ドキドキワクワクリゾート生活2
ぼむ、ぼむと砂を叩いて霧吹きをシュッシュ。
ヘラ先ですーっと線を引く。ちょっと気に食わないな。直して修正、これでよし。霧吹きシュッシュ。
熟練の手技にて小さな柱に模様を刻み続ける私はまさしく精密機械。精密機械であるからして線だって曲がらないのだ。円だって真円なのである。
そう、私こそが地獄のあーちすと。監督にして企画者、制作者でありながら設計者であり然るにさいつよなのである。霧吹きシュッシュ!!
「暗黒神様の創作意欲が留まるところを知らない」
「まぁ満足して頂けるまでお付き合いし続けるしかないわけですが」
「この細工やったの誰だよ。粗末なモン作るなドブカスがよ」
「はぁ? 悪趣味極まって出禁ちゃんに言われたくないんですけど?
お前は凡愚の為に美しいゴミ箱でもしこしこ作ってろ」
「暗黒神様のご要望がありましたのでそちらの一画は全ボツになるデス。
というわけで地に這いつくばって骨組みからやり直せ豚共」
「キャーーーーーッ!!」
「やったーーーーー!!」
「通算28回目の全ボツ、ゾクゾクするね……」
羊キックにより容赦なく崩された1区画に積み上がった砂を邪魔なので砂ならし用の熊手でがーっと真っ平らにする。よし、もっといい感じのものを作らせねば。
悪魔の芸術品なんて作ってる連中なんだからこれぐらい平気だろう。それに周りをうろちょろするアニマル共はジオラマ制作に自信のある連中出て来いと声を掛けて出てきた連中だ。これこそという作品を我が眼前に晒せ。晒すまで帰るんじゃない。
もう1区画ほど全ボツの指示を出す。序盤に作ったヤツなので他の何度か作り直したものとクオリティに差が出ている。秩序と調和を乱すな。
…………ふーむ、ちょっと一服するか。近くに居た水を出せる悪魔をひっ捕まえてあむりと口に入れる。
ぢゅーっと吸い上げてぺっとした。この暑さの中での作業、キンキンに冷えた水は実に頭をスッキリさせてくれる。便利な悪魔も居たものである。しゃぶってよし、霧吹きに水充填させてよし。
しゃぶった後にちょっと嬉しそうなのが難点だが、悪魔共の意味不明さは今更なので放っておく。そんなことより今はジオラマなのである。
キラキラした砂粒だけを集めさせているヤツからバケツを受け取ってピンセットでそーっと半ばまで作り上げているミニチュアホテルの外観に取り付けていく。美しい直線と優美な曲線が調和し、それらを繊細な細工模様が覆い彩るホテルはこの島のメイン施設に当たる。
まぁ実際はホテルではなくギルドなのだが……、それは些末な問題だ。造形モデルがホテルなのでホテルでいい。
それにリゾート地なのに泊まるところがないなんてあってはならないからな。とはいっても結局のところ作った客室の使い方はまぁラムレト次第ではあるだろうが。
ギルドとしては一応ギルドカウンター的なのを1階に設置しておけばいいだろう。この島での冒険者活動となると護衛や討伐などの戦闘類は少ないのであろうし、採取やトレジャーハントのような収集系も然りであるが。
例えあったとしても海関連のものに偏るはずだ。何せ島は何もないのだから後は探索できるのなんて海くらいだしな。あとは芸術職技術職の人が引きこもるくらいだろうか。
考えてみると別にギルドカウンターいらない気がしてきた。出入りは制限すると言っていたし。ラムレトだってギルドリゾートと言っていたしな。リゾートギルドではないのだからおまけはギルドである。なんならスパとマリンで悩んでいたくらいだ。
そもそもまともにギルドとして運用する気はないだろう。純度100のラムレトの娯楽である。ならその辺は考えなくていいか。冒険者向けリゾート地程度を想定しておこう。よしよし。
