表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/233

タンザナイト塩湖ブートキャンプ2

「むくり」


 起きた。朝ぼらけな時間帯、あまりにも健康的である。バリバリと九龍のパーカーに爪を立てて爪とぎしてからぐぐーっと伸びをする。

 よし、朝ご飯の時間だ!!まぁ食うものは非常食とトカゲとカエルの残りくらいだが。

 本で出せとなるところであるが事ここに至ってはもはやこれはプライドを懸けた戦いであり、妥協は即ち敗北である。そして敗北とは死なのだ。

 美味しいキャンプ飯が食えるまで私は絶対に本で食料を出さんぞ。冷えてカチカチのトカゲに齧りつきつつあの黄金の朝日に誓う。

 余計なものを入れなければ私だって白湯くらい作れる。赤い魔石を両手に握ってカンカンと弾いて消えてしまっている薪に火を着けた。五徳にヤカンを設置し煮えるのをぼけーっと待つこと暫し。

 2人共起き出したようでゴソゴソしているのでそれなら湯呑みも置いておこう。多分飲むだろ。私の料理っぷりに恐れ慄くがいい。


「おっはー!!やぁやぁやぁ、実にいい天気だね!!

 じゃ、今日も一日頑張るゾイ!!」


 ボルゾイ顔のラムレトが朝っぱらからうるさく叫ぶ。なんだその生意気なマズルは。許せん。


「あ゛~~~……」


 今日は珍しく寝起きが悪いらしい九龍がパーカーに手を突っ込んでボリボリしながらハンモックから降りてきた。


「あれ?九龍くん珍しいね?

 いつも朝はしゃきっとしてるじゃない?」


「深く寝すぎたネ……」


「わかりみが深い。クーヤくんがお腹で丸まってるとなんかこう……めっちゃ寝るよね。

 程よい重さと落ち着く生ぬるさと得も言われぬしっとり感とあとなんか確実に出てるよアレ。夢も見ない眠りって感じだよ。

 1%くらいの確率で二度と目を覚まさないってありそう」


「如何にも有り得そうな話を挙げるのやめるよろし。

 セイトカイチョーあたりふつーに引き当てそうアルな」


 言いながら焚き火を囲んで白湯に口を付けはじめた。どうだ私の見事な料理。


「湯を沸かしただけであろ。これ料理いわぬネ」


「カップラーメンのほうがまだ料理感あるような?」


「ぐぬぬ……」


 淹れてもらっておいて文句を言うなという話だ。

 ぷりぷりしているとラムレトが何やら自分の荷物を漁ってブリキ缶からしなびた花のようなものを取り出し白湯に投入。なんだそりゃ。


「私にも寄越すネ」


「はいはい」


「私にも寄越すのだ!」


「ウーン、この集られ感。いいけどね」


 ふむ、どうやら花の塩漬けかなにかのようだ。白湯の中でゆっくりと花びらが広がっていく。花茶といったところ。オシャンだな。

 酢と塩で漬けたもののようでほんのりしょっぱい。花の香りが強いので飲み物としてというよりも見た目と香りを楽しむ方に比重のある飲み物だろう。


「さて、今日はちょっと巻いていこうか?」


「そうさな。キャンプとしてはまぁまぁ楽しめたヨ。

 切り上げ時ネ」


「キャンプ飯は!?」


 もう終わるかーという空気に思わず叫んだ。私はまだ満足していない!!

 ひっくり返ってジダジダと大暴れである。何も美味いものを食っちゃいないというのだ!!手ぶらで帰れるか!!


「しょーがねーアルなぁ……」


 ゴソゴソとアイテムボックスを漁って取り出されたるは恐竜肉である。なんだ、美味そうな肉ではあるが生じゃないか!

