ドキドキワクワクリゾート生活4
森を育てるのは百年、焦土にするのは1日。
作り上げることのなんと難しきこと、そして壊すことのなんと簡単なことか……。
センチメンタルな気持ちに多少なったような、いややっぱり気のせいだなで終わった。
ジオラマも完成したのでいい感じの窓ガラスや家具などを調達してくるように悪魔どもには言いつけておいたので、その内にこのリゾートに相応しい素晴らしいものを持ってくるであろう。
というわけでこちらはこちらでジオラマ魔法の発動である。
ラムレトの頭がお花のようになった後にばくんと広がる。そのままジオラマを覆うようにして丸呑み。ん……ちょっと予想外なヤツ来たな……。
もっもっと砂を咀嚼するような仕草をしてからぷっと砂粒を吐き出してみせる。行儀悪いな。
まぁ食事の時も1番食い方がきちゃないからな。スプーンも箸も幼児握りであるし。優雅なのはティーカップの取り扱いくらいだ。
私の中でこいつらの食事の際の行儀の良さは1位がじいちゃんで2位が生徒会長、3位が九龍で4位がラムレトである。
じいちゃんに魚を食わせると綺麗に頭と尻尾と骨だけになるがラムレトが食うと何故か身が飛び散って皿の周辺も汚して骨だけないのだ。
九龍が食うと骨のみしか残らないし生徒会長は美味しい部分の身だけ綺麗に食う。私の場合は骨も残らない。ヨシ。
「ふんふんふーん」
ぷっぷと砂粒を吐きながら移動していくのにてくてくと着いていく。やがてよさげな場所を見繕ったのかゴロリと転がった。
「とーぅ!」
そのまま砂となって爆散した。後には服だけが残る。
世の無常がそうであるように、はたはたと服が虚しくはためく。
「………………散った!?」
世は並べて事もなし、偏に風の前の塵に同じ、いわんや文字通りの砂となって盛大に散った。あまりにも潔い塵際、いや散り際である。
顔面に爆散した砂粒がくっついたのがちょっと嫌だった。ずばばばと掻きむしって取っておく。
いやそれどころではない。ラムレトが散ったとなればやることは唯一つ。
「トイレ!! 地獄トイレをせねば!!」
慌てて地獄を設置してつまみをひねろうとしたところでひょいと摘み上げられた。
「ぬえー!」
思わずだばだばと暴れるが虚しく空を掻いて終わる。
「これ、ギャグでメルト殺すないアルよ。ノリで吸い込まれそうアル」
「大丈夫だ、やつは私の心の中で生き続けるのであるからして!」
「そりゃ死んどるアルなぁ」
言いながらぷらぷらと揺らされた。そんな片手間の適当なあやされ方で私が満足できるか。
もっとエレクトリカルかつエレガントにあやせ!!
まぁ確かに言われてみれば別に死んだわけじゃなさそうなので本来であれば吸い込めやしない筈だが、今ならなんとなく勢いで吸い込めそうな気がするので吸い込みたいのだ。
吸い込めるならちょっとお試しに吸い込んでみたい、この好奇心のままに!
「ほれ」
「もが」
口にアツアツのタコ足が放り込まれた。
おのれ、ただ表面が少しばかり焦げる程度に焼き上げられて中はプリプリのコリコリ、味は塩が振られただけのようなこんなもので、こんな、こんな……むぐむぐ……。
「ふめぇ」
「よろし。大人しくしとくネ」
タコ足とイカゲソとサザエが目の前に並べられた。うめ、うめ。
エレクトリカルでもエレガントでもないがまぁ許してやろう。ワイルドかつグラトニーなあやされ方もいいものなのであるからして。
うーん、醤油も欲しい。あとマヨ。
この世界は異界組の汗と涙と努力と欲望によりその辺りも網羅しているようだが流石にこの場にはない。しかしまぁ別に無くともこれはこれで美味いので問題はない。
ちなみにこれらは悪魔どもが焼き上げたものである。バーベキュー奉行の役割が交代でいたので。ラムレトと九龍は完全にバカンス状態であった。
口いっぱいに頬張ったイカゲソを口端からはみ出させながら周囲を見回す。気のせいでなければ先ほどから地響きがしているのだが。
「ふふぇてふほが」
「そろそろ出てくるアルな。はよ食わねば舌噛むアルよ」
「ん……?」
見下ろす地面が少し動いているような。
「…………………………」
いや、気のせいではない。砂が明らかに動いている。風だとかそういったものではない、言うなればそう。下で何かが蠢いている。
ちょっぴり嫌な予感がしたので口の中のイカゲソをまるっと飲み込んでおいた。
一歩、九龍が踏み込むと共に砂塵が舞い上がる。下から這い上がってくるものを踏みつけ、そのまま大きく跳躍。
あっという間に彼方へと遠ざかっていく大地、高くなった視界はその全景を遮るもの無く眼下に晒してみせる。
流動する砂が河のようにうねり、そして渦を巻くようにしながらあちこちで隆起と崩壊を繰り返しながらその形を変えて流れていく。
小さな子どもが砂山にそうするように。どざん、砂の下から吹き上がった巨大な腕が砂丘を押し流す。
「ひょ……」
魂の選定者、冥王神などと合一されてしまったらしい大気の神。可愛げもなにもありゃしない、砂で出来た巨人である。あまりにもシンプルな暴力には神々しいだとか神秘だとかそんなもんは一切ない。
砂の内部からかどうなのか、金属が擦れ合うような音と虫の金切り声のようなものが響き渡る。冥界の音なのかどうなのか、荒れ狂う河と人の叫び声にも似たそれは人間が聞けば一発KOであろう。
愉快げな九龍がけらけらと笑った。
「サイレンヘッドであろ?」
「どこが!?」
似てる要素は一切ない。共通点などでっかいところとうるさいところぐらいだ。
そこまで考えたところでティンと閃く。
こ、こいつら……生徒会長のスマンホホを使ったネットサーフィンで見かけたのであろうネットミームで適当にそれっぽく呼んでやがるだけだ!!
