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クンツァイト港食い倒れ旅行編~蛍の光~

 というわけで爆弾バラマキ事業の始まりである。港は既にギルドの手が回っているらしく規模の割に一般人らしい姿は殆どない。残っている人もギルドの人であろうしそれも備品の放棄と荷の搬送の為に残っているだけのようだ。

 海にも船の類もほぼ残っていない。足の早そうなのが一隻と廃船らしいものが一隻残っているがアレは多分脱出用のものだろう。竜舎に居た飛竜やらがよじよじと乗せられているし。廃船の方は爆弾用だっただろうけど。

 陸路じゃ追い回されそうだし。しかし撤収が早すぎやしないだろうか。元々撤収前提だったのかもしれないな。

 港なんてものは普通公共施設ではないのかというところだがよく考えたら国なんてものが無かった。港だって完全にギルドの私有施設のようでこんな事もお茶の子さいさいらしい。

 まぁ街だってラムレトが作ったくらいだしな。僕らが趣味で作りましたでありそこに住み着くのも設備使うのもまぁいいけどって運用だったようだ。確かにそう言われるとなんでギルドが余所者扱いなのか謎である。

 私はよくもう私のもんだをするが。ラムレトと九龍が持ってきていた荷物はどでんと私が見張り番とばかりに私の傍に置いてあるがこれだって実質私のもんと言っていいに違いない。

 ラムレトが砂で作った大きな鳥が爆弾を掴んでまふまふとあちこちに飛んでいくのを眺めながら係留柱にへばりつく。あれ便利そうだな。

 九龍も適当な場所にがらりんと爆弾を投げ入れて回っているので私は暇になってしまった。荷物番というのは暇との戦いだ。係留柱にへばりつきながらラムレトの荷物を引き寄せてがさがさと漁ってみる。

 身だしなみを整える消耗品の類にタオルやらなんやらの日用品、スーツはやめといたらしく着流し系の衣類に後は仕事用らしき書類の類によくわからん道具。

 ひげ剃りが入っているのは何故だろう。剃るヒゲないだろ。何故かポプリと御香が入っている。それに水筒と軽い食料。

 それに小さな瓶にはガラス片が2つ。多分交信球と鑑定誤魔化しのアイテムだな。うーむ、当たり障りないラインナップ。食料はがめておいた。

 九龍の荷物も引き寄せて漁ってみる。まぁ飛竜旅で割と漁ったが。

 こちらも消耗品に日用品と衣類。派手服は重たいのだろう、軽い感じの服になっている。ラムレトと違って書類関係は一切ない。潔すぎだろ。ちなみにひげ剃りもない。まぁヒゲを剃っているところは見たことないしな。ブラドさんはよく剃っていた。

 毛繕い用のブラシに幾つかの髪留め。後はお茶缶と水筒、そして食料が荷物の大半を占めているようだ。鑑定誤魔化しのアイテムが雑な扱いで布袋に入れられている。交信球は無いようである。うーん、これは完全に仕事する気ゼロ。

 こちらからも食料をがめておく。ついでに水筒も飲み尽くしてやった。

 それにしても道行く人達がヤバいものを見る顔でもぐもぐと食料をムシャつく私を見ているのが少し気になる。なんだ。


「総裁と管理人の荷物漁るとか怖いもの知らず過ぎて怖ェ……」

「総裁の食料奪い取ってる……なんで殴られないんだ……?」

「え?あの人そんな怖いんスか?初めて見たけどあんまりそんな感じはしなかったような……」

「俺らがあのノリやったら普通に瀕死になるぞ。3ヶ月入院は固い」

「様子がおかしくて怖い。あんな総裁初めて見た。古株のおっちゃん泡吹いて倒れたぞ」


 なんかぼそぼそ言い合っている。取り敢えずカーッと威嚇しておいた。

 むっちゃむっちゃとしてからぼとりと係留柱から落ちて転がる。暇だな。

 よし、ちょっとセレブだし資産に影響の無い範囲で海に色々放流して遊ぶか。あの六本足の馬のような生物を復活させるのだ。

 ぱらりと本を捲る。えーと。ふむ、色々居るな。蜃にバハムート、アスピドケロンにヒッポカンポスに蛟とよくわからんヤツらばっかりだ。

 そのまま買って放流すると高いな。幼体的なのを放流するとしよう。蜃の稚貝を買ってポイと放る。あと稚魚に子蛇に馬魚。馬魚ってなんだよとなるところだが馬の魚である。亀になんかの卵に骨の魚とポイポイポイと放っていく。

 引っ込んだ神様的なのも蘇生できるようだが、多分住むとこないな。あと高い。そっちは今度にしよう。祠やらの壊されているものの修復はせずに新しいギルド拠点でちゃんとやったほうがいいだろうし。

 餌が何かわからないので魚の餌を取り敢えずばらまいておく。これでよし。よくよく育つのだぞ。この海を祝福してくれる!!


