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タンザナイト塩湖ブートキャンプ

 ピエーン!と泣いている内に着いてしまった。おぉん。まぁ街の住人達のほうが泣いていたが。

 クンツァイト港から自由都市を挟んだ南大陸の真反対、タンザナイト塩湖。

 観光名所らしいが南大陸から更に海を隔てた向こう側、まぁ南大陸のおしりと言える場所であろう。そこにその塩湖のある島はあった。

 真っ白な大地に鏡のように天空を写し取る湖面、その圧倒的なまでの美しさに疑いの余地はなく素晴らしき映えスポットと言える島だった。

 だが、辿り着いて僅か1時間にして私は九龍とラムレトが先行した理由を嫌と言うほどわからされたのである。


「ゴルルァァァアアァアアン!!!!」


「ホギャーーーッ!!」


 私という栄養を齧りとろうとどちゃんどちゃんと美しい湖面をなんのそので蹴散らしながら恐竜のような怪獣が迫ってくる。

 その怪獣の横っ面を九龍が軽い調子で蹴り飛ばし、首が不自然なまでに伸び切った怪獣はどしぃんと音を立てて倒れ伏した。首の長さが1.5倍ほどになっている。怖い。

 そして倒れた怪獣は生物としてマズいだろという動きで痙攣して引きつけを起こし始めた。怖い。

 そんな怪獣を飛竜達がボリボリボリと食い始めてしまう。うーん、弱肉強食。怖い。


「おっつー。今ので何体目かな?」


「10から上は数えてねーアルな。人の入る塩湖周辺はともかく、それ以外を放置しすぎたみてーアル。

 わかっちゃいたが駆除が先アルなぁ」


「おうちかえる……」


「ほら、ご飯だよ」


 渡された非常食をコリコリと食べた。非常食飽きた。飽きたが食えるものはこれくらいしかない。騙すにもほどがあるというものだ。

 確かにキャンプ飯ってすっごい美味しそうだよねと言っただけで食えるとは言っていない。ちくしょうめ。本で食料は出せるがあまりにも悔しいのでそれは最後の手段だ。


「そりゃあ僕らは生活力ド底辺だからね。生活力0×0×0の答えは0だよ。

 ド底辺が寄り集まってもド底辺ってワケ」


「むぎぃ……」


 言う通り、怪獣は最初解体して食べてみようとはなったが最終的に我々の手によりタダの炭屑となって哀れ、タンザナイト塩湖の露と散った。霜降ってて明らかに美味そうな肉だったというのに。

 生煮えのラムレト、炭化の九龍、原色のクーヤちゃんと言ったところであろう。到着して3日目だが未だに非常食以外はまともな食事を口に出来ていない。

 変だな、こいつらはともかく私ははまぐりぐらいは焼けたというのに。百足にどう歩いているのかを聞いたら途端に絡まったみたいな事になってしまった。隠し味を入れるのが悪いのだろうか。


「もう開拓するつもりなかったし縮小段階に入ってたからねぇ。

 どーせ人間に取られるんだからで妖魔も魔獣も必要最小限の駆除に留めてたし、まぁ大いに育ってるよね。

 この世界って基本的に生物の強さの振り幅大きいし長生きだし。駆除しないとすぐこれだよ。恐竜の楽園じゃないかい。

 いや~、嫌がらせがそのまま返ってくる、これぞまさしく因果応報だよ。九龍くん反省して」


「いやアル」


「草」


 全く恐ろしい島だ。恐竜しかいねぇ。あと塩しかない。荒れ地もいいとこだ。

 ちなみになんでタンザナイトという名が付いているかというと昔からの南大陸住人曰く、一面タンザナイトだったという口伝があるかららしい。ただ、それは大昔の話で人間が採り尽くしてしまったようだが。

 真っ白に積もる塩の下に真っ青に輝く巨大な魔石が埋もれている様子は透明度の高い湖が丸ごと凍りついたような美しさだったとか。

 そして無理な採掘で掘りに掘った結果としてなんかよくわからんが大事故を起こしたらしくそれで全部吹っ飛んだとかなんとか。千年単位で昔の話のようで大した記録も残ってないらしいのだが。とはいえ現地民と教団の別口から同様の話が出てきたらしくそういう島だったこと自体は確かなようだ。

 魔石も掘り尽くし、事故が起きてただの荒れ地となったことで価値が無くなり皆居なくなった後で長い時間を掛けて今の環境になったのだろうとの事でギルドが再上陸した事で今の美しい塩湖が発見されたようだ。

 よし貢げと当時は横槍入れられまくったらしく九龍もラムレトも話す時にぶすーとしていた。

 観光名所とされていたのは島の1部のみでそれ以外は再上陸時に1度巡っただけらしくほぼ人の手は入っていないということでこれを機に再度歩き回った結果として、広大な鏡のような浅瀬が続いているがこの島はほぼ大半が恐竜の楽園状態であることがわかっただけだ。恐竜以外の動植物は僅かでありかろうじて生えている植物もこの島に適応した植物であり齧りつけばそれだけで顔面パーツが中央に寄ってしまう百年ものの梅干しの如き塩辛さ。普通の生物は塩分過多で死にそうである。