ホテルの最上階は当然ながらお偉いさん達専用と想定しておいたほうがいいだろう。となれば九龍やラムレト、生徒会長に爺ちゃんとなるのであろうが……。
ここに更に一応あの幽霊2人を勘定して、スイートルームの部屋数は最低でも6部屋。後は空室を……うーん、2部屋ほどか。ここは希少性が欲しい。というわけで8部屋を想定。
指折り数える。
ド派手な中華風、質実剛健な和風、エキゾチックなアラビアン風、ファビュラスな洋風、サイケデリックなSF風、ワクドキな秘密基地風……ふむふむ。
空室予定の客室に関しては作っておけば多分だが九龍達が接待用として運用するであろう。小うるさい偉ぶったヤツを黙らせるのに使うのだ。即ちスイートルームとはわからせルームである。
というわけで技術と贅、およそあらゆる奢侈尽くした富の力溢れるギンギラ成金ルームとする。神の工芸品と悪魔の芸術品が壁に飾られているような部屋にしてくれる。
流石に完成度の高いジオラマを作ったからとそういったものは見た目しか再現されないのであろうし、ジオラマ大きくしてから改めて本で出して設置だな。置くなら本物一択である。
2部屋なのだから内装の趣向そのものは変えておくが、セットな感じにしよう。
「うーむ……」
やはりここは黒と白でいくべきだろうか。何せ私が作るのだからそういう方向でいかねばならん気がする。クーヤちゃん風とレガノア風である。よーし、漲ってきたな。
私のこの指先が火を吹こうとしている。もはや誰にも止められないやめられない!!
最終的なホテルの階層は全部で13階層、高さは70m程を予定している。最初は666mに130階の予定だったがそんなに高くても夜景も何もないのだから全く見どころがないという結論になったのでやめた。疲れるだけである。
この建設事業におけるパトロンであるラムレトからもそんなに部屋数あっても泊まる人が足りないんじゃない? と言われてしまっているしな。
ちなみにパトロン2人は少し離れたところで優雅に休んでいる。時折リゾートへの要望は来るものの、ジオラマ制作へは参加していない。
楽しいところは僕もやりたい! とラムレトが泣いたのでジオラマの大まかなところとラムレトが作りたがった施設はラムレトが作ったが流石に手の器用さが追いつかないからとメインとなる建物の制作からは途中離脱したので。
というわけでリゾート全体のデザイン設計とたたき台の制作はパトロンによるものであり私のジオラマ制作とはそこからひたすら建物のクオリティを上げていくだけとなるのだが、だからこそ燃えるところである。職人魂がむずむずとしている。
磨き上げ、細部にこだわり、ただクオリティを高め続けるのだ。
ここからハイクオリティにしてとケーキの土台を渡されたパティシエ、仕上げをお願いとベタ塗りの絵を渡された画家、素焼きのなまくら剣への研ぎ入れを頼まれた鍛冶師、私の職人魂は唸りを上げている。
まずは崩れないように、ミルフィーユの如く層を重ねているジオラマホテルの上に真っ直ぐな板を乗せてその上に砂を美しく固める。これが土台となるのである。
10階までが一般客室としてスタンダードグレードにデラックスグレードまで、そこから上がラグジュアリーフロア、所謂VIP専用エリアであり1階からの直通エレベーターでのみ通じている隔離フロアとなっている。
11階が専用ラウンジとなり、12階がセミスイートの予定だ。そして今まさに一般客室の最上グレードであるデラックスルーム階の制作が完了したところである。ここからが特に楽しいところであるからして!