 五徳の上に置きっぱなしのヤカンが取り除かれ、鉄板がボンと置かれる。その上に乗せられた肉がじゅーじゅーといい音を立てた。肉汁が溢れ、弾ける脂が周囲に飛び散る。

 仕上げとばかりにパラパラと塩が振られてほどよいウェルダンな焼き具合になったところでペラペラのトルティーヤ生地が取り出され肉がくるくると巻かれてゆく。

 そのまま蝋引き紙の上に乗せられたものが私に手渡された。アツアツでホコホコにしてジューシィ、ケチの付け所のないブツであった。

 ついでとばかりにラムレトの手によりオヤツ袋に入っていたマシュマロが炙られココアがたっぷり入ったカップに乗せられて私の前に置かれる。

 こちらもただでさえカカオとミルクの香りがマッチしているというのに更に炙られたマシュマロの禁断の香りが加わり最早お前の罪を数えろというほうが早い。


「これでいいであろ」


「満足かい?」


「料理出来るんじゃん!!出来るんじゃん!!!」


 叫んだ。いやでも確かに九龍はユグドラシルで魚程度は普通に焼いてやがった!!ラムレトはわからんけど!!

 なんで手を抜いてたんだ、おかげで私はここ3日間ずっと貧相なご飯だったのだが!?


「焼くくらいは出来るネ。蒸すは無理アルが」


「僕も炙るくらいは出来るよ。煮るのは無理だけど」


「クソァ!!」


 毒づいてトルティーヤ巻ステーキに食らいついてココアを飲む。美味い!!


「いやあ、なんか九龍くんが手を抜いてるからつい。面白かったし」


「別にいいであろ。やるやらないは私が決めるネ。

 クーヤ居るなら私はメシやらね決めてるアル」


「こんにゃろー!!」


 変な決め事を作るんじゃない!!本で食べ物が出せることに完全に味を占めている。なんてこった。しかも食券があるので嫌とも言い難い。

 おのれ、…………美味い!!

 モギモギモギと食い尽くして立ち上がる。


「帰る!!」


 こんなとこに1秒だっていられるか!恐竜しかいないしなんもねぇ、景色だって3日も居れば飽きるのである。


「じゃあ恐竜駆除して離れ島に向かおうか。クーヤくん、死体をなんとかリサイクル出来ないかい?

 僕らが持ってる収納袋は限度があるし、お肉は生モノだしね。かといって僕が砂にしちゃうと何にもならないからちょっとねぇ」


「む」


「数多すぎて処理しきれねーアルからなぁ、駆除簡単アルがそれよりも死体処理のほうが難しいネ」


 なるほど、それで駆除数を絞っていたのか。倒すより解体のほうが時間掛かっていたし。恐竜ものすごい数だからな。

 考える。うーむ……。


「!!」


 ピコーンと閃いた。よしよし、地獄の輪っかを折角なので作った板に設置。叫んだ。


「出てこいメロウダリアー!!」


「御意に……主様、あちきはこの板は好きではありもうさん。

 見ておくんなまし、この穴の有り様。主様が固定化させた物質化エーテルなどというこの世で最も堅牢なちぃさな穴でありんす。

 お陰であちきはこれこの通り、強制的な省エネでございますでしょ。よ、よ、よ」


 というわけで蛇悪魔を召喚なのである。文句を言いつつ頭だけ出てきた蛇をむんずと掴んで無理やりずるりと引っこ抜いた。あふんと声をあげて捻じくれたが気にしない。

 お肉は消費しきれないし保存も出来ない、解体もしきれない。つまりメロウダリアに石化させてしまえばいいのだ。お肉として消費できなくともオリハルコンにしてしまえばむしろお得まであるだろう。