 探索の最後には島の中央に赴いたが、そこには湖の中に水没する巨大な大穴が鎮座していたのみだ。

 塩分濃度の高さにより微生物すら居ない水は恐ろしいほどに透き通っていたがそれでも尚見通せぬほどに深い、深い大穴は底が全く見えずただ深淵に通じる穴のようにしか見えず、宇宙でも覗き込んでいるような得も言われぬ恐怖だけがある大穴である。

 絶対に泳ぎたくない感じだったし底に潜ってみるとか断固としてお断りな感じであった。透明度が高い分、水底が大穴となっていく様子がつぶさに観察出来るのもまるで良くないのもある。エメラルド色で綺麗は綺麗だが絶対に潜りたくない。

 さて、というわけで今回も恐竜は飛竜たちの餌となり手に入ったのはクソ固い皮だけだった。魔獣や妖魔やらは倒すと魔石もたまに出るらしいが、そういうのは百年とか生きたヤツくらいらしい。後は生物として格の高いヤツ。ドラゴン系列とか。

 しかし今この世界は魔族や亜人やらは出生率が低いと言っていたが……いつかの黄金ゲルみたいな白炉から産まれたものを除けば微生物から動植物はその辺り制限していないのだな。多分処理しきれないからだろう。ある程度のライン引きで自動的に剪定しているとかでやってるのかもしれないな。

 進化して知性を得て目立つようになったら手を加えるというやり方でやっているに違いない。何よりこうして力いっぱい繁殖されるとギルドの手が割かれる。それを考えると寧ろ逆方向に手を加えているかもしれない。冒険者のおっさん達頑張れ。


「今日はこんなもんアルかな」


「そうだねぇ、おやすみの準備しとこうか」


 言いながら皮をアイテムボックス的なものに仕舞いつつ、デカい岩のような塩の塊で出来た高所を陣取って敷物敷いて焚き火が着けられれば程なくして日も暮れる。終わり。

 おやすみの準備とは言っても生活力0なのでこれで終わりなのである。

 ちなみにキャンプとはいうものの、我々ではテントすら張れなかったので寝る場所だってハンモックなのである。まぁ最初から諦めていたらしい九龍とラムレトは荷物にキャンプ用具すらなかったのだが。

 これじゃただのサバイバル野宿である。

 さて、パチパチと弾ける火の粉を眺めながら、ついに来た。スリスリと手を擦り合わせる。本日の最重要事項確認のお時間である。これによって今後の豊かさの全てが決まるのだ。気合を入れた。


「さて、毎日恒例食料調査の時間だよー!」


「ん」


「あい!」


 ラムレトの宣言と共に各々今日一日島を探索した成果を出し合う。

 九龍、ネズミ。ラムレト、トカゲ。私、クラゲ。どうやら今日も非常食トゥナイトになりそうだな。


「クーヤくんこのクラゲなんだい?」


「空中遊泳してたから虫網で取ってみた」


「ウーン、クラゲの概念が乱れる」


 ぷらんと持ち上げられたクラゲはしんなりとしたまま揺れている。まぁゲーミングに光っているし全体的に青いし、毒だろうなと思うので食わない方が良いとは思う。

 ワンチャン食えないかなと持ってきたがひと嗅ぎした九龍がフレーメンしたから駄目なんだろう。無念。

 捌かれたネズミとトカゲに鉄串をぶっ刺してジリジリと炙る。味付けは無限にありそうな勢いの塩だ。私が味付けに手を出すことは禁じられているので。

 ネズミにトカゲぐらいのサイズなら九龍ラムレト私の順番でこんがり具合を見ることでまぁなんとか食えんじゃないかな的なバランスに焼き上がる事が実験の結果わかったので1個を3人で見るとかいう人件費オーバー料理である。

 じゃああの恐竜も小さくすれば焼けるだろとなるところであるが失敗率は材料の値段に比例するというマーフィーの法則に則り恐竜だと失敗する。

 しかしギルド総裁と大書庫管理人と暗黒神が寄り集まってネズミとトカゲを食うのは如何なものか。思うが無いものは無いのだ。

 こんなもん食って腹を壊さないのかとも思うが、九龍はスラム暮らしだったことで腹を壊すというのはほぼ無いらしい。ラムレトと私はそもそも食事は趣味だ。

 仕方がないので非常食は九龍に多めに振り分けておいた。人間だしジジイだしな。


「うーん」


 暇なのでその辺に残っていた恐竜の皮を炙ってみる。

 ぐぐぐぐとスルメのように反り返って香ばしい匂いが周囲に漂いはじめる。ちなみに匂いが香ばしいだけで皮は食えない。1度齧りついたが全く味はなく噛み切る事も出来なかった。

 実は香りそのものが主食らしいラムレトが喜ぶので炙っているだけである。


「私にもなんか寄越すネ」


「非常食あげたじゃん」


 わがまま言うな。前々からうっすら思ってたが九龍ってフィリアと同系列では?

