カラスの独り言
黒い艶やカな羽、丸い瞳。カつては神の使いであったというのに、今の世では忌み嫌われている存在。
それが俺たちカラス。
正直、そんなに嫌わなくてもよくない? 頭いいよ。ヒトの言葉分カるよ。だカら、カわいい女の子に「ヤダー、カラスこわーい!」なんて云われると、フツーに凹んじゃうもんね。そうそう、申し遅れましたが、俺元鈴木 広道っす。カラスも一人一人名前あるっす。
あっちでゴミのネットを上手にめくってんのは、元山田 昭雄さん。で、向こうの屋根の上でカーカー云ってんのが元佐々木 ハビエル 一郎君。カラス界もグローバル化カーなんて、そんなことじゃないんだなコレが。
俺たちカラスの前世は人間なんだ。だカら、名字には必ず元が付く。元+前世の名前っつーこと。ちなみに、知識も記憶丸ごと持ち越してる。
カラスがカしこい理由、分カっていただけた?
でもなー、脳みそん中はいくらカしこくても、カラスだからね、スマホもパソコンもいじれないのが辛いところではあるな。あと、バリバリ人間引きずってんのに虫とカ平気でつついて食うのも、ジレンマ感じちゃうな。
それに俺、まだ人間だったころに彼女だった子に未練ありまくりだし。
めっちゃ好きだったよ。今でも好き。鼻歌がビミョーなとことカ、目がちょっとばカし離れてて愛嬌のある顔とカ。
彼女、俺が死んでカら泣いて泣いて、このまんまこの子も死んじゃうんじゃないカって思うくらい、憔悴してた。見てらんなくって、思わずアパートのベランダに下りて『カーカーカカー』って声掛けちゃったくらい。
そしたらさ、あんなにしおしおしてたのに、彼女布団叩きもってベランダ出てきて、俺のこと猛然と追い払ったんだよね。あれはマジで殺しにカカってたね。
ああ、俺って分カんないんだな、当たり前カ、カラスだもんな、言葉通じないしなって、ちょっとばカし悲しカった。でも、嬉しカった。彼女のこと、ちょっとばカし元気に出来たカら。
ちなみに、その時のことは先輩カラスの昭雄さんとハビエルも見ていて、ぐるぐる旋回しながら『全俺が鳴いた!』ってすげーカーカー云ってたな。
それ以来、彼女はだんだんに元気になった。
朝の弱い彼女のためにモーニングコール代わりにベランダで鳴けば布団叩き持って出てくる。ぶんと唸る布団叩きカら逃げおおせれば、彼女の悔しそうな顔を見られる。
そうやって、いつまでも楽しくおいカけっこだけしていられればよカったんだけどね。
彼女、泣くんだよね。月命日になるとさ、またしおしおになっちゃうの、見てらんないよ。
泣くな、っていくら俺が云っても通じやしない。震える小さな肩を包んでやることも、好きな音楽を掛けてやることも、何にもできない。何にも。
だったら、賢さなんていらなカった。彼女と何のカカわりもない、前世の記憶もない、ただの生き物でありたカった。
ガラスに隔てられて、雨に打たれて、俺は何でここにいるんだろう。
ま、そうはいっても誰にでも平等に時は降り積もる訳ですよ。カラスの元鈴木広道にも、彼女にも。
長い時間を掛けて、彼女の中で鈴木広道は過去の存在に成り果てた。
新しい恋もして、もうすぐ今の彼氏と結婚する。そして、鈴木広道との思い出のつまったこの町カら飛び立つのさ。
それを見送ったら、きっと俺もそろそろ現世とおさらばだろう。昭雄さんもハビエルも一抜けしたしね。
次は何になろうカなあ。何にでもなれる気がするな。
風もいいな。そしたら、暑がりな彼女のために、俺はずっと側でそよそよしちゃうね。なんなら、未来の旦那と子供にだってそうしてやってもいい。
犬もいいカな。むぎゅっとハグしてもらえるだろうしな。でもまた彼女より先に逝って悲しませちゃうのはやだな。
こんな風に、まだまだ彼女のことばっカ考えてるうちは、カラスでいるのカもな。ま、いいさ。
部屋を出ていくその日の朝も、俺の声で起こしてやるよ。何云ってっカちょっとばカしも伝わんないと思うけど。
愛してるよ。
大好きだよ。
先に逝ってごめん。
しあわせになれよ。
好きだ。好きだ。好きだ。ずっと好きだ。
そんな風にいつにもましてカーカー云ってたら、やっぱり布団叩きでぶっ叩カれそうになって、慌てて飛んで逃げたよ。昭雄さんとハビエルがいたら、『全俺が鳴いた!』ってまたうるさく旋回しそうだったな。
「ほんっと、最後までにくったらしいカラス!」って般若顔で云われちゃった。ハハハ。
新しい街でも、その調子で元気でね。忌々しいカラスのことなんカ、早く忘れるんだよ。




