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433:名無しのパンドラー
ツイッターのトレンドランキング、ベスト6まで上がってる!
434:名無しのパンドラー
やったぜ、パンドラー!
435:名無しのパンドラー
我らパンドラーの草の根活動が、ちゃくちゃくと身を結んでますなー。
436:名無しのパンドラー
これは轟先生に伝わるのも時間の問題じゃないか? いや、案外、既に伝わっているのかも?
437:名無しのパンドラー
ありうる、ありうる。(^O^)/
438:名無しのパンドラー
おい、てめえら、ふざけんなバカヤロー共! てめえらが、『パンドラの契約者』を好きなのは結構だが、ちょっとは考えろ! ボクシングを語るスレに漫画の紹介載せる奴があるか⁉︎ いいか⁉︎ ボクシングを語るスレだぞ⁉︎ 竜司の右ストレートの凄さや、スダンとラムザ、戦えばどっちが強いかを語るスレだぞ⁉︎ そこに漫画の紹介? しかも、ボクシング漫画ですらねーじゃねーか⁉︎ 馬鹿か⁉︎ おかげでなー! 俺までパンドラーになっちまったじゃねーか、クソッタレ!!
439:名無しのパンドラー
wwww、最後で吹いた。
440:名無しのパンドラー
ようこそ、パンドラーの集いに!
441:名無しのパンドラー
ようこそじゃねーよ! いいか⁉︎ 押し売りはヤメろ! 紹介するにしても、節度を考えろ! それさえ守れば、俺だって周りにちゃんと紹介してやるからよ! じゃあ、あばよ!
442:名無しのパンドラー
怒りつつもパンドラファン。新しいな。
443:名無しのパンドラー
ツンデレパンドラー。(ぼそっ)
444:名無しのパンドラー
↑止めろ! コーヒー吹いたじゃねーかwww
445:名無しのパンドラー
駄目だ! もうツンデレにしか見えない!
446:名無しのパンドラー
折角だから、パンドラー、一覧表を作ってみた。
『始まりのパンドラー』動画のおっさん。全てはこのおっさんから始まった。
『漫画家パンドラー』始まりのパンドラーに雇われた漫画家。その画力は、もはや神レベル。様々な憶測が流れているが、始まりのおっさんと違ってアクションがないので、依然、その正体は謎のままである。
『古参パンドラー』元々、パンドラの契約者を知っていて、その打ち切りに泣いた奴ら。それだけに、漫画への入れ込み具合はハンパない。
『新参パンドラー』原作を知らず、漫画を見てパンドラの契約者のファンになった奴ら。新規だと侮ることなかれ、奴らの熱意は本物だ。
『お勧めパンドラー』主に、ネットで漫画紹介する者たち。
『ツイートパンドラー』主に、ツイートで漫画を紹介する者たち。
『リアフレパンドラー』主に、学校や職場で漫画を紹介する者たち。
『女性パンドラー』漫画の魅力は男女を問わない。女性のファンだって沢山いる。
『ツンデレパンドラー』悔しい! パンドラの契約者なんて全然、興味なかったのに⁉︎ でも見ちゃう!←イマココ。
447:名無しのパンドラー
最後でキモい!
448:名無しのパンドラー
キモいです。一度、○んだらどうですかー?
449:名無しのパンドラー
見て、つい笑った。その上であえて言うけど、キモい!
450:名無しのパンドラー
446だけど、自分でもキモいと思う。でも後悔はしてない。
451:名無しのパンドラー
wwww笑える……でもまあ、ツンデレ君の言う通りだ。あんまり、他所に迷惑をかけない様に宣伝しよう。
452:名無しのパンドラー
ラジャ!