 犬と猫って感じだ。なるほど仲が良くないわけである。こんがり焼けたネズミをあげておいた。これで我慢しろ。

 ネズミに齧りつき始めた総裁はともかくとしてラムレトに聞いてみる。


「この島のどこにギルドなんか作るのさ」


 どこもかしこも塩、塩、塩。塩湖から離れれば植物もあるがそれだって僅かなものだ。人が住むに適しているとは全く思われないのだが。


「うん?

 ああ、そうだね。これも言ってなかったかな。ギルドを作るのはタンザナイト塩湖の離れ島だよ。この島の西沿岸の方にもう一つ小さな離れ島があってね。

 塩湖と橋を掛けて行き来できるようにして基本的にはその離れ島で生活ってことになると思うよ。あっちは塩がないし平べったいし。クンツァイト港の代わりに運行ルートに入れるからそれなりに繁盛するんじゃないかな。

 本島の方は今まで通り観光スポットにしておいて離れ島は関係者以外立入禁止だね。離れ島にギルド、塩湖は観光向けの宿場、南大陸の方にもう一つ大きめの港かな。元々塩湖と南大陸間には観光用のルートがあるしね。それを改造するってワケ。

 どうしようかなぁ。南国風は飽きちゃったし。和風にするにしてもユグドラシルは温泉街になりつつあるって聞いたから多分そっち方向に行くよね。

 被るのは嫌だしどうしよっかなー」


「ほーん」


 なるほど、離れ島か。塩がないならそれなりの環境だろうしいい感じなのだろう。しかしギルドを何スタイル仕上げにするかかぁ。

 被るのが嫌というのはなんとなくわからんでもない。ふむん……。


「もうリゾートランド風にでもしとけばいいじゃん」


 毎日花火でも打ち上げとけ。


「それだ!」


 バシンと膝を打ってラムレトが叫ぶ。

 それなんだ……。適当に言ったのにやるのか。


「じゃあアトラクションどうしようかな……」


「異世界なんだからダンジョンとかでいいじゃん」


「それだ!!」


 バシンと再び膝を打ってさっきより音量高くラムレトが叫ぶ。

 それもいいんだ。言っておいてなんだが人来ないだろうに。無人のリゾートになるのが目に見えている。

 いやまぁ最上階のスイートルームで勇者ぱーちーに向かって悪いな勇者、このリゾートはギルド会員限定なんだとやったら面白いだろうけど。


「ダンジョンをどうやって作ろうかな。僕1人だとしんどいけど誰か手伝えそうな人いたっけ……」


「ウルトとカルラネイル辺りを島に置いとけばいいじゃん。勝手になんか出来るし」


 封印状態のウルトで青の祠みたいなのが出来てたんだからほっとけばそのうちニョキニョキ生えてくるだろう。

 ユグドラシルと繋いでなんかその辺色々ありそうな人に日替わりで来てもらえば瘴気とかで迷宮なり出来るだろ。

 マリーさんとクロウディアさんなら指向性も持たせられそうだ。


「それだ!!!クーヤくん天才だね!?」


 バッシンと膝を打ちながら猛烈な勢いでラムレトが叫んだ。こやつ元気いっぱいだな。


「また大掛かりアルなぁ。まあよろし。

 ぼちぼち寝るヨ」


「よぉしやる気出てきた!!寝よう!!」


 やる気出てきたのに寝るんだ……。まあいいか。明日も恐竜駆除になるのだろう。

 なんとかあんちくしょうどもを美味しく食べたいものだが。ある程度駆除したら冒険者入れると言っていたし、それまでお肉は飛竜行きなのだろうか。

 おのれ。なんとか出来ないか、なんとか……なんとか……。考えながらハンモックによじよじとよじ登る。ぐぬ、足が短い。

 にしてもお空は満点の星に覆われサバイバル野営でさえ無ければ最高のロケーションなのだが。日々を過ごすのにも南大陸の本土と違ってこちらは雨が少ないので天気という点でもマシであろう。

 先にハンモックに乗った九龍がぴょいと私を持ち上げる。よしよし。くるんと腹の上で丸まって入眠姿勢。この島の危険は大地だけではなく空にもあるのだ。

 具体的にはギャァギャァと鳴き声をあげて旋回している鷲とプテラノドンの中間みたいな全長2mくらいの怪獣である。恐竜も小さいヤツならスワッと持って行く恐るべき連中なのだ。

 私のようなミニマムお肉は狙い所らしく1人になるとガチ目に狙ってくるのである。恐ろしい。なので飛竜と九龍とラムレトの寝床をローテーションしている。

 とは言ってもどの寝床もそれぞれ問題があるが。飛竜の寝床は朝起きると大体ヨダレまみれでラムレトの寝床は砂まみれ、九龍の寝床は周囲がミンチなだけで被害はないがクソ固い。

 しかし安心安全とは引き換えに出来ない。ラムレトには悪魔くんたち呼んだら?と言われたがアイツらはめんどくさくてうるさいのだ。

 さ、寝るか。


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― 新着の感想 ―
やったぁ合法ロリゴッドと添い寝だぁ 寝床拒否されてて悪魔くんカワイソ まぁ残当かなぁ、と思いつつ不憫やなって
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