サンタさんは何度でも
冒頭に暴力的表現があります。苦手な方は閲覧回避してくださいませ。
地中深く掘られた穴に向かって男たちが土をかけている。見る人があれば、何か良からぬものを埋めているとすぐに分かるだろうが、コンビニエンスストアも住宅も舗装された道路もない山中へ、日付が変わる寸前にふらりとやってくるような酔狂な人間はいない。
男たちは穴を掘った際に出た土をすべて埋め戻すと、急いで車に乗り、この場を立ち去った。
車のエンジン音が遠ざかり、そして聞こえなくなる頃合いで、埋め戻されたばかりの土は生き物のようにうごめき、そして。
「――ふう」
穴から、土まみれになってしまったおじいさん、すなわち私が這い出した。
「よいしょ、……っと」
男たちが私を埋めるために掘った穴は急ごしらえのくせに簡単には出られない程度の高さがあって、脱出するのにひどく難儀した。ただでさえふっくらとした体形の年寄りで運動とは無縁だというのに。
もじゃもじゃの白髪にもひげにもせっかくのサンタ服にも土くれやごみが絡んでいる。その上男たちにナイフであちこち刺されたり殴られたりしたため、全身に痛みもあった。せっかくのハレの日に、とんだ目に遭ったものだ。
まあ襲撃を受けたのはこれが初めてではない。前回は五〇年前だったかな、などと思っていると、空高くに逃げていたトナカイたちが私の元へと戻ってきた。どの子も心配そうにこちらを見ている。優しい子らのまなざしに、未遂とはいえ殺されたことへの衝撃もやや薄れた。
「お前たち、無事でよかった。――私なら大丈夫。さあ、仕事をはじめよう」
そう言って、私はボロボロと言って差し支えない身体を叱咤しつつ、ソリにまたがった。
きいんと澄んだ音がしそうな冬天をゆく。地上に住まう人間へまんべんなく贈り物を配る。本や人形といった物質であったり、形のないものであったり、そこは様々だ。
生きる希望のひとかけらを配るのが、私の仕事。悪い人間は、希望を取り上げた方が人を支配しやすいことを知っているので私のことを目の敵にし、時折こうして襲ってくるというわけだ。それゆえ、サンタクロースは不死を授けられている。不老でもなければ無痛でもないので、しばらくのあいだ痛みと恐怖が私の親友として寄り添うことになるのはつらいがね。
希望の種を蒔いたところですべてが発芽するでもない。今年はきれいに咲きそうだと思った矢先、乱暴に引き抜かれ、踏み荒らされるような世界情勢になったりもする。目をそむけたくなる惨状を、この長い人生で幾度も目にしてきた。
それでも、私は人間が好きだよ。
心のきれいな人だけの世界でなくていい。ずるくて弱いものもそうでないものも等しく私にとってはいとおしい存在だと打ち明けたら、幾人が信じてくれるかな。
上空から、先ほどの男たちの乗った車が見えた。みな、疲れて荒んだ顔をしている。彼らにも希望の種をまくと、不服そうなトナカイたちが駆けながらこちらを見上げてきたのでウインクをした。上手でないのは見逃しておくれ。
にぎやかな食卓、大切な家族、楽しい友人、素敵な恋人。美しい音楽、わくわくする物語、バカげた映画、夜通しのパーティー。暖かい部屋、安全な場所、爆撃のない夜、静かな朝。
いつか皆が、それらを手に入れられることを今年も祈りながら空を駆けた。
今宵の夢が、あなたにとっていいものであるよう。メリークリスマス!