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勢いが全く衰えない轟スレをサラッと確認して、律子はスマホから手を離した。
スレを見る前に、律子の作ったホームページを覗いて来たが、来訪者数は60万を超えていた。
24時間で15万。そして、今でほぼ48時間なのだが、60万。この分だと、明日のこの時間には来訪者数が100万人を超えてもおかしくない。
2日前の無名が、今じゃネットの時の人、いや、時の漫画か。
「ほんと、マジで化けもんだわ」
きっと、どっかの出版社が遠からず声をかけるだろう。それは最早、確信だった。
休憩を終えた律子は、ノートに次の動画の構想を箇条書きで書き連ねていく。
結局、また作ることにした。
今迄、ずっと目を背けていたのに。また、海の底で、誰にも省みられないかもしれないのに。
それでも、おじさんの漫画みたいに本物なら、何かがどうにかなるかもしれないという、誰かに何かが届くかもしれないという、そんな、あやふやで曖昧な思いに今の律子は突き動かされている。
もうおじさんの漫画は見ないとか、動画のアカウントを消すとか、そんな決意は、吹けば舞うホコリの様に何処かに飛んで行ってしまった。
ーーまずは、秋の街を撮ろう。紅葉に染まった街並みを撮って、それから……。
「ええい、くそ!」
乱雑な一人言に含まれている感情は、怒りだ。
そう、律子は今現在、物凄く怒っているのだ。
何に対して? 決まっている。律子を動画投稿者という険しく厳しい修羅の道に引きずり戻した全てに怒っている。
「イェーイさんめぇえええっ!」
感想をくれて、律子を動画の道に引き戻す決定打となった、4月から花の大学生活だイェーイさんの事を、律子は短く縮めてイェーイさんと呼んでいる。
ーーあんたのせいで、私、大変なんだからね⁉︎
そんな憤りを晴らすために、ことあるごとに、アカウントを開いて、イェーイさんの名前と感想を見ながら愚痴ってる。
決して、初めて貰った感想が嬉しくて、ついつい開いてしまう訳ではないから勘違いしないように。
「常盤のおっさんもぉおおおっ!」
あのおっさんも悪い。いい年こいて、なんの躊躇もなく夢を追う姿には、少なからず律子も影響を受けた。朱に交われば赤くなるとは、正にこの事だ。よってギルティ。
「おじさんも悪い!」
おじさんがあんな凄い漫画を作るからいけないのだ。あんな凄い漫画を見せられて、あんなにも大勢の人が動く様に魅せられて、律子はまた夢を見てしまった。
今時の若者は、テストだ進路だと現実と戦うだけでも大変なのに、全くもって罪作りなおじさんだ。
と、そんな風に怒りながら、それでも本気で動画を作ってる。
ーー秋の街並みから、冬の街並みに変わるまでを3日おきにとって、間にイベントを挟む。
ーー最初はゆっくりと、後半で飛ばす。
ーーえーと、カメラに脚立、……照明ライトは親から借りるとして、簡易スタジオは手製で作って……。
何かと物入りな女子高生。極力、お金はかけない方針だが、人手は必要だ。少なくとも、あと一人。
ーーどうすっかな?
3日おきに写真を撮るし、色々とやって貰うことがあってかなり面倒くさい。中々に頼みずらいものがある。
そう考えて、花梨の事が頭に浮かんだ。
「そういや、花梨が私に振ってきたんだっけ……」
律子が動画を再び作ることになったきっかけは、花梨の相談が発端だった。
なら花梨も悪い。
という訳で手伝わせよう。
そんな無理矢理な三段論法を頭の中で繰り広げていると、ふと、学校の中庭で相談を受けた時の、花梨の言葉を思い出した。
『もうね、読んだ人の世界を変えてしまう様な漫画だよ』
ーー…………あっ! あれは、そういうことか⁉︎
律子はあの言葉の意味を今更ながらに理解した。花梨が、強引にホームページの作成や動画製作を押し付けてきた理由も。
あれは顔も知らない誰かに向けた言葉ではなく、他ならぬ律子に向けたもので……。
「頼んでないっての!」
ドンと机を叩きながら叫んだ。
いや、でも、ホントに頼んでない。心の底から余計なお世話。ありがた迷惑も極まれり……だ。
そりゃ、ちょっとは、あんたに愚痴ったこともあったけど、それこそほんのちょっとで、そこまで落ち込んでた訳でもなかった筈だ。……多分、なかった筈だ。
なのに、スーパーおせっかいな花梨のせいで、私はまた修羅の道へと舞い戻ってしまった。
今更、花梨の意図に気付いたところで、律子の世界はすでに変わっていて、もう引き返すことなんて出来ない。
「あの、コンチクショウ! 馬鹿花梨! 何? 私がおじさんの漫画みたら投稿者はじめると思ったわけ⁉︎ また動画に関われば、投稿者はじめると思ったわけ⁉︎ 」
ここに居ない花梨に向かって律子は叫んだ。思い返せば、あれもこれも怪しく思えてきた。
『お願い、りっちゃん! りっちゃんしか頼れる人がいないの!』
「なーにが、私しか頼れる人がいないよ⁉︎ 実は他にもアテがあったんじゃないの⁉︎」
『いや、ネットに投稿するなら、りっちゃんかなって。私、りっちゃんのファンだし、今でもたまに見てるんだよ。……それにね、私、お父さんのこと信じているんだ』
「ああ、そうかい、そうかい、そうですかい。あんたはおじさんの漫画が私を変えるって、心の底から信じてたのか、クソッタレ! このファザコン! ドファザコン!」
幼馴染への罵倒が止まるところを知らない。
ーー花梨、あんたホントにファザコンだよ!