 これぞまさしくエントロピーだの質量保存だのその全てを無視する画期的な革命、マジカルすぎる錬金術。


「その子ってアレかい?石化の魔眼でオリハルコンにしちゃうって悪魔?」


「神珍緋鉄アルか……。あの燃えないゴミであろ。

 重い固い魔力反応値高すぎる値段高すぎる加工難度高すぎる産業廃棄物にも劣る鉄屑ネ」


「えっ」


「心外ってお顔のところ悪いけど割とその通りなんだよねぇ。

 僕の精算も通らないし九龍君が全力で殴ってもヘコまないくらいの鉄塊だよ。まともに加工するなら東大陸の神の炉くらいの火力いるから。

 鍛冶の神がハンマー握って原始の火で炙ってようやくスタートラインってぐらい。

 おまけにこの島の恐竜たち全部オリハルコンにしちゃうと重さだけで島の土台が崩れて沈没っていうのが洒落にならない確率で有り得るんだよねぇ。

 つまりマジでただのゴミです」


「メロウダリア帰っていいぞ」


「主様、酷いでありんす!!」


 花人さんの石が鞭に加工されていたのはどうやら尋常ならざる技術と手間暇と金を掛けたとんでもない代物だったらしい。錬金術でゴミを作るところであった。

 となればもうメロウダリアに用は無かったしなんならゴミを量産される前に帰って欲しい。いやでござんすとねじねじと身を捻って抵抗を見せているが駄目だ駄目。

 ポイと地獄の穴に放り込んでおいた。振り出しに戻る。ていうか魔力は貯蓄されたのだし逆にギルド予定地に行ってトンネル作って人を通れるようにしてしまえばお肉だって消費できるのではないか?

 いやまぁそれだとトンネルを中心に考えてギルドを組み立てなければならなくなって自由度は減るが。それがイヤなのはわからんでもないな。私だってイヤだ。なんならトンネル破壊まである。

 しかし解体業務と肉をどうしよう。なんか道具でも本で出してしまうか?

 だがここまで来てそれはなんか負けた気がするな。うーむ。じーっとラムレトを眺める。なんかないかな。


「なんだい?」


「なんかラムレト魔改造出来ないかなと思って」


「なんか怖いこと言ってる……」


 サポーターにしたのだしなんか出来そうなものだが。ぐるぐると周囲を回遊して眺め回してみる。

 砂にしてしまうと何にもならない、つまり砂以外に出来ればなんかになる。ヨシ!

 よじよじとよじ登って再び究極合神。ボルゾイ顔のマズルをしゅしゅしゅと両手で交互にすりあげてから手を叩いた。ピーピーガーガー!

 異次元ケーブル接続!!


「合神した暗黒神ちゃんパウワーで砂以外にするのだ!!」


「ウーン、なんという丸投げ。まさかの拡張パックかぁ。でもなんか出来そうってのが1番怖いね?」


「試すアルよ。これどうね」


 ひょいとアイテムボックスから恐竜の皮が取り出される。どれどれ。


「こうかな?」


 ラムレトの手が触れた瞬間、ざらぁと音を立てて崩れていく皮は変換効率こそ悪そうではあるが多量の細かな砂へと変ずる。

 ただし、これが普通の砂ではないことは一目瞭然であろう。なにせ綺羅綺羅しい光を放つそれはカラーサンドのように色彩豊かに色づいているのだから。

 徐ろに砂に手を突っ込んだ九龍がふむと頷く。


「ちっけーアルが、魔石ならまぁ使い道もあるであろ。悪くないね。最悪クーヤに食わせるよろし」


「マジ!?ヤッター!!

 いやぁ、クーヤくんブースターの出力ヤバいね!!」


「うむ!!精算と返済、分解と消化が合わさりつまるところさいつよなのだ!!行くぞーっ!!」


「あ、九龍くん。

 恐竜くん達はよろしくお願いします。僕これ多分めちゃくちゃブースター起動にスペック取られてる!!

 すっごく重い!!歩くのしんどい!!走れないかも!!」


「クーヤはどう足掻いても百貫クーヤであるなぁ。

 掃除には便利アルが引き換えにメルトほぼ役立たずなるなら完全に家庭用よろし」


「だれが百貫デブじゃい!!」


 フシャーッと叫ぶ。お前も吸い込んでやろうか!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか最初の暗黒神ちゃん様、完全にお猫ちゃまですね??お腹の上で丸まって寝るのといい、ところ構わず爪研ぎするところといい。そして爪研ぎするのが九龍のパーカーなの、ギルドの職員達が見たらまた震え上がるん…
不用意に外部ツール使うとウイルスでちぬぞ
<<飯は作らない九龍 エモいね <<外部アタッチメント暗黒神様 相変わらず不可思議存在w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