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クンツァイト港食い倒れ旅行編~文化交流~

 ギルドから持ち出すもん持ち出して2人でコソコソと建物の影から影へと進む。コソドロ風呂敷を首に装備したラムレトとコソドロ風呂敷をほっかむりにした私の組み合わせで爆弾転がして進むのはよくよく考えるとただの強盗テロリストであるが気にしない。

 ちなみに風呂敷じゃなくてもラムレトがマジックバック的なアイテムを持っていたのでギルド移転に風呂敷は特に役に立っていない。まあそういうこともある。無駄のない無駄な物、味があるではないか。

 さっさと周囲を見回る。人影なし、ヨシ!

 スタコラサッサと転がし転がし、運動会もかくやとばかりに2人息を揃えて爆速で転がしまくる。港町と言うだけあって人は多いものの、そこはそれ。

 暗黒神ちゃんアイとラムレトセンサーにより今のところ華麗に避けることに成功している。もしかしたら私達は怪盗業務に向いているかもしれないな。今のうちに予告カードをデザインしておくべきか。悩ましいところだ。

 路地裏から表通りを盗み見ながらこの街の構造から何まで記載されているギルドの極秘扱いな地図を取り出してルートの確認。このまま真っ直ぐ行くのは中央通りに近すぎるな。別ルートにすべきだろうか。到着までの時間は伸びるが。


「うーん。まぁ見つかってもなんとかなると思うし、このまま突っ切っちゃおうか」


 いいのか?

 ギルド幹部が港を爆破させましたというのが知られるのはあまりよろしくないような気がするが。

 街を砂に還すのはそもそもラムレトが作ってんだから離れたら崩れますは道理であるしそこは言われても知らねと言えるだろうなとは思うけど。

 この街も港もギルドで1から作ったのだから別に爆破したっていいだろというのもそれはそうだが砂に還すのとわざわざ爆破しましたはちょっと距離があるというかなんというか。

 爆破したのがこちらとバレた上で更に暗黒神ちゃんボンバーで死者など出ようものなら後がめちゃめちゃめんどくさそうとも言う。

 どうにもこの街の住人は弱さを武器にするタイプというか、味方に居ると後ろから刺してくるタイプというか。なんかそんな感じなのだ。ちょっとだるそうだ。


「爆破で死人は出ないようにしておくつもりだしね。それに爆弾運んでるのが見つかっても九龍くんがなんとかすると思うよ」


「む?」


 首を傾げる。この場に居ないのになんとかってどうやってだ。首を傾げた私を見てラムレトがひょいと指を口に当てる。

 お静かに、ということらしい。


「………………?」


 指示された通りお口をバッテンにしてみる。数秒程待ったところで、微かに涼やかな金属音。

 ……そういやなんか廃船行くと言って離れた後でもギルドで聞こえてきてたなコレ。

 港爆破で死人は出ないけど運搬中の事故は有り得るってヤツでは。怖い。考えるのやめとこ。


「九龍くんこっちを意識から外してないみたいだからね。

 鈴音が聞こえてくるってようするに彼の間合いに僕らは居ますってワケで住人に見つかっても行方不明が出るだけだと思うよ」


「なんで答えを言うのさ……」


 聞きたくなかった。だから何がどうやってここまで間合いなんだ。ワケのわからん事を言わないで欲しい。というかそれはつまり私は常に間合いに居る。なにせこの鈴音が聞こえてこない時が基本ない。

 よし、聞かなかったことにしておこう。

 再びごろごろと爆弾を転がす。ぼちぼち約束の1時間も近いし、ちょっと急ぐとしよう。ゴロゴロゴロ。

 暫く歩けば大きな通りもやがて遠くなり、喧騒も聞こえなくなった頃合いにようやく港の姿が見えてきた。

 これならば時間に間に合いそうだ。

 大きな段差を乗り越えるべく、2人でよいせと転がした。

 勢い余って段差を乗り越えた爆弾がその先、下り坂にまでゴロンと転がる。


「「あっ」」


 2人で同時に声を上げた。上げたが既に爆弾は私達の手元から旅立ち、自立してしまった後である。私達に出来ることは特になかった。この坂道は最初は緩やかだが海に通じる陸路であり緩やかなのは最初だけで後は急勾配だ。

 ゴロンゴロンゴロン、音を立てて後は港まで降りるだけという坂道を爆弾が転がり落ちていく。

 一転がりする度に加速度的にそのスピードを上げながらだ。石や段差で時折ジャンプするように跳ねながら、爆弾はころころと転がってゆきます。

 幸いなのはこの辺りは全て既にギルド専用の輸送ルートとして使われている道であり、ギルド関係者以外に利用は許されていないということであろう。


「……………………」


 それを共に見送った後、互いを見つめ合って頷きあう。目撃者も居ないのだ、目立ったところで問題はない。それよりもあのまま転がり続けたらいつ爆発するかもわからない。それはヤバい。

