紙を抱えた木製構造物担当こと羊が陳情してきた。
口調に文句を付けてから考える。エセお嬢様はともかく、確かにそれもそうだ。
ジオラマ制作は集中力と小器用さがいる特殊技能範囲であろうが建築とインテリア制作は悪魔全員得意分野であろう。
となれば即断即決迅速果敢電光石火の行動力を示すべくさっそく地獄の輪っかを設置してこいこいと手招きする。
「というわけでお前ら全員来て手伝うのだ。
適当に家具の搬入とインテリアの設置と建物の仕上げとかをやるのだぞ」
私の言葉に従い、わらわらキャッキャと穴からアニマル達が這い出てくる。虎やらライオンやらもさもさと。いいけど取っ組み合いの喧嘩をやめろ。秒で喧嘩すな。
全員出てきたところで輪っかを回収。
わっちゃわっちゃとする中から真っ白な毛皮にうっすらと赤い差し色を持つミニマム狐が滑らかな動きでするりと出てきた。おお……すっげぇ天陽さんみが感じられる。
「暗黒神殿、残念じゃが妾は芸術方面はカラキシでナ……。
悪魔は基本的に芸術家肌じゃが妾はぶきっちょなんじゃ。末の妹ゆえ許すがよい。
マママ。じゃが妾も嘗てはこの星で太陽信仰を集めた大神じゃから見る目はたんとある。将来性があるというヤツじゃな。
それに呪術や魔法陣なども得意じゃ。やンれ、今回は噴水や灯りの設備を整えようとおもうがどうか?」
「おお、やっぱり天陽さんだ。もちもちですな。
仕事は好きにすれば良いと思う」
もちもちの身体をもちもちとした。もちもちしている。
「ン、感謝奉らん!
妾もオニイチャンズに一周回って逆に芸術じゃとかゼンエイテキアートとかインフルエンザの時に見る夢とか言われるのは飽き飽きなんじゃ!
人族が使うのであれば動力源は魔石が良いであろ? よいよい、任せるがよいゾ!!」
しゅたたたたとダッシュで天陽さんが紙を咥えて走っていった。どうやら噴水の方を先にやるつもりのようだ。
あの身体でどうやって魔法陣とか設置するのかは謎だが。
「拙者はランキング最下位の部屋を担当しますかな。拙者和風デザインのほうが得意。
暗黒神たん、お兄ちゃんはやりますぞ!」
「じゃあボクは機械皇帝くんのお部屋担当しようかな。SFデザインもいいよね~。
ああ、でも処女童貞生徒会長のお部屋も捨てがたいかも。エロギミックに爆釣れしそうで面白そう。悩むなぁ~」
「俺はラグジュアリーフロアの共用部分でも担当しようかな。
廊下とかに推しの絵画いっぱい飾っていいんだよね?
我がコレクション解放の時来たれり。……狼くんが見当たらないけどあいつマジで牧羊犬になった?」
山羊が尻をプリプリ振りながらあざといポーズでくねくねしているのを虹色の触手が引きずっていき、その後ろを黒蛸が歩いていった。
まあ自信がありそうだし任せるか。職人たちにそれぞれ得意分野を専門的にやらせるのはクオリティを高めるのに欠かせないからな。
餅は餅屋なのであって、餅屋がいるのに餅を漁師に作らせるのは愚行でしかない。適材適所というヤツである。
「残りはどうするのさ」
しゃがみ込んでわやわやし続けているアニマル悪魔どもを覗き込む。得意分野や好みがないなら適当に材料の補充や備品の充当、ガラス嵌め作業などに割り振るが。
「このアングルやばい。ドキドキする!
一般客室やりたいですぅ!」
「じゃあオレはドラネコ部屋担当すゆ。都市とは違う方向性でモダンなド派手さにしてこ。メイン色は孔雀色で。
大淫婦くんは道化くんのお部屋担当して西洋とか北欧とか得意でしょ」
「あたちをくん付けで呼ばないで! 暗黒神たまが誤解したらどうすりゅの!」
「アイデンティティゴミ箱ダンクシュートして性転換した方の悪魔がかわいこぶらないで不気味でしょ」
「ほんそれ。オイラは新入り下っ端の部屋をやるッスよ。
シルクの手織り絨毯も用意してきたしモザイクランプに香水瓶とかガラス製品もいっぱい作ったんス!」
「お前ら好き放題だな」
異界連中の専用部屋としたスイートルームの何から何までやりたい放題にしている。
まぁパトロン2人からもホテルは全部好きにして良いと言われているので別に構わないが。お任せのほうが面白そうだし完成したら見に来ると言っていたので不在だしな。
となれば、私は今やってる照明器の準備はこいつらに任せてわからせスイートルームをやるか。その後で展望台の方に行こう。そうと決まれば話は速い。
上層フロア担当アニマルズを引き連れながら昇降機の方へレッツラゴー。
ホテルの昇降機は不思議なパワーで動いているので機械で動くエレベーターとは違い、円柱にくり抜くようにして上層から下層までぶち抜かれた狭い吹き抜けの中にふわふわと浮く光る円盤があるだけである。
ラグジュアリーフロア直通昇降機なので円盤には細やかなレリーフが彫られ、吹き抜け内部にも金の装飾が上から下までみっちりと全周を埋めている。
普通に考えれば明らかに過剰装飾の筈だが、見る者を圧倒させるような偏執的かつ芸術的な作り込みにより成金趣味には見えないところがナカナカだ。
よいせと先に乗り込んでから上層担当共を呼び寄せる。はよ乗れ。わーわーと声を上げながら乗り込んできたのを確認してからスイッチをポチリ。フォーンと甲高い小さな音を立てて滑るように昇降機は上がっていく。
昇降中は暇なのでしゃがみ込んで適当にその辺のアニマルをふん捕まえては眺めて弄り回したり摘んでみたりとして暇を潰す。
しかし、この感じだとパトロン2人の言う通り666mにしなくて正解だったな。広すぎれば密度が薄くなるし作る方も泊まる方も飽きてくる。これぐらいのサイズがベストであっただろう。
「お」
ぽーんと軽い音がして昇降機が止まる。よしよし、しっしとアニマル共を追い出して枝で散らしておいた。はよ行け。
散らし終わったので1番最後に昇降機から降りてVIP専用エリアの玄関とも言えるロビーを改めて見回す。シャンデリアなどの照明器具は既に設置が終わっているが明るさは抑え気味だ。
天井のシャンデリアは白金の金具に水晶とダイヤがぶら下がっているので室内そのものは薄暗い方が目立つからである。もちろん足元が見えないなどと本末転倒なことは無いようにフットライトもばっちりだ。
更に薄暗いロビーにはなんとなくムスクな香りまで漂っている。うーん、実にラグジュアリーでファビュラスな感じだ。金掛かってそうとすぐわかる作り。わからせホテルとはこうでなくてはな。
よく見れば薄暗い中を上層階担当悪魔共が絨毯やらなんやら抱えながらこまごまと動き回っている。あっちの廊下にいるのはルイスか。どうやら絵画を廊下に飾っているらしい。
ふむ、私もなんか飾るか。ロビーの端のほうにガラスショーケースを設置。ふーむ。地獄の輪っかをもひとつ買ってがりがりと彫刻刀で削って模様を付け、わたし腕輪ですという顔で美しく配置しておいた。
「…………………………」
上下左右から眺め回してから再び角度を調整し直す。あとちょい、うーん……。
よし、まあまあだな。