ホテル本体は私のものなので悪魔どもはせっせとホテルの庭園やら周辺施設やらを組み上げている。
む、それはボツだな。ほぼ完成間際であろうシンボルマークをぐしゃっと潰した。やり直し。キャーッと甲高い声を上げて該当エリアの担当悪魔はもんどり打って倒れた。タコ足がうねうねしている。
買い物総合施設エリア担当としてもっともっと相応しいシンボルを作れ。お前ならやれる。
ボツにしてから改めて全体を見回す。
ブラッシュアップされつつあるジオラマは既に神業。超絶技巧の塊だ。素晴らしい。うむうむと頷く。
ラムレトのこのジオラマ魔法的なものは世界に干渉し建物やらを創造するにあたり、干渉力だの霊力だの神力だのマナだの魔力だのそういったものを消費しているわけではないのだろう。何せペラ神である。
精算は本人が持っている機能だが、このジオラマを設計図とする魔法の行使で消費されているのは恐らくジオラマそのものと掛けた時間と労力である。魔法を発動するとジオラマは失われるし時間も労力もなんもかんも虚無の海に消えるのだ。
ようするにお代は払えないから皿洗いを代金代わりにしている感じだろう。皿洗いが足りなければ発動後、哀れ砂山になるわけである。
即ち、百貫デブこと私と化け物しかいない悪魔どもがこの全てが虚無に還るとわかっている作業に手を掛ければ掛けるほど皿洗いぢからが高まり畢竟、リゾートの完成度がぎゅんぎゅん上がる。やる気がみなぎってきたな!!!
「さて、ここに閉じ込められてから1週間経過したわけですが」
「気にするないね。
腹も減らね喉も乾かね、お空の雲も外の海も同じムービーが繰り返されているだけ。
泳いで脱出を試みたところでまた島に戻って来るだけ。
毎日毎日交信球にゃ同じ連絡が来るあたり外界との空間は完全に断絶しているであろ。私達は同じ1日を繰り返し続けるだけの状態ヨ。
外の時間経過を気にする必要もなし、あちらが満足するまで待つしかねーであろ。
最悪、メルトがパトロン認識されてるアルから強権発動も可能といえば可能であろうからな。
気長なバカンスとでも思っとくヨ」
「ウーン、実におおらか。普段なら絶対にマジギレするヤツなのに。
まぁあれで結構出来上がってきてるし、そこまでは待たないかなぁ。ここまで来たら心ゆくまで楽しんで最高クオリティで制作して欲しい気持ちもあるし。すっごいのできそう。
けど、土台は僕が作っておいて良かったよ。あれで1からクーヤくんに任せてたら絶対にキリがなかったヤツだよ」
「今後もメルトの力つかて建物作るクーヤに好きにさせるにしても大きさも作る施設も制限必須アルなぁ。
ありゃあ多分1回こっきりで飽きるアルが」
「なんにも否定できなくて草。頼り切っちゃ駄目なタイプで安心だねぇ。強要するようなのは精算でいいし。
とりあえずどう使おうか?」
「完成品見てからアルな。誰だろうが没交渉の外連中ナシは確定しとるが。特に試し行為してきた連中論外ネ。
とは言え外交の手札として切れるカードにするには最上級アルが、交渉程度で使っていいようなもんでもなし。頭下げてきたら渋々考える程度ヨ。
ギルド用のリゾート島にしておくのが1番安牌じゃねーアルか?」
「それはそう。絶対にヤバいやつ出来るもん。
試し行為って潜在的な敵対行為だよねぇ。あれやられると信頼のスタートラインが地の底っていうかぁ……。
うん、リゾート島にするなら最初は総司くんと生徒会長に、あとギルドの主メンバー呼んで遊ぼうか!
クーヤくんにトンネルも作って貰おう!
リゾートなんて出来たらバカンス必須っしょ!!」
「それはいいアルが、ジオラマは本人の趣味で構わねであろうが島が神託分解の工賃と少しばかり釣り合ってねーアル。本で出したただの島ならいいんであろうがな。
メルト、悪魔がヨシ言うまで暫くクーヤの下働きするヨ。個人でクーヤの抜け殻貰うは後がこえーアル」
「はい。理不尽借金を背負ってボカァ泣きそうだよ。
今回の僕っていいことなくない?」