 大急ぎでラムレトによじ登る。シャキーンとポーズを決めた。叫ぶ。


「我ら強盗テロリストは世を忍ぶ仮の姿、いざゆかん!コスモ級絶対究極合神!!」


 続いてビシャーンとポーズを決めたラムレトが叫んだ。


「バーーーーニング、ゴールデンブラックゴッドグランドコンパチオー!!!」


「略して!!」


「BGBGG!!」


「即ちバグバグG!!レッツゴーラムレトマン!!!」


「うん、字面が完全にゴキブリだね!!じゃあ走るよー!!」


「いっけーーーーーっ!!」


 砂埃巻き上げながら猛然と爆弾を追いかける。時折不自然に景色が途切れるのはどうやら空間をショートカットしているようだ。さながら水切りの如く物質世界と星幽世界を跳ねるようにして。

 次元的ノタリコンというかなんというかまぁ変な走り方である。

 しゅたたたたと転がり続ける爆弾を追いかけ始めて僅か数十秒で爆弾との並走になったあたりとんでもない速度だ。

 …………というかだ、これは……。


「もう道終わるね?」


「さらば暗黒神ちゃんボンバー!!」


 至極当たり前だが道は無限ではなかった。きゅきゅーっと急ブレーキ。この下り坂の終わりは船や資材の積み下ろしをするためのスロープである。

 障害物なども特に無いため、急ブレーキで止まった私達を置き去りにしてボンバーはそのままウォータースライダーを飛び出して行くが如くシュパアァアンと海へ解き放たれていった。

 涙を飲んでハンカチをふりふりとしつつ2人でスロープの終わり間際に並んで回転していることで海上を爆速で彼方へかっ飛んでいく爆弾を見送る。彼は帰ったのだ、帰るべき場所へ。


「さよーならー!!」


「お元気でー!!」


「何しとるネ」


「「はいすいませんでした」」


 音もなく背後に立っていたお偉いさんに揃ってスライディング謝罪である。

 我々は爆弾を喪失しました。

 今度は3人並んで海の彼方を眺める。もう爆弾は姿も見えない。どこまで行ったかも謎である。


「どうしよっか?」


「よし、今ここで起爆装置を押そう」


 スチャッとスイッチを取り出す。黄色と黒のシマシマ色に真っ赤なドクロの絵も眩しいデンジャースイッチである。BOM!と書いている。

 作った覚えはないがスイッチの裏に黒光りする雷マークが有るので多分こんなこともあろうかと悪魔が作って私の荷物に忍ばせたのであろう。


「ギャンブルすぎて草。僕らも吹き飛びそう」


「それは困る」


 巻き込まれるのはイヤだ。しかし回収は不可能だろう。爆破した方が後腐れないに違いない。ていうか爆破したい。

 街は砂で出来ているが港はちゃんと作っているらしいのでラムレトが砂の処理しても残るらしいし、爆破しない選択肢は存在しないというのもここで起爆スイッチを押す後押しをしている。

 指がもう押しそう。後もう少しで押しそう。ブルブルと震える指が最早辛抱たまらんとばかりにスイッチに触れそう。もう我慢の限界だ。


「没収アル」


「うぎーっ!」


 取られた。ぴょんぴょん飛び跳ねて取り返そうとするが全然届かない。なんてこった。

 九龍に飛びついていると、海の方を眺めていたラムレトがおやと声を上げた。


「む?」


 振り返ると、スロープから少し離れた場所にちゃぽんと顔が浮いていた。こわ。

 1つ、2つ、3つと数を増やしていく。こわいこわい。


「ありゃりゃ、これは流石に海で爆破は無しかなぁ」


「人魚族アルか……。諸共吹き飛ばすってワケにもいかねーアルなぁ」


 人魚、人魚とな。顔だけ突き出しているせいで人魚という単語から想起されるファンタズィーさが無い。いやよく見たら確かに海中にその身体がうっすら見えているが。美しい虹色のヒレが優雅に棚引いている。

 浮いている人魚さん達はぱく、ぱくと一斉に口を盛んに動かしはじめた。タニシみてぇである。

 奥の方からまた増えた人魚さんがざぶざぶと泳いできて、何か抱えていたものを見せるようにして寄せてきた。そのラメの輝くツヤ、はちきれンばかりのボディ、先程彼方へ旅立った我が子ではないか!!


