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ドキドキワクワクリゾート生活3

 

 固唾をのんで見守られる中、ぷるぷるとしながらホテルの展望台にモニュメントを設置する。このギルドのシンボルとして作られたモニュメントのモデルはラムレトの国にあった神話の猫の神である。

 砂漠における黒い猫の女神というわけでスラリとしたモデル体型の短毛の猫が選択された。如何にもツンとした顔に美しいシルエット、にゅるんとうねる見事な尻尾。まるで生きているかのような素晴らしいモニュメントだ。

 台座の上に摘んだモニュメントをそっと置き、ゆっくりと指を離していく。

 何せ固めているとはいえども砂の塊、少し力加減を間違えればそれだけで崩れるに決まっているし崩れるだけならまだしも崩れた砂により下のホテルがダメージを受けるのはわかりきっているのだ。

 サイズだって小さなもの、鉄製であり圧がかかりすぎるピンセットだって使えないのである。

 最後の仕上げ、ここでの失敗は許されない。そーっと、そーっと……。


「………………………………ふぅ………………」


 台座の上に猫がちょこんと座った。崩れる様子は、ない。

 喝采を叫びたいところだがそんなことだって勿論許されない。砂粒一つをとっても吹き飛ばせないのだ。

 叫び声を上げかけた悪魔を周囲の悪魔が音もなく仕留めた。よくやった。


「……完成だ……」


「うつくし、美しい……僕らの暗黒神様とこうして遊んで頂けるなんて……うっ……うっ……帰って抜こ……」


「心の中に仕舞って。暗黒神ちゃまが嫌がるでしょ。遊んでくれなくなったらお前殺すぞ」


 悪魔どもも静かに完成を祝っている様子だ。よしよし、後で褒美でもやろう。

 多くの時間と労力を掛け、ついに完成に至る。

 見下ろすジオラマはまさに芸術品の様相を呈していた。

 このジオラマ魔法をラムレトが構築すれば、天井、床、柱、壁、外観の全てにおいて美しさ極まった夢のような超高級リゾートが出来上がることはもはや疑いなかった。

 トンネルを設置予定でもある、ランドマークたるタニシの水槽を設置するオブジェを中央に据えた噴水の広場を中心としてホテル、買い物総合施設と娯楽総合施設と並んでいる。

 そしてリゾートとして1番の遊び場は当然ながら海となるので設置場所は海辺である。ホテルから歩いて5分で海に着く勢いだ。

 パトロン達としては基本的に島には手を入れない形にするらしく、港も本格的なものは施工しないらしい。港を作るのは不要と言われている。桟橋と荷卸しに必要な最低限でやるとか。なのでその辺は特に考えていない。

 ジオラマを構築した後で周辺の地形を踏まえてなんかやるのだろう。

 トンネルか船か飛竜か、とりあえずはトンネルを出入り口と仮定しそこからホテル、そしてホテルを活動起点として考え買い物や海に行きやすい立地というわけでホテルはメイン施設であるが中心には置いていない。

 娯楽施設はアウトドア、リラクゼーション、体験コーナー、アトラクションといったアクティビティが多いことから深夜帯での活動がある為にホテルからは少し距離を取っている。

 ダンジョンがここに入っていることから1番広大なエリアが必要ということもあるが。

 さて、素材は砂のみであり頭から尻まで砂で出来たジオラマだが、あの港町のように真っ白一色というわけではなくこの島の砂が濃紺から白金まで採取できたのでそれを利用した見た目はなかなかのメリハリが出ている。

 ガラスに布や木などは当然ないので家具の類は後からある程度再設置になるだろうが、それでも砂で再現出来るものは可能な限り作り上げた。

 ホテルの展望台に置かれた今は何も飾りを付けていないこのバステトだってちゃんと耳飾りと首飾りは付ける予定なのである。特になにも付けていないのはこれらに関しては本物を付けたいからである。

 首にはしゃらりとした金の首飾りをば付けてやり、耳にも丸い耳飾りを付けるのだ。バステト感満載にするのである。

 その飾りの為に必要となる肝心のブツも既に用意している。

 何せホテルの展望台を彩る、ホテルの象徴と言えるモニュメントなのだ。ここで本気を出さねばいつ出すのかという話だ。VIPとして招かれた客が腰を抜かすようなものを出さねばならん。

 ちなみにこれは砂ではなく自前で用意したブツである。いやまぁある意味で砂も自前なのだが。

 表返った時にわんさか出てくるギンギラ光と斜め上やや後ろ70度にくるりんちょの貴婦人モードで出てくるほろほろ闇に目を付け、一瞬だけくるくるしてちゃちゃっと出して消える前に爆速でなんとか巻き取って固めて魔石にしたものを加工したヤツである。

 まぁ見た目はダイヤモンドって感じなのでシンプルなブリリアントカットで仕上げている。これをペンダントトップとした金の首飾りをバステトちゃんは装備する予定なのだ。

 ちなみにダイヤのカットと研磨はアスタレルが真顔でやっていた。

 私の手でぎゅむりと握り込めるサイズのダイヤモンドは本体からも変な力で青白い光を放ちながら、圧倒的なまでの透明度と煌めきで取り込んだ光をその内部で反射させ虹色の光へと変換し周囲を照らし煌々と光り輝いている。

 大嵐の1km先からでもこのダイヤの光が見えそうなくらいの天に輝く一等星っぷりを発揮しており、ひと目見たラムレトがなんちゃらの星って名前が付きそうと呟いてから見なかったことにするねと言ってバーベキューに戻った。

 私も後で混ざって美味いものを焼いて食おう。

 向こうではじゅーじゅーと肉が焼けている。肉自体はタニシ島で倒した恐竜のお肉とは別に悪魔どもが差し入れと称して持ってきたものがある。ほにゃらら牧場とかなんとか。美味そうなのでいいけど。

 バーベキューに勤しむラムレトの足元でごろごろと遊んでいるだけだった飛竜達とタニシは今は大人しくキャベツを食べている。玉ねぎは取り上げられたらしい。

 よし、完成したから呼ぶか。


「完成したぞーっ!!」


 枝を振り回して大声を上げる。勿論ジオラマからは距離を取っている。これで枝がぶつかったら目も当てられないので。いやここは一つ、全てを無にして改めてさらなる進化を求めるのも悪くは……?