「クーヤくんなにか今やらかしてなかった?」


「してない」


 後ろから声を掛けられたが即答しておく。別になんもないぞ。ないったら!!

 爆弾設置が終わったらしい。覗き込んでいた海から離れてとっとこ走る。

 入れ替わるようにラムレトが海を覗き込んだが魚がばしゃばしゃと餌を啄むのを見て諦めたような仕草をしてから戻ってきた。


「ウーン、この暴れ方。モーレツゴッドすぎる」


「風どころか嵐みてぇなもんアルがこの世界にはそれぐれーが丁度いいであろ」


「立つ場所を間違えたら僕らも吹き飛びそうなあたりが特に面白いのはあるけどねぇ」


「それもまたよろし、ままならんものこそ面白しネ」


「九龍くんてギャンブル禁止系の男だよね」


「負けなければ問題無しヨ」


「ほんとに負けないから困る。……さて、時間だね」


「景気よくいくアルかぁ」


「どデカい花火と行こうか!!」


 九龍にひょいと抱えられた。どうやら爆破時間らしい。慌ただしく作業をしていた人達が船に撤収していく。よく見たら船が屋台船みてぇにされている。正気を疑う。爆発の様子を肴に飲み会をするつもりなのか。

 木箱にロープの類を海に投げ込みながら備品の類を倉庫の前に積み上げて手ぶらになったら乗船している。

 程なくしてそれも終わったらしく、船が港をすーっと離れ始めた。むむ、こちらは乗らないのだろうか?

 無人となった港を2人揃って眺めているだけだ。


「乗らないの?」


「ん、言ってなかったかな?

 彼らとは別行動だよ。船で大きく回って別の港に上陸後に自由都市に撤収。

 僕らはこのまま塩湖に直行だね。先に見ておかないといけないしキャンプしたいし」


「そういう事アルな」


 答えてから指を口に当ててヒュイ、甲高い音。指笛らしい。そしてその音に呼ばれるように来た時に乗ってた飛竜がばっさばっさと飛んできた。どうでもいいがラムレトの相棒は正面から飛んでくる姿があまりにも不気味すぎる。

 頭上まで飛んできたところで飛竜の着陸を待つ事なく、2人とも荷物を手にするとぴょんと飛んで飛竜の足を掴んでそのまま勢いをつけてぐるんと回って上に収まった。

 それはいいが私を掴んだままそういう動きは良くないと思う。あるいは事前に申告して欲しい。

 我がミニマムハートがたいへんにドキンコドキンコしている。私のハートは繊細なのであるからして。もっといたわれ。

 ラムレトが懐から何やら取り出す。どうやら魔石のようだが。指でごそごそとまさぐるときゅいーんとハウリング音が響く。拡声器、だろうか?

 トントンと叩いて音量確認。うおっほんと大きく咳払いをしてからおもむろにマイクのように口元へ。


「あーあーテステスマーインテス。ただいまマイクのテスト中ー」


「おお……?」


 拡声器によって拡張された音声は大音量ではあるが耳が潰れる程ではない。しかしその声は実際の音量に反して街中に響き渡った。

 あちこちに音源らしきものがある感じがしたので多分スピーカー的な魔石があちこちに設置されているのであろう。

 ラムレトの相棒はともかく、こちらの飛竜は大きな声で不快げに羽ばたいてぐるると唸ったが九龍がむんずと鼻面を掴んだ瞬間にぱったりと静かになった。脅すな。


「どもども、メルトアルストラムレトです!

 ご通知の通り僕はこの街から離れるので今からこの港のギルドも別の場所へ移転しまーす!!

 なんにも聞いてないよーという冒険者の皆さんはギルドのロビーにお知らせがあるのでご確認くださーい!

 併せましてギルド移転に伴いギルド所有施設だった港は解体し、ギルド所有の物も全て引き払いまーす!!

 ついでに僕も離れるし維持はしないので街は全部元の砂に戻りまーす!!

 住人の皆様におかれましては建物から離れて安全を確保してくださーい!!あ、この土地は別に好きにしていいよー!!

 はいそれでは今から1分後に崩れます!以上、メルトアルストラムレトでしたーーーーっ!!」


 満足したのか、持っていた魔石をひょいとこちらへ投げてきた。九龍がそれをキャッチし引き継ぐ。


「皇九龍ヨ。一応言っておくアル。我々の敵となった連中、のこのこ自由都市にくれば問答無用で殺すネ。自由都市じゃなくともどこのギルドでも一緒ヨ。

 後は好きに生きるよろし」


 それで告知は終わりらしい。ふむ、よし。九龍の手から魔石を奪い取る。喉をさすさすと擦る。我が暗黒喉の調子は良好。

 ウオッホン!!