つまるところ、こいつらが言っているワードはこれでよくねと適当に当てはめている名前なので実態はまるで違うのだ。極悪人食い植物になんか色が似てるからとひまわりと名付けているようなもんである。
私に押し付けられた数々の指名依頼を思い出す。あれらも実態は箇条書きマジックでなんとなくミームに似ているかなとかいうレベルでしかなく、実物とは全く似ていないのであろうことはもはや疑いない。
指名依頼にくねくね討伐とかあったが、あれだって田んぼにいるとか動いてるとか発狂するだとかその程度の共通点しか無いに違いない。なんなら発狂するだけ合ってるまでありえるだろう。
こうなれば押し付けられた指名依頼の危険度が青天井である。絶対にやらねぇ。絶対にだ。目の前にものすごいのが居るのであれぐらいの落差が想定される。絶対にやらんぞ。
巨腕によって吹き飛ばされ空に舞った砂の塊を足場にぴょんと再び滞空時間を伸ばしてからばふばふと飛んできた飛竜にすとんと着地。
落ち着いたので眼下のラムレトを眺める。ゆっくりと持ち上げられた腕がどずんと砂に叩きつけられた。
吹き上がった砂はそうはならんやろと言いたくなる程度に重力だとかを完全に無視している不自然な動きで高さを出し始めた。
巨人を中心に砂全体が少しずつその形を変えて、私が作ったジオラマをそのまま形成し始めているのだ。ずずん、ずしんと重たく響く音はひっきりなしに上がっておりそれと合わせて砂塵もまたもうもうと舞っている。
視界を塗り潰す砂の壁の向こうでホテルや周辺施設が出来上がっていくのが辛うじて見えているが……。砂の色が全体として暗青色なので影で暗くなると沈んでしまうのでなんとも見えづらい。
暴れていた砂の巨神がゆっくりと立ち上がる。
シルエットのみながら見上げるほどの威容、少しずつ周囲を覆っていた砂塵が大地に沈んでゆきその膜もまた薄れていくが、その姿をはっきりと視認出来るようになる前にその巨大なシルエットはさらさらと軽い音を立てて溶けていった。
静まり返る砂の地に一陣の乾いた風が吹く。残った砂がぱらぱらと吹き散っていった。
「おおー……」
視界が晴れ、そこにあったのは確かに私達がせっせと組み上げたジオラマをそのまま大きくした夢のリゾート地である。金青の砂で出来た建物にきらきらとした白銀の砂が嫋やかにまじり、幽玄なるさま限りなし。
うむ、我ながら素晴らしいものを作ったな。あの美しくも繊細な噴水のモザイクよ。あの上を水が満たせばそれだけで芸術品となるだろう。全裸のラムレトが噴水の中でやっほーと手を振っていることを除けば言う事無しである。
なんで全裸なんだ。服を着ろ。確かにどっかのアーティストが作ったような彫像みのある恵体だがそれとこれとは問題が別だ。
服を残して爆散していたので逆に言えば爆散したのを戻しても服はどっかに行ったままですということなのか。
でもサウナで服を指パッチンで出し入れしてたような……いやあれは違うのか。多分だが二段腹な脂肪の間に巻き込んで物を隠すように、砂の身体に巻き込んで内側に服を隠しているだけだな。
つまり服は不思議パワーで作ったとかそんなことはなくちゃんと用意しているものなのだろう。
今やったように爆散レベルで身体をどうにかすると服を隠すスペースなんて無いので砂に飲まれてどっかにいくし後から地道に探すしかなくなるわけだ。まぁでも着替えとかあるだろう。
九龍がラムレトの荷物を漁ってぽいと投下する。
パンツがひらひらと舞った。
「僕に与えられるのは下着だけなのかい?」
「燃やすもんねーで内衣以外は自分で焚き付けに使ったであろ」
「そうでした」
しばらくラムレトのパンイチが確定したらしい。いいけども。