「暗黒神ちゃんボンバー!!帰ってきたのか!!」


「危険物投棄勘弁してくれにしか見えねーアルが」


「いや草」


 どうやら一族の長らしい人魚さんが代表するかのようにこれまた優雅にスロープへと身を寄せてくる。

 黄金の目にキラキラと真珠の付いた翠の髪、碧の鱗がテリテリしていて大変にファンタズィーだ。あちこちに装飾品を着けているが海中仕様なのか変わった金属だな。カラフルな蛍光色に輝いている。

 全身から私マーメイドなプリンセスです感が漂っている。

 うーむ、人魚とはこうでなくてはな。


「ユークレース山脈に居たのとはだいぶちげーアルなぁ」


「こっちは熱帯魚って感じだねぇ」


 人魚さん達に何やら指示を出すようにぱくぱくとしている代表人魚さんがやがて海の中から何かを引き摺ってきた。

 古びた鉄箱のようなそれは海の中に長らくあったのか錆とフジツボがくっついている。どうやら受け取って欲しいということらしく波に合わせてスロープを登らせてくる。

 どうでもいいが暗黒神ちゃんボンバーは寄せただけで返そうとはしない。

 ラムレトがギシギシと軋む鉄箱を開く。水の侵入を防ぐべく箱全体が蝋で固められていたようで中身は無事のようだ。


「ふむ、だいぶ年代物であろうが爆弾みてーアルな」


「人魔戦争時代のっぽいね。これで勘弁して欲しいってことかな」


「えー」


 折角暗黒神ちゃんボンバーを作ったというのに。

 しかし住処を吹き飛ばされたくない人魚さん達はこれと交換して欲しいと持ってきたのであろう。まぁ実際人魚さん達が住んでるのが発覚してしまったのでもう吹き飛ばすわけにもいかない。

 仕方がないな。


「じゃあそれで……」


 シブシブとボンバーを諦めた。呟いた瞬間、ズバババババとボンバー抱えた人魚さん達が飛沫を上げながら沖へと泳ぎ去っていく。フィリア並の速度であった。

 鉄箱に入った爆弾とやらを眺めてみる。人魔戦争時代の遺物かぁ……。材質が黒い魔石で刻まれた模様が魔法っぽいあたり多分魔族製のものだが。ドワーフおっさんが真っ黒な魔石って見たことねぇと言っていたような。


「年代物っぽいアルが……威力に関しては心配いらなさそうネ。港きれーに飛ばせそうアルな」


「クーヤくんのはどう考えても威力過剰だったからねぇ。地形変わるくらいはって考えてたけど人魚の王家がすっ飛んできた辺り想定以上の被害ありそうだし。

 これなら表層だけ吹っ飛びそうでちょうどいいんじゃないかな」


 枝をフリフリしつつスロープギリギリに座り込んで残った人魚さん達を眺めてみる。

 ぷーかぷかと浮いている人魚さん達は肉声で喋ることは出来ないようだがお互いに意思疎通は出来ているらしく、互いに見つめ合ったり表情を変えたりと忙しない。

 マーメイドなプリンセスは興味深そーに九龍とラムレトや周囲の建築物を眺めてはスロープ上に落ちている人工物を手に取ったりとしているのでもしかしたら地上に来たのが初めてなのかもしれないな。

 はたと目が合った。すいーっと近付いて来て何やら渡してくる。なんだろ。


「おー」


 どうやらヒレに着けている装飾品の内の1つをプレゼントしてくれるらしい。太っ腹だな。お近づきの印にといったところか。繊細な形状をした虹色に光る金属にウォーターオパールっぽいのがぶら下がっている。高価そう。

 代わりに自由都市向けだった蓬莱の玉の枝な商品をあげといた。真珠ついてるしな。うむ、これぞ気持ちの良い交易というものであろう。寄り集まって皆で枝を眺め回している。気に入ったらしい。持ち帰るようだ。

 さらば人魚さん達。またいつか会おう!


「あれ放置していいヤツだと思う?」


「放置以外に何があるネ。好きにさせとくヨ。さっさと仕掛けて回ってとっとと片付けるよろし」



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― 新着の感想 ―
九龍じいさんが若作りなのって、カーチャン関係あるのですか? 異常に若作りなだけで寿命は他の人間メンバーと変わらないのでしょうか?肩こりとかあるし…
蓬莱の玉の枝 ありえないもの。存在しないもの。 サウナや交易に使われて良い説明文じゃなくて草
蓬莱の玉の枝……。マーメイドなプリンセス様、月のお姫様に求婚でもするのかな。
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