ーーもう日本一のファザコンだよ!
ーーきっと、あんたの将来の彼氏は苦労するよ!
ーーその誰かさんには、心の底から同情するよ!
そんな風に花梨への脳内罵倒を繰り広げていた、その時だ。
当の花梨から電話があった。
「はい! なによ⁉︎」
過去最大級にぶっきらぼうな第一声だったが、花梨は気にしなかった。というより、電話越しでも分かる程はしゃいでいた。
「りっちゃん! 来た! 来たよ! 〇〇出版さんから、お父さんの描いた『パンドラの契約者』を雑誌で掲載したいって! それに、轟先生とも会って欲しいって!」
「来たの⁉︎」
予想はしていたとはいえ、驚きは何一つ衰えなかった。一瞬、不機嫌さを忘れた。
「うん! 来たよ! 常盤さんの所に編集者の山崎さんが電話してきたの。この前は、ごめんなさい。謝るからウチで出版してくださいって」
「へー、それは良かった…………じゃ、ねーしっ!」
律子は、一時、忘れていたものを思い出した。
「はい?」
「花梨! このファザコン!」
「どうしたの、りっちゃん?」
「どうしたもこうしたもねーわよ! あんた、私を騙したわね⁉︎」
「えーと……心当たりが全くありません!」
「動画の件よ! あんた、私を動画の世界に引き戻すつもりで、私に協力を頼んだんでしょう⁉︎」
「ああ……なるほど……」
納得したような『なるほど』に更に声をあらげた。
「なるほどじゃねーわよ! どういうつもりよ、花梨⁉︎ なんでそんなことをしたのか理由を言ってみろ!」
律子の詰問に即座に返事が返ってきた。
「はい! 私、りっちゃんの動画の大ファンです! りっちゃんの動画は見た人を元気にしてくれる凄い作品だと思っています! そんな凄い作品を作れるりっちゃんが、 作品を作るのを止めちゃうのはもったいないです!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
いきなりの全肯定に律子は声を失った。頬が熱くなる。鏡を見なくても、自分の顔が赤くなっているのが分かった。
「あ……あんた……なん、いきなりそんなこと……」
動揺しすぎて、日本語にもなっていないような、律子の言葉の意図を花梨は正確に把握した。
「前はね、落ち込むりっちゃんに無理に期待をかけるのは良くないかなって思っていたんだけど、最近、とある人の影響で、好きなものには、ちゃんと好きって言うべきなんだって宗旨替えしたんだ。言葉にして、行動しなきゃ、なにも変わらないそうだよ」
「…………なにが、とある人よ。それ絶対、あのおっさんのことでしょ?」
「うん!」
弾んだ花梨の声に、内心でーーくそったれ! そう叫んだ。
いいように振り回されたようで悔しい。こう、少しぐらいはぎゃふんと言わせたい。
「花梨、私ね、もう一回、動画を作ることにしたの」
「おおう⁉︎ ホントに?」
「ええ、ホント。……で、人手が足りねーから花梨、あんた手伝いなさいよ。ーー言っとくけど、あんたに拒否権はないから」
最後の一言を、低く威圧するように言ったが、効果はまるでなかった。
「うん! 喜んでお手伝いするよ!」
「くっ! 嫌がりなさいよ、花梨!」
「え? なんで?」
「なんでって……ああ、もう!」
律子は花梨を一泡吹かせようとすることの無意味さを悟った。そもそも、半分くらい照れ隠しの様なものだ。
「とにかく! 花梨! あんた、私に言うべきことがあるでしょ⁉︎」
「言うべきこと?」
「そう!」
ごめんなさいとか、ごめんなさいとか、ごめんなさいとか、一言くらいはあんでしょうが!
「言うべきこと…………あっ! りっちゃん!」
「はい、何?」
「私のお父さん、凄くない⁉︎ もう、日本中を魅了しちゃう様な凄い漫画家なんじゃないかな⁉︎」
ち、が、う!
律子は全身の力が抜けた。
「………………花梨…………あんたって奴は……」
「はい?」
「ええい! この、ファザコン! いい⁉︎ あんたのこと、めっちゃこき使うからね! 1回や2回じゃねーわよ! 覚悟しときなさいよ! このバカ!」
絵田律子の、辛くて、苦しくて、でも楽しい創作活動は今日からが始まりだ。