「ハイハイハイ不穏な気配がするからやめようね」


 なんでかラムレトが爆速で来た。ちえっ。


「ようやく完成アルか。まぁまぁ掛かったアルな。ま、いい休暇にはなたね」


「一ヶ月強ってほぼ夏休みだよね。

 しかも夏休み1日目が延々と続いただけだからなんにもなってないヤツ」


「……しかしまぁ、こりゃあ引くアルな。

 ジオラマも極めればここまでいくいう良い見本ヨ」


「ほんそれ。シンプルに不気味まである。

 これホントに壊しちゃっていいのかい?

 僕らが言うのもなんだけど」


「え?

 気が向いたらまた作るから別に」


「ウーン、あまりにも無情。

 愛着なさすぎて後々なんかヤバいこと引き起こしそうで怖い。

 しかし随分と施設が細かいけど……、これどうしようね?」


「………………ま、なんとかなるであろ」


「力ずくでなんとかしようとしてなぁい?

 それなんとかするの間違いだよね?

 悪魔くん達としては何か考えてたりする?」


「おれじゃない」


「あいつらじゃないの」


「しらない」


「すんだこと」


「絵に書いたようなオアシス運動ありがとうね。

 僕のギルドが港のより大変なことになったなぁ……」


 なんか困ったことあったか?

 こんなに完成度が高いというのに。


「いやね?

 単純な話でこの規模を運用する人員と物資が無いって話でね……?

 そんなに人も入れられないし……」


「………………………………!!」


 言われてみればそうである。

 なんにも無い島だ。当然食料や消耗品などほぼ全ての物資が10割買付となるだろう。

 バカほど作り込んだが店員はおろか、住人すら絶無である。

 24時間馬車馬の如く働かせる奴隷が百人居たって無理そうだ。ぐぬ、ぬ……?


「じゃあどうするのさ!!」


 プンスコ。

 折角作ったというのに人が居ないのではまるで意味がないではないか!!

 仕方がない。


「とりあえず悪魔どもと魔物はここで働くように」


 言いつけておく。


「24時間働かせていただけそぉ」


「24時間暗黒神様と一緒……ってコト!?」


「それはいいデスが我々が24時間働いたところでどう足掻いても人数が足りませんヨ。

 触手で片手間に済ませていいのならばそれでいいデスが」


「……お前らの触手はちょっと……」


 それはなんかヤダ。なんとか出来るようだが、やらせると地獄のような有り様になりそうだ。

 やんややんやと相談していると横でうーんと呻いていたラムレトがティンと来たように指パッチンした。


「トンネルで人を運べるようになるんだよね?

 確かクーヤくんのトンネル、西大陸にもあるんだよね。

 西大陸の人を保護しようか。ここなら身体を治すのにもいいし、その後を過ごすのにお仕事もいっぱいあるし。

 あそこを出来ることだけでもした方がいいってギルドでも結構深刻な問題になってたんだよ。

 そりゃあ最期だしってジョーカーくんとオズウェルくんが大暴れしたけど。もうあの2人は西大陸に居ないし来ないって流石にバレてる。だから現状なんだろうしね。

 僕や九龍くんが行って死ぬほど暴れたって時間稼ぎにしかならないし後が詰む。

 できる限り西に行こうって人を止めて、こそこそと船で少しずつ人を入れてあちこちで保護もしてとやってはいたけどそんなんじゃどうしても限界があってね。

 人員も物資も武器もだいぶ注ぎ込んだけどそれでも全てを救済出来るほどギルドにも余裕がなかったし何より行き場がなかった。

 ここらで本格的に手を入れようか」


「そうさな……確かに盤上の駒はまだ動かせねーアルが卓の下で駒の入れ替えはやっていい頃ヨ。

 フィリアとカグラの話であちらにはあちらの事情があるはわかってきたネ。

 レガノアもとうに不在、天使も神も人が動かせるナイ。教団自由な手駒は勇者聖女、あくまで人の範疇。

 そして天使も神もこちらが考えてたより人に興味ねーアルな。人と対等なるできねーのが理由であろうが。

 人間が複数人裏切るわけヨ。あちらもあちらである意味では先が無い。

 決まりアルな」


「オッケーオッケー。じゃあ始めようか。

 ……ところでほんとにこれ壊していいの?

 写真とかいらない?

 クーヤくん多分だけど今からでも愛着とかそういうのお勉強した方がいいと思うよ」



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― 新着の感想 ―
暗黒神様のこだわりが詰まったジオラマ、さぞ凄いんだろうな… あと貴婦人モードがとても気になります…!
愛着とか学んだら学んだで、魂を洗濯する過程でこいつ気に入ったから手元に(暗黒神のタイムスケールで)しばらく置いとこってなって世界滅びない?
愛着と言うものを理解しない相変わらずの暗黒神様マインド 悪魔たちは総受けマゾだから耐えれるけどギルド員だと精神崩壊しそう。 そして何だかんだでカッチャマに激甘な九龍でした
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