水着イベント~真夏の海のバカンス~
パンイチでのしのしと歩くラムレトはさておき、とりあえずはあれであろう。
毎度お待たせしております、加減しろなお値段のお買い物の時間である。悲しい。
しかしここでケチっても仕方がないのだ。必要経費をケチれば後に待つものは現場の破綻であり破産まっしぐらなのである。
足らぬ足らぬは工夫が足らぬと言いたいところだが、現場の根性論に任せて全てが解決し続けるのであれば苦労はない。あとドブラックとして摘発されてしまう。
というわけで手に入れた6億から最低限食券分と次回の神託スラグ分解代を引いておいて、残りを使ってトンネル工事と内装工事である。
リゾートの中心部にある噴水広場、そこに併設されたこのリゾートの玄関とも言える建物がトンネル設置をするブツとなっている。この建物は呼び方を便宜上空港としているが、トンネルの設置場所であるわけで基本的に求める施設機能は待合室のみだ。
白銀の繊細な模様が浮いた青藍色の両開きの扉を開いて建物に足を踏み入れれば、無人のラウンジに私達の足音が高く響いた。
建物丸ごと待合室で一間であり天井がかなり高く設計された作りによりそれなりに広く見えるラウンジは観光客を迎えるに相応しいスタイリッシュでクールな仕上がりであり、訪れる者を初手威嚇できること請け合いである。
高温バーナーと研磨剤を使って磨き上げた甲斐あって大理石の如く輝く壁に床、そして随所に設置された空港や商業施設によくあるような意図の謎な玄妙インテリアに壁に掛けられた巨大な透かし彫りパネルと、いかにも私お金かかってますって感じだ。実際はタダであるが。
窓ガラスやシャンデリアやテーブルやら椅子やら、砂のジオラマでは再現不可能だった物に関しては今はまだ無いが、建物そのものはほぼ完成されていると言ってもいいだろう。
ほぼ全面ガラス張り予定であるラウンジの中心には全体にレリーフが彫り込まれたぬるりと輝く噴水があり、他にもカウンター予定やらパン屋予定やら銭湯予定やらのスペースが確保されている。
何故空港に銭湯かというと冒険者のおっさんたちはきちゃないことが想定されるからだ。洗え。
あとは革張りのロココ調ソファやテーブルを並べれば、アンティーク家具によりスタイリッシュさの中にもモダンかつクラシックな雰囲気をも合わせる事ができるであろう。
最新でありながら格式高いデザインこそが玄関口に相応しいのだ。
ちなみにパン屋だが、悲しいかな唯一のパン屋となる予定である。圧倒的物資不足人材不足により暫くは自動販売機で凌ごうとなったので。補充役は悪魔共である。
あとはギルドが運営するホテルのバイキング、私の別荘予定である海の家のバーベキューが主な食料調達手段となる。なんならバーベキューは自分で魚取ってこいシステムですらある。肉野菜はどうしようもないのでこちらも暫くは地獄からの輸入だ。
そういう意味ではリゾート地の体を成していない。マジで最初は西大陸の人たちのただの療養所となるだろう。まぁ療養してもらうにあたって観光客がウロウロしているようではちょっとあれだしな。
九龍もリゾートとしては暫く閉鎖アルなと言っていたし。開店準備中というヤツだ。2人して雇入れと貨幣がどーのとやんややんやと話し込みながら歩いているあたり、多分だが考えることは山積みなのだろう。
よし、私はジオラマを作って満足してしまったので後は頑張れぐらいしか言う事がない。頑張れ。
どうでもいいがパンイチラムレトとネコ耳パーカー九龍が顔を寄せ合って相談しているさまはなんかギルド嬢達が喜びそうだな。写真とっとこ。高く売るのだ。
これで生徒会長が居たらもっと高値で売れるのだが。まぁ居ないものはしょうがない。トンネル作ったら生徒会にも行ってトンネル作ろう。
「………………ふむ……?」
にしても先ほどから少し気になっていたのだが。
目の前をふわふわと飛ぶ変な光。なんじゃこりゃ。両手を大きく広げて……パン!!
捕まえようとしたが指の間をすり抜けてふわーと飛んでいった。なんだ、虫か?
どうにも島を作ってからこっち、ちらちらと何やら光る虫が湧いている。ジオラマ制作中には見なかったがジオラマを魔法として消費してしまってから明らかに数が増えてきた。
むむ……、不衛生な。ばっちいのは許されんぞ。
どっから湧いてるんだコイツら。コバエもそうだがこういった小虫はどうして無から湧くのだろう。
しっしと払うがその動きによる風圧でふわーと飛んでいくだけで一向に散っていく様子はない。
おのれ、許さんぞ。この全ての生命を滅する奇跡の煙を噴出する8畳用アースノヴァバルカロンEXで根絶やしにしてくれる!!
