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Vendetta -復讐ー  作者: 水無月
22/28

一方的







「あっはははは、はははっ、はぁ…」



 華は、壊れたように笑った。まるで、面白くて仕方がないとでもいうように。

 その姿を、王は恐ろしいものを見るかのように見た。王子は、狂っているかと馬鹿にするように見た。佐々木は、不審なものを見てしまったとばかりに、顔を歪めた。


「はぁっ、面白い…実に、面白いわね…王、実に興味深い子息を持っているわね」


 言葉とは裏腹に、華は蔑むようにニンゲンを見る。五将は、そんな華を守るように囲んだ。


「や、やめてくれ!違うのだ!アレはもうわしの息子ではない!!」

「父上?!」

「王様?!」


 王の悲鳴のような叫びに、王子と佐々木は非難する声を上げた。言われた言葉に、王子と佐々木は驚きの声を上げる。

 そんなニンゲンを見て、華はくすくすと嗤う。そして一瞬で無表情になった。


「―――――不愉快ね」


 そう一言、華は零すと王と王子、佐々木とその側近たちを魔法を使って壁に叩きつけた。


「がはっ?!」

「うああっ…」

「ぎゃあっ」


 何人かは、運悪く骨でも折ったのか、血を吐いている。


「……み、ミキ、治癒、を…」

「いやぁぁあ、いたぃぃい!!!なんでぇ、なんであたしがぁあ!!」


 治癒を頼まれた佐々木は、自ら負う痛みに泣き叫んでいる。あまりの痛さで他人の声すら届いていないようだ。


「あ、あたしなんもしてないじゃない!!あんたを棄てたのはオルフェウスじゃない!!な、なんであたしまでっ、」


 顔をぐしゃぐしゃにしながら、華を睨みつける。そんな佐々木に、華は薄っすらと微笑んだ。


「だって、貴女、聖女でしょう?」


 なにを言っているの、とばかりに華は言う。そして黒いドレスをひらひらと舞わせながら、優雅に歩き始める。そしてカツンと踵を鳴らすと壁に叩きつけられた彼らの前に立った。


「ねぇ、オウジサマ?」


 王子は、余りの痛みに脂汗を浮かせながら華を睨みつける。自分という存在を、このような目に遭わせるこの女が、許せないと言わんばかりに。王は、朦朧とした意識のなか、必死に気絶しないようにしていた。下手なことを、言ってくれるなとばかりに愚息を睨みながら。





「ねぇ、だれが、たのんだの?」





 華は心底不思議そうに問うた。


「……は…?」


「私、ここに来たいなんて、頼んでないわ」


 その言葉に、王子が目を見開く。まるで理解できないとでも言うように。


「ねぇ、私、来たいなんて言ってないわ?なんで、あそこから私を連れ出したの?何故、私がこの世界を救わないとならないの?私の世界でもないのに?やるなら、貴方たちでできなかったの?そうよね、そんなに弱いものね。でもねぇ、なんで?なんで、私を棄てたの?あなたが、召喚びだしたくせに、なんで棄てたの?」


 華は不思議でしょうがないとでもいうように重ねて問うた。華の怒涛の問いに、王子は答える事が出来ない。しかし華は、答なんて必要としていなかった。


「まぁ、今更どうしようもないのだけどね」


 そういうと、華はアルバを呼んだ。


「はい、ハナ様」


「アルバ、ロロと一緒に外の兵士たちをお願いしてもいい?」


 華のその言葉に、アルバは笑みを零すと、深々と頭を下げて華の作り出した穴から外へと飛び出した。それに続くようにロロも巨体を外へと飛び出させる。


「な、なにを…」


 王ががたがたと震えながら喘ぐように言葉を漏らした。

 そして、ようやく(・・・・)王子たちは自分が誰を相手にしているかわかった。手を出してはならない相手というのを。彼らはやっと…いや、ついに気づいてしまったのだ。


「お、お前の望むものを用意する!!だ、だから…!!」


 顔から血の気を引かせた王が、華に向かって必死に言う。このままでは、王族は皆殺しだ。

 王はぞっとした。自分の代でまさか、このようなことが起こるとは。いっそオルフェウス達の命でどうにかならないものか。打算的な思いで華にそう声をかける。


「いらないわ」


 王のそんな思いをよそに、華はそう一言で返した。


「ならなぜ、こんなことを!!」


 王子が喚く。後ろでは佐々木が泣き叫ぶ声が聞こえる。側近たちはうめき声を上げ、他の人間は絶望に顔を染めている。

 そして華は少しだけ笑った。


「だって、なんであなたたちから貰わないとならないの?勝手に手に入れるのに」


 そう華は無邪気に言った。それにギルが続く。


「そうです、魔王様であらせられるハナ様が、ニンゲンから貰う等…ハナ様は望むものを望み、手に入れるのが当たり前なのです。それを…、与える…?」


 ギルは蔑むようにニンゲンを見る。

 かつて、こんなやつらに自分の最愛を傷つけられたのかと思うと腸が煮えくり返っているのだろう、その視線は凄まじいくらいに冷たかった。できることなら、自分が彼らに手を下したいと言っているのがすぐにわかる。しかし、それを華はきっと赦さないだろう。


「な、なんでよぅ…お、おなじ、世界から、きた、仲間でしょお…」


 そんな華に、佐々木は這いずる様にして近づいた。その顔は涙やら涎やらでどろどろになっており、先程までの小奇麗な姿はどこにもなかった。

 華は、足先までくるのをただ静かに見つめる。


「あ、あたし、しらなかったの、そんなことになってるなんて、だから、ねぇ、ゆるしてよぉ…!!あたし、なんもわることしてないぃぃぃいいっ!!!」


 佐々木は本気でそう思っていた。

 自分は何もしていない。華を捨てたのは王子たちで、自分は何の関係もないのだと。それは彼女が、幼く、小さな世界で生きてきたからこその言葉だった。







「なにも、してない…?」




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