 では。


「たんたーん、たたんたーたーたたん、たらたん、たんたーん、たんたーん!

 今まで当港をご利用頂き、誠にありがとうございます。当港は間もなく爆散のお時間となります。

 どうぞ皆様、お忘れ物のございませんようお気をつけてご出立下さい。

 たんたーんたたん、たーたー、たたん、たらたんー、たんたーんたんたーん!」


「うーん、感情としてはセンチメンタル的に色々あってもおかしくないのにその全てを吹き飛ばすように響き渡るとろあま幼女ボイスの蛍の光。

 こりゃあすぐ閉店作業しなきゃって使命感すら湧いてくるね」


「こうして聞くと砂糖掛け声アルなぁ。まぁ可愛らしは別として発狂ボイスアルが」


「声だけは可愛らしいんだけどねぇ……。これ何人か精神持ってかれてそう」


「コラテラル・ダメージいうやつアルよ」


「まぁ事故ということで。よし、じゃあやりますかぁ」


「嗯」


 飛竜達が高度を上げ始める。ラムレトがスフィンクスに魔石を与えて大きな防護布らしきものを被る。

 こちらも同じく飛竜に魔石を齧らせて九龍が荷物から引き出した分厚い外套を羽織り、足の間に収まる私をぼふんと後ろから覆った。爆破の衝撃に備えたのだろう。まぁ近距離だしな。

 魔石を食わせたのは何かしら魔法でも使わせるのだろう。ウルトに乗っている時にもフィリアかカミナギリヤさんか、多分精霊さんか自前の魔法かでなんかしてたようだし。

 そして私は熱唱し続けている。まだまだ歌いたいのだ!!

 ラムレトが高らかに指を掲げ───────────パッチンと音を立てて弾いた。

 瞬間、轟音立てて港が吹き飛び爆炎が上がった。輝く火の粉が空に舞い上がり、爆風により空を覆う雲に大きな穴が開いて空を赤く染める。

 街の全てが砂へ飲まれる。逃げ惑う人々がパニックを起こして千々に散っていく。

 言った通り、死人を出すつもりは無いようで建物は一気に崩れるという事もなくゆっくりとただ砂へと還り、飲まれていく。

 残っている物は砂ではなくちゃんと作っていたものなのだろう。しかし港町にあった真っ白だったものは実のところ全て砂で出来ていたようだ。

 こうして見るとこの港、元はただの白い砂浜だったのだ。ラムレトが浜辺に作った大きな大きな砂の城、それがクンツァイト港という場所だったのだろう。


「モンスターの街をお手本にしたマリーベルくんの物真似だけど、結構上手く出来てたじゃない?」


「見た目だけであろ。向こうは材質まで再現してたヨ」


「いやあれは無理だから。魔族の人って器用だよねぇ」


 港が吹き飛んだ後に出来たクレーターにはすぐさま海水が流れ込んでいき、大きな渦を作った。落ち着いたらいい感じの入り江になりそうだなぁ。

 ラムレトは元住人達に土地は別に好きにしていいよと言っていたが。これではもう1から開拓するのと何も変わらないな。

 しかも残るにしたってラムレトが居た頃の水準とはいかないだろう。ここにはもう何の価値もない。ギルドが撤収すれば付随する全てが無くなるのだから。

 まぁ頑張れ。ラムレトにおんぶに抱っこではいけないのだ。

 私は九龍に抱っこ状態で飛竜に乗っているが私はちゃんと弁えているので大人しくしているし九龍におやつだってあげている。

 これが世渡りというものなのであるからして。したり顔で頷いておく。


「それでは閉店のお時間でーす。皆様のまたのお越しを心よりお待ちしております!」


「……………………?」


 少しあれ?となった。

 なった後でふわーと思考を飛ばしておく。


「メルト、存外に好戦的アルからなぁ」


「エーン!」


 恐怖のあまり泣いてしまった。

 来たら問答無用で殺しまーすと言ってるのにその直後にまた来てくれよな!は明るいサイコパスだろ。

 借金踏み倒し文豪と見せかけて一見明るい極道だったらしい。こんな2人と私はキャンプをするのか?

 今からでも撤回出来ないだろうか。おうちかえりたい。



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― 新着の感想 ―
暗黒神ちゃんトロあまボイスなんだ…人の心が無い言動と合わさったらサイコパス味が半端なくて完全にホラーの域ですな
暗黒神ちゃん様の暴挙にギルド職員は怯え、古株は泡を吹いて倒れて……。おいたわしや。だのに暗黒神ちゃん様たらなーんにもわかんないし、九龍はそもそも他人なんざ知ったこっちゃねーなので周囲が怯え慄いていても…
港がナニカになりますね!さす暗!
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