本で買おうとしたところでああとラムレトが声を上げてその光る虫をちょちょいと指で突いてから摘んでみせた。
「星霊がこんなに居るってかなり珍しいよね。多分この島が特殊事例なんだと思うけどね」
「そういう虫か。よし駆除しよう」
「あらら、まぁ虫と言われれば見た目完全に虫のカテゴリだしねぇ……。
でも駆除しないほうが世のため人のためじゃないかな?」
「益虫かぁ……」
また扱いが難しいところだな。害虫であれば駆除一択だったものを。
「私にゃなんも見えんネ。なんぞ居るアルか?」
「九龍くんってほんっとそっち方面の素養絶無だよね……。
これ多分総司くんでも生徒会長でも見えるヤツなのに」
「ほっとくよろし。見えんものは見えんアル」
「そうだねぇ、光る虫っぽいのがいっぱい居るよ。
クーヤくんこれがあれだよ。魂核ってヤツ。正確には魂核に反応して周囲の色んなマナが振動して目に見えるようになってる状態。
いうなれば未分化の魂かな。星霊って言うんだよ。星にもなれる霊ってワケ。
生命体が産まれるよりも魂核が生成されるスピードが速い場所で観測できる存在なんだけどね。魂核だけが溢れてその辺のマナを揺らしてる感じ。
生命力溢れる場所とは言うけど実際に今この島には生命力が溢れてるのさ。
それこそ各種創世神話における原始スープ概念みたいなもののガチモノだから物質界にあるようなものじゃないけどね!
クーヤくんの抜け殻にレガノアくんの力が染み込んじゃって今からここで世界が新しく爆誕しますって言われてもおかしくないもん。
まぁ指向性がないから単純に自分今力有り余ってて生命力がとにかく溢れてますで済んでるけど。
今のこの島は動物も植物もおよそ汎ゆる有機生命体が何も居ないわけだから新しく生命体が産まれる余地がないから尚更だね。結合先が無いのさ。
入植が本格的に始まったら生殖活動も始まってちょっとは収まると思うけど。
それでも多分魂核の生成スピードにはおっつかなさそうだからこれ魂核同士が集まってその辺のマナと適当に結合して新種の精霊に近い何かが産まれそうだね?」
「おお……?」
これがちょくちょく出てくるワードである魂核とかいうヤツなのか。私が生成してきたブツの筈だが、こうして目に見るのは初めてだ。興味なかったし。
洞窟で羊が魔物を作って見せた時にも私のお膝元なら魂核が産まれると言っていたしあそこでも我がミラクルボディがちょっとは生成していたのではあろうが。全部あのろくでもない病原菌にされたのだろう。あの時は地獄すら閉じていた状態だし微々たるものだったろうし。
いや今の私も多分そんなになのだが。このミラクルボディで蓄えていられる程度のエネルギーでの生成量が上限だろうしな。
そういやアスタレルがこの世界は大部分が既に魂核がカラッケツとか言っていたな。
まぁレガノアというリサイクル工場もぶっ壊れて私という生成工場もぶっ壊れていたのではそりゃ使い切るか。
そしてこの島ではそれが大いに生成されているらしい。腕もそうだが、どうして私から離れた私の一部は私より強いんだ?
解せぬ。取り外されて首輪の範囲外になるからか?
圧縮されていたのが解凍されて膨張するというのか。私の身体の足を私が猛烈に引っ張っている。なるほどこれがウロボロスか。
それだと最終的な結論がせや、私の身体を刻んであっちこっちにばら撒いたろになるからやめて欲しい。
いや別にやってもいいしちょっと前の私なら仕方がない右腕もちぎってみるかになっていただろうが。今の私はかしこいのでそれだと多分悪魔共がめんどくなってうるさそうなのはわかるのであるからして。
腕は不慮の事故だったしこの抜け殻はなんか許されたようだが。いやこの抜け殻がいけるのなら右腕もワンチャンいけるのでは?
そこまで考えたところでぐにーとほっぺたが伸ばされた。むごご。伸ばされた方角に視線を向ける。
「はひふんのふぁ」
横にしゃがみ込んだ九龍が真顔で私のほっぺたを引き伸ばしていた。何をする。
「ふむ、ろくでもねー気配を感じたよろし。
バカンス中に悪魔連中が一時停止して何かを考え込んでいる時は口では聞き流されるアルから手で思考そのものを止めた方が後々禍根を残さねーいうてたヨ」
「………………もぎゃー!!」
暴れた。私のマニュアルを共有するんじゃない!!
カミナギリヤさん達もクーヤ観察管理ノートとかいうのを回覧板のように回してると聞いたぞ。
許せん、わからせてくれる。私は自由だ!!
頬を引っ張る手から逃れて噛みつこうとしたところで口の中にポイとバカンス中に暇潰しとして作られたのであろうスルメが放り込まれた。
「……………………………………」
………………美味い!!
何を考えていたのかは忘れた。美味いスルメの前には全てが瑣末事なのである。
「ウーン……適当すぎない?
僕でもここまで刹那に生きてないよ」




