49.安全な利用法があり価値があるなら、モンスターのウンコだとしても構いやしない
「僕が使える魔法は今のところ二つ、どんな魔法かは、実際見てもらった方が早いと思う」
本当は三つだけど、【暗雲】ダークネスについては未だに使い道がわからないので除外する。
「講習で暴走させた魔法は、封印してもらって出力調整できるようになったけど、大雑把な調整しかできないし、魔力消費が激しいから、本当に危険な時にしか使いたくない」
ブラックホール小なら、連発しても滅多なことで魔力切れにならなくなってきたけど、接近しないといけないから、動き回るようなモンスターには使えない。
ブラックホール中なら四発が限界だし、ブラックホール大だとまだ二発が限界だ。それに大抵のモンスターは跡形もなく消えるかグッチャグチャになるから、儲けを考えてもあまり使いたくなかった。
「もう一つの魔法は攻撃系じゃなく移動系だ、使う時はネニトスにも灯りを控えてもらう必要があるかも」
「俺も少し風魔法が使えるけど、アタッカーかタンクがメインだから、攪乱や囮役になってくれるならやりやすいかな」
結局はやってみないとわからない。二人だし、明確な目的があるわけではないから、細かい作戦を立てるのは無意味だ。
とりあえずルートとざっくりした役割分担だけ決めて、僕らはダンジョンの入り口に向かった。
一階層へ下りる階段はもう何度も使っているのに、僕はちょっと緊張していた。
それはネニトスにも伝わったらしい。
「二階層からは一気にダンジョンらしくなるからな、ちょっとレベルアップした感あるよな」
ネニトスはもう第一ダンジョン二階層以下に潜り始めて半年は経つけど、初めて踏み込んだ時はやっぱり緊張したらしい。
「うん、楽しみだ」
僕はまだダンジョンらしさを実感したことはないけど、なんとなくわかる。
初級ダンジョンとか、第一ダンジョン一階層は、確かにダンジョンらしさがないのだ。雑魚モンスターがよくいる場所くらいの感覚だ。
実際のダンジョンはモンスターが多いのは勿論のこと、他にも地上にはない魔法植物が生えていたり、希少鉱物の結晶や宝石が落ちていることもあるらしい。
深くなればなるほど魔力が濃くなるために、魔力が固まって鉱物や宝石が生成されていると言われているが、モンスターの排泄物だという説もある。
まあ言ってしまえば、そこらの土だって微生物のウンコだ。安全な利用法があり価値があるなら、モンスターのウンコだとしても構いやしない。
そういう、モンスター以外の収穫物が出て、初めてダンジョンらしくなったなと実感できるらしい。
一階層は慣れたもんなので、階段を下りて真っ直ぐ二階層への階段を目指す。
左側は人が多いから避けていたけど、僕らと同じように二階層を目指す冒険者がちらほらいる。中には冒険者らしからぬ人の集団もいる。恰好からして学者っぽい。
「人多いな」
「ここはまだ未踏破のダンジョンだからな」
「ああ、そう言えば、講習で聞いたな」
未踏破のダンジョンとは、ダンジョンの発生原因や魔力元が解明されていないダンジョンのことだ。
ダンジョンは強大な魔力を持つものがある場所、もしくは大量の魔力が集まる場所に自然発生すると言われている。
遺跡型ダンジョンは、古代遺跡に残されたオーパーツみたいな魔道具が魔力元だった事例があるので、このルビウス第一ダンジョンも同じだろうと予想されている。
他には、伝説級のドラゴンの骸が魔力元だったり、地形的条件が合致して魔力溜まりができていたり、ダンジョンの発生と成長の要因は様々だ。
中には、ダンジョンの最深部に謎の大穴があったが、発見された時点でダンジョンが崩壊して、穴も埋まってしまったなんて記録もある。
結局、いくら掘り返しても謎の穴は見つからず、死後の世界に繋がっていただの、神の国へ繋がっていただの、御伽噺みたいな憶測だけが残っている消失ダンジョンである。
踏破されたら消失してしまうダンジョンもあれば、そのまま残るダンジョンもある。
危険がある場合は、原因を取り除きダンジョン消失を目指すこともある。しかし、地形的な魔力溜まりなどは解消する術がないし、ダンジョンは資源の宝庫なので、踏破した後も共存していく方が多い。
ちなみに、初級ダンジョンことルビウス第二ダンジョンは、発生原因は地形的魔力溜まりなので、大した資源も採れず、害獣の住処になるというデメリットの方が多いのに、消失させるのは難しいという微妙に厄介なダンジョンだ。
しかし、多くの場合、ダンジョンを解明するのは人類のロマンだ。
ダンジョンを生み出すほどの魔力元を手に入れれば国全体が富むし、魔力元がないとしても、ダンジョンができた仕組みや内部構造を解明すれば、新たな魔術を開発する糧になる。
「そう言えば、隣国から迷宮研究の学者が来ているらしい、たぶんあの集団だろうな」
ネニトスが少し前を行く学者っぽい連中を指さす。
よく見ればみんな若いから、学者ではなく学生とか助手なのかもしれない。おそらく、その前後にいる冒険者たちは彼らの護衛として雇われているのだろう。
「普段よりも人増えてるかな?」
「かもな、でも研究が目的なら雑魚モンスターを片付けてくれるから、俺たちには都合が良い」
なるほど、迷宮を解明するなら壁や天井などの構造物の観察もするだろうから、護衛の冒険者たちは普段は相手にしない雑魚モンスターも逐一倒してくれるのか。
ルビウスのダンジョンはこの地の領主が管理しています。場所によっては国が管理しているダンジョンもあります。
共存ダンジョンは核を破壊するなど消失させることを犯せば厳罰に処されます。
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